EBPTワークシート
第2回 「脳卒中片麻痺患者の痙縮による足関節背屈制限」

鹿教湯三才山リハビリテーションセンター鹿教湯病院
馬場孝浩

基本情報

患者氏名
 
年齢
50代前半
性別
男性
現病歴
路上で倒れているところを発見され、急性期病院へ救急搬送。同日、左中大脳動脈閉塞と診断され、頭蓋内血栓溶解術、経皮的血管形成術を施行。病日35日目に、当院回復期リハ病棟に入院。
既往歴
特記事項なし

理学療法評価概略

Brunnstrom Motor Recovery Stage
右上肢Ⅰ手指Ⅰ下肢Ⅰ
 
感覚
右表在・深部感覚ともに重度鈍麻
高次脳機能
失語(+)、注意障害(+)
ROM制限
右足関節背屈5°(膝伸展位)
Berg Balance Scale
14(56点中)
動作能力
起き上がり、移乗中等度介助。
歩行は、長下肢装具使用して重介助。

ステップ1.PICO の定式化→ クリニカルクエッション

Patient(患者)
足関節底屈筋の痙縮により背屈制限を有する脳卒中片麻痺患者
Intervention(介入)
ストレッチと超音波療法を組み合わせて実施すると
Comparison(比較)
ストレッチのみと比較して
アウトカム
足関節底屈筋の痙縮の軽減、背屈角度の改善が得られるか

ステップ2. 検索文献

検索式
PubMedにてキーワード「ultrasound spasticity ankle」Limits;Randomized Controlled Trialで検索した結果、2件ヒット。どちらも本症例のPICOに研究内容が近いが、発行年数が新しい、対象者数が多い、関節角度を比較している、という理由から下記の論文を選択した。
論文タイトル
Efficacy of therapeutic ultrasound in the treatment of spasticity: a randomized controlled study.
著者
Sahin N, Ugurlu H, Karahan AY.
雑誌名
NeuroRehabilitation. 2011;29(1):61-6
目的
足関節底屈筋の痙縮に対する超音波治療の効果を調査する
研究デザイン
RCT
対象患者
発症から1年以上経過し、年齢は18歳以上、痙性の評価であるmodified Ashworth scale(MAS)が足関節底屈筋で2または3である脳卒中片麻痺患者46名。病状が不安定、鎮痙薬の服用、異常感覚、極度のうつ症状、尿路感染、循環器系の問題がある対象は除外した。
介入
対象者を、超音波療法とストレッチを組み合わせて行う群(combined treatment group=CTG)とストレッチのみ行う群(stretching group=SG)へ23名ずつランダムに振り分けた。ストレッチは、毎回同じセラピストにより背臥位で下腿後面の筋を伸ばし患者が軽度不快感を感じる角度で約15秒保持した。1日に10回、週5回4週間実施した。超音波は、ストレッチ前に、下腿後面の筋に対して強度1.5W/㎠の連続波を10分間照射した。なお、導子の面積は5㎠とした。
主要評価項目
足関節底屈筋のMAS、背屈角度、電気生理学的評価としてHmax/Mmax、Brunnstrom Motor Recovery Stage、FIM
結果
治療前後での比較は、両群ともMASと背屈角度は有意に改善がみられたが、その他の評価項目については差がなかった。群間の比較では、どの評価項目も差がなかった。
結論
群間比較で差が認められなかったことから、超音波療法により痙縮の軽減、背屈角度の改善があるとはいえない。しかし、超音波療法の温熱作用により、筋の粘弾性の変化、痛みの軽減などが期待できるため、ストレッチと同時に行うことで効果が期待できると考えられる。

ステップ3. 検索文献の批判的吟味

  • 割り付け時の対象者の85%以上が介入効果の判定対象となっている

ステップ4. 臨床適用の可能性

7つの項目全て確認したところチェックが入りました。超音波療法を感覚が鈍麻している片麻痺の症例に実施する際の注意点として、文献には、異常感覚がないこと、必ずジェルを使用して超音波を照射することの記載がありました。それらに加えて、症例の自覚症状や皮膚の発赤などの異常がないか確認し、介入による弊害がない範囲の強度で実施することが重要と考え注意しました。具体的な介入方針では、文献では超音波を行ってから、背臥位で15秒ストレッチを実施するとの記載があったのですが、考察にてストレッチをしながら超音波を照射するとより効果があるのではとの記載があったため、起立台にて行うこととしました。その他、実施時間、頻度、超音波の設定は、文献の内容を参考にして行いました。

ステップ5. の解説: 適用結果の分析

自分の疑問に即したPICOに近い1つの文献を入手し、介入後の効果を検証しました。今回の文献では、本症例が抱える足関節背屈制限に対して超音波療法を行った方が良いという結果が明らかでなかったため、実際に介入するべきかどうか悩みました。それでも、年齢が若く歩行量が多い片麻痺症例の足関節背屈角度の維持または向上に苦慮することが多い中、今回の症例では介入後背屈角度の向上が得られたので、文献を参考により効果的な方法を考えて実践して良かったと感じました。今回は、物理療法の中で超音波療法を選択して調べましたが、他にも足関節底屈筋の痙縮が軽減すると言われているTENSやFESなどの電気刺激療法についても調べていく必要性を感じました。

2012年02月16日掲載

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