EBPTワークシート
第7回 「造血幹細胞移植後の四肢筋力低下に対するアプローチ」

信州大学医学部附属病院リハビリテーション部
三澤加代子

基本情報

患者氏名
 
年齢
当院の規定により掲載不可
診断名
急性骨髄性白血病
移植の種類
臍帯血移植
障害名
四肢筋力低下
現病歴
当院の規定により掲載不可

理学療法評価概略(移植後41日に評価施行)

関節可動域
四肢において著明な可動域制限なし
徒手筋力検査(MMT)
肩関節4/4、肘関節5/4、股関節4/4、膝関節5/4、足関節5/5、体幹4
体力テスト
握力:20/21kg
30秒椅子立ち上がりテスト:10回
指床間距離:+10cm
6分間歩行距離:285m
片脚立位時間:28/35秒
起居・移動動作能力
蹲踞-起立動作で上肢の支持を要する
階段昇降1階分(13×2段)でBorg scale15

ステップ1. PICO の定式化→ クリニカルクエッション

Patient(患者)
造血幹細胞移植を施行され四肢・体幹の筋力低下を認めた患者
Intervention(介入)
有酸素運動とセラバンドを用いた筋力強化練習を組み合わせて実施すると
Comparison(比較)
有酸素運動のみと比較して
アウトカム
四肢筋力増強は認められるか?

ステップ2. 検索文献

検索式
PubMedにてキーワード「bone and marrow transplantation,exercise」Limits:randomized controlled trial,published in the last 10 yearsで検索した結果、11件ヒット。その中から、本症例のPICOと合致した文献(下記参照)を採用した。
論文タイトル
Strength Training Following Hematopoietic Stem Cell transplantation
著者
Hacker ED, Larson J, et.al
雑誌名
Cancer Nurs. 34(3):238-249、2011
目的
大量化学療法と造血幹細胞移植後に対して、有酸素運動を実施するプログラムと、有酸素運動のプログラムに筋力強化練習を組み合わせたプログラムを実施する場合の2つの異なる運動プログラムが、身体活動、筋力、Actiwatch-ScoreR、EORTC QLQ-30、Ferrans and Powers Quality of Life Indexに及ぼす影響を明らかにした。
研究デザイン
RCT
対象患者
大量化学療法と造血幹細胞移植を受ける症例29例のうち、本研究の趣旨を説明し同意を得られた19例であった。ただし、対象の基準としては、英語を話す能力と研究の目的を理解する能力があり、精神疾患の既往がない症例とした。
介入
対象症例を、有酸素運動のみを実施する群(通常群)10例と有酸素運動とセラバンドを用いた筋力強化練習を組み合わせて実施する群(筋力強化群)9例とにランダムに振り分けた。筋力強化群では有酸素運動に加えセラバンドを用いた筋力強化練習が実施された。頻度は、1週間に1回、看護師の監視下にて実施され、さらに2回は自主トレーニングを実施してもらい合計週3回、6週間継続された。
主要評価項目
身体活動量、筋力、Actiwatch-ScoreR、EORTC QLQ-30、Ferrans and Powers Quality of Life Indexについて、入院時・移植後8日・退院後6週において評価した。
結果
運動プログラムが遂行可能であった最終的な対象は、有酸素運動群9例と筋力強化練習群8例であった。
対象症例全体の経時的な比較において、身体活動量、筋力のうち30秒椅子立ち上がりテスト、床上安静から立ち上がりに要する時間の項目およびEORTC QLQ-30では、食欲不振、便秘、経済的ストレス以外の項目において、移植後は入院時と比較して有意に低下していたが、退院後6週では移植後と比較して有意な改善を認めた。
2群間比較では、 EORTC QLQ-30のサブスケールの疲労の項目において、筋力強化群は通常群より有意に改善した。
結論
大量化学療法と造血幹細胞移植を施行された症例における経時的変化では、予想通りに、移植後に身体活動量、筋力およびQOLは低下し、退院後6週時に改善を認めた。2群間比較では、筋力強化群において疲労以外の項目では統計学的に有意に改善させるまでには至らなかった。要因としてはサンプル数が少なかったためではないかと思われた。

