EBPTワークシート
第1回 「脳卒中右片麻痺者の歩行」 解説

鹿教湯三才山リハビリテーションセンター鹿教湯病院
馬場孝浩

ステップ1. の解説: PICO の定式化

Patient (患者)は、疾患、病日、歩行能力を含む内容で記載しました。年齢、性別、麻痺の重症度などを加えることで患者像をはっきりと示すことができますが、はじめから患者の障害像を細かく設定すると、検索して得られる該当文献が少なくなることが予想されます。一方で、少ないキーワードで検索して抽出した文献数が多すぎる場合には、キーワード数を増やす柔軟な対応が求められます。Intervention(介入)Comparison(比較)は、トレッドミル歩行練習においてそれぞれ免荷あり、免荷なしとしました。Outcome (効果)は、バランス能力、10m歩行速度、歩行の耐久性であれば、臨床の現場で簡便に評価できると考え選択しました。他には、歩行の自立度を効果として調べたい場合もあると思いますが今回は省きました。

ステップ2. の解説: 検索文献

PubMedのLimits機能を用いることで、比較的スムーズに目的とする文献を見つけることができました。今回は、RCT、年齢が65歳以上、過去10年以内の文献という3つの制限をかけることで4件がヒットし、その中に自分の知りたい情報を含んだ文献を見つけることができました。キーワードの選択では、「BWSTT」と「body-weight-supported treadmill training」でそれぞれ検索したところ、略語の方がヒット数は少ないという結果でした。また、「stroke」と「hemiplegia」でもヒット数は異なりました。キーワードの選択がうまくいかず文献がヒットしない場合には、キーワードの変更が必要です。そこで、役立ったのがMeSH termの検索、またはライフサイエンス辞書オンラインサービスなどで関連語を検索するサイトです。

ステップ3. の解説: 検索文献の批判的吟味

今回の文献では、ランダムに免荷ありとなしの群に振り分けられていること、各群のベースラインが近いこと、対象が50名ずつと比較的多いことが研究デザインとして良い点と感じました。盲検法(ブラインディング)は、患者と治療者にはされておらず評価者のみでしたので、一重盲検にチェックを入れました。また、「割り付け時の対象者の85%以上が介入効果の判定対象となっている」については、免荷あり群は86%が完了していましたが免荷なし群で完了したのが72%であったため、チェックの条件を満たしていませんでした。そして、「脱落者を割り付け時のグループに含めて解析している」という項目は、ITT解析はしていないと本文に記載がありチェックしませんでした。

ステップ4. の解説: 臨床適用の可能性

7つの項目全て確認したところ問題なくチェックが入りました。また、BWSTTの実施中には、本人の拒否がないか、日常生活に影響が出る疲労が起きないかPT担当者が注意しながら確認を行っていました。練習中の免荷量、歩行速度と距離の設定については、該当文献で示されていることを参考にして行いましたが、免荷量と速度どちらを優先して変更していくかについては文献に記載がなく、担当セラピストの判断で行っていた部分がありました。

ステップ5. の解説: 適用結果の分析

EBPTの手順のステップ1から4まで実際に行ったプロセスを振り返ってみると、ステップ2で文献を検索することと、ステップ3で英文を翻訳しながら批判的吟味をすることに時間がかかってしまうのが現状です。それでも、根拠に基づいた理学療法を実践でき、結果として患者さんのバランスや歩行能力向上が図れたので、EBPTワークシートを活用して臨床判断過程を整理したことが良かったと実感することができました。患者さんの限られた入院期間中に最良の治療を提供するために、これからもEBPTの基本である5つのステップの手順をできるだけ実践していきたいと思います。

第1回 「脳卒中右片麻痺患者の歩行」 解説 目次

2011年12月05日掲載

PAGETOP