EBPTワークシート
第1回 「脳卒中右片麻痺者の歩行」

鹿教湯三才山リハビリテーションセンター鹿教湯病院
馬場孝浩

基本情報

患者氏名
 
年齢
70代前半
性別
女性
現病歴
右半身麻痺、言語障害が出現、急性期病院を受診し検査した結果、左被殻出血と診断される。病日40日目に、当院回復期リハ病棟に入院。
既往歴
腰椎圧迫骨折、両変形性膝関節症

理学療法評価概略

12段階片麻痺グレード
右上肢1手指0下肢2
感覚
右表在・深部感覚ともに脱失
高次脳機能
注意障害(+)、運動性失語(+)
ROM制限
右股関節伸展10°、足関節背屈5°
Berg Balance Scale
5(56点中)
動作能力
起き上がり、移乗中等度介助。
平行棒内立位・歩行は、長下肢装具使用して中等度介助。

ステップ1.PICO の定式化→ クリニカルクエッション

Patient(患者)
発症後2ヶ月経過し歩行に介助が必要である脳卒中右片麻痺患者
Intervention(介入)
部分免荷トレッドミル歩行練習
Comparison(比較)
免荷なしのトレッドミル歩行練習
アウトカム(効果)
バランス能力、歩行速度・距離の向上が図られるか

ステップ2. 検索文献

checked一次資料unchecked二次資料

検索式
PubMedにてキーワード「body-weight-supported treadmill training stroke」Limits;Randomized Controlled Trial,Aged:65+ years ,published in the last 10 yearsで検索した結果、4件ヒット。その中から、本症例のPICOと合致した文献(下記参照)を採用した。他の文献は、比較する介入方法がマシンによる筋力強化やホームエクササイズであることや対象が慢性期であることから本症例とは合致しない。
論文タイトル
Optimal outcomes obtained with body-weight support combined with treadmill training in stroke subjects
著者
Hugues Barbeau, PhD, Martha Visintin, MSc
雑誌名
Arch Phys Med Rehabil.2003;84:1458-1465
目的
脳卒中患者に対する部分免荷トレッドミル歩行練習と免荷なしのトレッドミル歩行練習の効果を比較するとともに、平地での歩行能力の向上につながるかを明らかにする
研究デザイン
RCT
対象患者
脳卒中患者100人(発症後平均約70日経過)
介入
ハーネスにて体重の10-40%を免荷する群(BWS群)と免荷しない群(no-BWS)とにランダムに割り付け、各群とも通常の理学療法に加えてトレッドミル歩行練習を週4回6週間実施した。各セッションでのトレッドミル歩行時間は、20分以内を3試行とした。
主要評価項目
Berg Balance Scale、運動回復段階、平地での歩行速度と耐久性
結果
治療6週間後、BWS群がno-BWS群に比べてすべての評価項目で有意に向上が見られた。さらに、BWS群の中で65歳~85歳においてトレッドミル歩行練習の速度向上が平地歩行速度向上につながっていた。
結論
部分免荷トレッドミル歩行練習が免荷なしで行うトレッドル歩行練習よりも脳卒中患者(特に高齢者)の歩行能力を効果的に高めるという結果であった。また、トレッドミル歩行練習は平地歩行能力向上につながる。

ステップ3. 検索文献の批判的吟味

  • 割り付け時の対象者の85%以上が介入効果の判定対象となっている
  • 脱落者を割り付け時のグループに含めて解析している→治療企図解析(ITT解析)

ステップ4. 臨床適用の可能性

  • エビデンスの臨床像は自分の患者に近い
  • 臨床適用が困難と思われるような禁忌条件・合併症等のリスクファクターはない
  • 倫理的問題はない
  • 自分の臨床能力として実施可能である
  • 自分の施設における理学療法機器を用いて実施できる
  • カンファレンス等における介入計画の提案に対してリハチームの同意が得られた
  • エビデンスに基づいた理学療法士としての臨床判断に対して患者の同意が得られた
  • その他

入院後3週間の歩行練習では、平行棒内で長下肢装具を使用しながら短距離を行う程度に留まっていた。そこで今回、歩行の難易度を適切に調整することができる部分免荷トレッドミルトレーニングを取り入れることで、より多くの反復練習が期待でき、本症例の歩行能力向上に有益であると考えられた。

 
具体的な介入方針
通常の理学療法を行いながら、部分免荷トレッドミルトレーニング(免荷40%)を週4回以上3週間実施する
注意事項
患者の疲労やバイタルの変化を確認し過負荷に注意する

ステップ5. 適用結果の分析

患者は、部分免荷トレッドミル歩行練習に意欲的に練習に取り組んでおり、計画通り実施できた。実際に実施した時間とトレッドミル速度は、平均7分33秒、時速0.68㎞/hであった。トレーニング後には、FBS、歩行速度、耐久性ともに向上が認められた(下表)。
  トレーニング前 トレーニング後(3w後)
Berg Balance Scale 5 26
10m歩行速度 37秒68 29秒40
連続歩行距離 10m 50m
 
ステップ1から4までのプロセスを通して、大きな問題は生じなかった。PICOに適合した文献を円滑に見つけることができたことが大きな推進要因となった。ただし、ステップ2の文献検索とステップ3の批判的吟味は原文を翻訳しながらの作業のため時間がかかった。当院では文献で示された介入方法を実施できる設備が利用可能だったため、具体的介入の成果を確かめることができた。

第1回 「脳卒中右片麻痺患者の歩行」 目次

2011年12月05日掲載

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