ステップ3. 検索文献の批判的吟味

  • 割り付け時の対象者の85%以上が介入効果の判定対象となっている

ステップ4. 臨床適用の可能性

  • エビデンスの臨床像は自分の患者に近い
  • 臨床適用が困難と思われるような禁忌条件・合併症等のリスクファクターはない
  • 倫理的問題はない
  • 自分の臨床能力として実施可能である
  • 自分の施設における理学療法機器を用いて実施できる
  • カンファレンス等における介入計画の提案に対してリハチームの同意が得られた
  • エビデンスに基づいた理学療法士としての臨床判断に対して患者の同意が得られた
  • その他
具体的な介入方針
急性骨髄性白血病に対して臍帯血移植を施行され、自宅退院後の日常生活への復帰に難渋した患者に対して、外来理学療法の際に、有酸素運動に加え四肢の筋力増強に着目した運動プログラムを実施した。アウトカムの2群間比較で統計学的有意差は認められなかったが、臨床的に意味のある程度の改善は生じていると判断し実施した。
頻度は週に1回理学療法士の監視下にて実施し、自宅において1~2回自主トレーニングを実施し、12週間継続して実施してもらった。評価については、握力、30秒椅子立ち上がりテスト、ベッドからの起き上がり時間、段差昇降時間、四肢粗大筋力および起居・移動動作能力について、自宅退院時、自宅退院後6週および自宅退院後12週時に評価を実施した。
運動プログラムの内容は、有酸素運動(歩行など)に加えてセラバンドを用いた筋力強化練習を実施した。
注意事項
自宅での筋力強化練習については、転倒に注意して座位にて実施してもらい、また、来院時に誤った運動方法で行っている場合には、運動方法を修正した。

ステップ5. 適用結果の分析

介入頻度は、計画通りにプログラムを実施できた。
各時期におけるMMT、握力、30秒椅子立ち上がりテスト、ベッドからの起き上がり時間、段差昇降時間、蹲踞-起立時の安定性および階段昇降時のBorg scaleの結果を下記に示す。
なお、計測の値は2回実施した最高値を代表値として採用した。
結果、退院後6週時にはMMTの肩関節と膝関節、30秒椅子立ち上がりテストおよびベッドからの起き上がり時間において改善を認め、その他の項目で著明な変化を認めなかったが、退院後12週時にはMMTの股関節と体幹、握力および段差昇降時間においても改善を認めた。起居・移動動作能力においては、退院後6週には蹲踞-起立時に物に触れる程度の上肢の支持を要し、階段昇降1階分ではBorg scale13だったが、12週には蹲踞-起立時に上肢の支持なしで実施可能となり、階段昇降1階分ではBorg scale12となった。
文献的には、握力は上肢粗大筋力を反映し、30秒椅子立ち上がりテストは大腿四頭筋の筋力を反映しているといわれており、今回の結果をふまえると、セラバンドを用いた筋力強化運動プログラムは、四肢筋力の改善が得られ、二次的に起居・移動動作能力の改善に繋がったのではないかと思われた。
■筋力評価
評価項目 退院時
(移植後41日)
退院後6週 退院後12週
MMT 肩関節 4/4 4/5 4/5
肘関節 5/4 5/5 5/5
股関節 4/4 4/4 5/4
膝関節 5/4 5/5 5/5
足関節 5/5 5/5 5/5
体幹 4 4 5
■体力テスト
評価項目 退院時
(移植後41日)
退院後6週 退院後12週
握力(kg) 20/21 21/21 23/23.5
30秒椅子立ち上がりテスト(回) 10 13 15
ベッドからの起き上がり時間(秒) 5.51 3.09 3.11
段差昇降時間(秒) 45.29 45.39 39.81
■起居・移動動作能力
評価項目 退院時
(移植後41日)
退院後6週 退院後12週
蹲踞-起立時の安定性 上肢の支持あり 上肢の支持あり 支持なし
階段昇降時のBorg scale 15 13 12
ステップ2でPICOに適合した文献を見つけることができ、ステップ3では、大きな問題なく批判的吟味を施行することができた。そのため、ステップ4では検索文献で示された介入方法にほぼ即して実施することができたが、評価の中での階段昇降時間に関しては、他の文献で紹介されていた別法の段差昇降時間を用いて実施した。ステップ5で具体的介入の成果においては一部の評価の確認のみにとどまった。また、ステップ2・3では、要旨の翻訳のみでは判断がつかず、原文を翻訳し、アウトカムの評価方法は他の文献で調べる作業を繰り返したため、非常に時間を費やした。

第7回「造血幹細胞移植後の四肢筋力低下に対するアプローチ」 目次

2012年09月25日掲載

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