イラストで見るEBPTの実践
第1回 「EBPT はじめの一歩」

3. EBPTの実践

超音波治療器がそばに置いてある治療室で、先輩PTが新人PTに指導を行っている場面
ステップ1:疑問点の定式化
先輩PT:
まずは、ステップ1の疑問点の定式化をPICOに基づいて行うことにしましょう。
PICOとは、
P:どのような患者に、
I:どのような介入を行ったときに、
C:何と比べて、
O:結果がどうなのか?
というように、臨床的な疑問を調べやすい形に整理する作業です。
新人PT:
はい、分かりました。
○○さんの状態から、今の疑問点に関するPICOは、
P:変形性膝関節症の慢性的な痛み、
I:連続波の超音波療法、
C:パルス波の超音波療法、
O:疼痛軽減効果、
で設定してみたいと思います。
ステップ2:疑問点に関する情報の検索
先輩PT:
それでは、次に、関連する情報を調べてみましょう。
情報には、原著論文などの一次情報と、それらを系統的にとりまとめたシステマティックレビュー(系統的総説)という二次情報があります。
忙しい臨床現場で効率よく担当患者さんの臨床的疑問に関する情報を把握するためには、システマティックレビューやメタ分析を探すことが効率のいい検索のしかたです。
新人PT:
はい、分かりました。それでは、自分なりに調べてみます。
(新人PTがPubMedのClinical Queryで、OA knee and pain and ultrasoundというキーワードでエビデンスを調べる)
PubMedのClinical Queryで、OA knee and pain and ultrasoundというキーワードでエビデンスを調べる
新人PT:
メタ分析に基づいて超音波療法の効果をまとめたシステマティックレビューが見つかったので、この内容をみてみることにしよう。
(新人PTが"Efficacy of ultrasound therapy for the management of knee osteoarthritis: a systematic review with meta-analysis"の要旨を翻訳する)
新人PT:
メタ分析に基づいて超音波療法の効果をまとめたシステマティックレビューが見つかったので訳してみたら、パルス波を用いた低出力での超音波療法が連続波を用いた高出力の超音波療法よりも効果的であると述べられていました。
先輩PT:
そうですか。
今回は質の高いエビデンスが見つかりましたので、ステップ4の患者さんへの適用の検討にジャンプできますが、もし、原著論文しか見つからなかったときには、ステップ3で批判的吟味(critical appraisal)を行う必要がありますので、その方法についても勉強しておきましょう。
新人PT:
はい、分かりました。よろしくお願いします。
ステップ3:得られた情報の批判的吟味(critical appraisal)
先輩PT:
先ほどお話ししたように、システマティックレビューなどの二次情報を得た場合には、専門家によって内的妥当性が吟味されているため、自分が設定したPICOと二次情報の結果との整合性の程度を確認した上で、ステップ4の患者への適用についての外的妥当性を検討することになります。
しかし、原著論文の場合には、その文献の内的妥当性を批判的に吟味する必要があります。
一次情報の内容を批判的に吟味する場合のポイントは、以下の通りです。
研究デザインのレベルの高さ
PEDro scale等の批判的吟味の基準の程度
・症例数は十分に多いか→サンプルサイズ
・対象者の85%以上が介入効果の判定対象となっているか
・脱落者を割り付け時のグループに含めて解析しているか→治療企図解析(ITT解析)
統計的解析方法は妥当であるか
・結果と考察との論理的整合性が認められるか
・フォローアップは十分に長く行われたか
・臨床的アウトカムが評価指標(エンドポイント)とされているか
・理学療法の介入によるマイナスの影響についても報告されているか
この段階で重要な点は、闇雲に論文の質的な問題点を列挙するのではなく、臨床上の疑問を解決する上で、その論文が根拠になり得るかどうかを検討することです。
新人PT:
ありがとうございました。今後、原著論文の内容を吟味する場合に、このようなチェックポイントに基づいて行っていきたいと思います。
ステップ4:得られた情報の患者への適用の検討
先輩PT:
それでは、先ほどのシステマティックレビューの内容を今回担当した外来患者さんに適用できるかどうか検討してみてください。
ステップ4では、入手した情報の内容を実際に患者さんに適用するかどうかを検討します。
検討する上でのポイントは次の通りです。
1.エビデンスの臨床像は自分の患者に近いか?
2.臨床適用が困難と思われるような禁忌事項や合併症などのリスクファクターはないか?
3.倫理的な問題はないか?
4.自分の臨床能力として実施可能か?
5.自分の施設における理学療法機器または設備を用いて実施可能か?
6.カンファレンスなどにおける介入計画の提案に対してリハビリテーションチームとして合意が得られたか?
7.担当理学療法士からの説明に対して患者の同意が得られたか?
新人PT:
それでは、このチェックポイントに基づいて適用を検討してみます。
1.エビデンスの臨床像は自分の患者に近いか?
→このシステマティックレビューに含まれている臨床研究の対象者は、本症例と同年代の女性であるとともに、症状も本症例と同様に中等度の変形性膝関節症の患者でした。
2.臨床適用が困難と思われるような禁忌事項や合併症などのリスクファクターはないか?
→治療中および治療後における臨床的な問題はないと述べられていました。
3.倫理的な問題はないか?
→超音波療法を適切なモードを用いて治療することについては倫理的な問題はないと思います。また、患者さんに対する十分な説明を行い、同意を得た上で治療することが必要だと思います。
4.自分の臨床能力として実施可能か?
→この治療法は私が行うことができると思います。
5.自分の施設における理学療法機器または設備を用いて実施可能か?
→超音波治療器は当院の理学療法室にありますので実施可能です。
6.カンファレンスなどにおける介入計画の提案に対してリハビリテーションチームとして合意が得られたか?
→先日の外来カンファレンスで報告したところ、主治医の先生から承諾が得られました。
7.担当理学療法士からの説明に対して患者の同意が得られたか?
→前回おいでになられたときに論文の内容も含めて私の方から説明を行い、患者さんには同意していただきました。
治療室でクリップボードを手にした新人PTが、対象患者の治療を開始する前に、エビデンスを○○さんに適用する検討結果を反芻している場面

ステップ5:プロセスおよび適用結果の評価

先輩PT:
それでは、今回担当した外来患者さんに対して実施したステップ1からステップ4までのプロセスを振り返って、妥当性の問題や反省点がないか整理してみましょう。また、実際にパルスモードで低出力の超音波療法を患者さんに適用した結果の効果について評価してみてください。
そのような振り返りと効果判定を行うことで、次に担当する患者さんに対するEBPTの進め方がより適切なものに進化していくと思いますよ。
新人PT:
はい、分かりました。これまで進めてきたEBPTのステップの振り返りと変形性膝関節症の患者さんに実施した超音波療法の効果判定を行うことにします。
いろいろとご指導ありがとうございました。

第1回 「EBPT はじめの一歩」 目次

2011年04月25日掲載

PAGETOP