EBPTワークシート
第9回 「股関節への介入を併用した変形性膝関節症に対する理学療法」

信州大学医学部附属病院 リハビリテーション部
田島 泰裕

基本情報

患者氏名
当院の規定により掲載不可
年齢
当院の規定により掲載不可
診断名
両変形性膝関節症 両膝関節拘縮
手術名
なし
障害名
両膝関節痛
現病歴
当院の規定により掲載不可
既往歴
特になし

理学療法評価概略(リハビリテーション部初診時に評価)

疼痛
両膝関節運動時痛(VAS 4.8/5.2cm)
荷重時痛(VAS 5.6/6.7cm)
可動域(°)
股関節屈曲100/100,伸展-5/-5,膝関節屈曲120P/120P,伸展 -5/-5
その他、著明な制限なし
下肢筋力(MMT)
股関節屈曲3/3、伸展3/3、外転3/3、内転3/3、外旋3/3、内旋3/3
膝関節伸展4/4、屈曲4/4

ステップ1. PICO の定式化→ クリニカルクエッション

Patient(患者)
変形性膝関節症と診断された患者
Intervention(介入)
股関節筋の筋力トレーニングは
Comparison(比較)
膝関節筋の筋力トレーニングのみと比較して
アウトカム
膝関節機能の改善が得られるか?

ステップ2. 検索文献

検索式 PubMedにてキーワード「knee OA・hip muscle・exercise」 Limits:「randomized controlled trial・published in the last 10 years」で検索した結果、14件ヒット。その中から、本症例のPICOと合致した文献(下記参照)を採用した。
論文タイトル Hip strengthening reduces symptoms but not knee load in people with medial knee osteoarthritis and varus malalignment: a randomised controlled trial
著 者 Kim L Bennell
雑誌名 Osteoarthritis Cartilage. 2010 May;18(5):621-8
目 的 股関節筋の強化は、膝負荷を低下させるかを調査した。
研究デザイン RCT
対 象 変形性膝関節症と診断された89名を対象とし、一般的なエクササイズ群(Ⅰ群)45名と股関節外転運動・内転運動エクササイズを行った群(Ⅱ群)44名にランダムに振り分けた。
介 入 Ⅰ群とⅡ群で各プログラムを週に5回施行し、それを12週間継続した。
主要評価項目 3次元動作分析装置を使用し、膝内側瞬間ピークトルク値、疼痛(VAS)、筋力、動的バランス試験、階段昇降試験について、プログラム開始前、終了後12週時点において評価した。
結 果 Ⅰ群とⅡ群の全ての対象患者において、プログラム開始前と開始12週間後で疼痛・筋力において改善が認められた(P<0.05)。しかし、症状と機能を改善したにもかかわらず、内側膝負荷に影響を及ぼさなかった。
結 論 股関節筋力の増強は内側膝負荷に影響を及ぼさなかったが、変形性膝関節症患者に対して、股関節周囲筋に対する筋力練習を施行すると疼痛の軽減、筋力の増強が期待できると考えた。

ステップ3. 検索文献の批判的吟味

  • 割り付け時の対象者の85%以上が介入効果の判定対象となっている

ステップ4. 臨床適用の可能性

  • エビデンスの臨床像は自分の患者に近い
  • 臨床適用が困難と思われるような禁忌条件・合併症等のリスクファクターはない
  • 倫理的問題はない
  • 自分の臨床能力として実施可能である
  • 自分の施設における理学療法機器を用いて実施できる
  • カンファレンス等における介入計画の提案に対してリハチームの同意が得られた
  • エビデンスに基づいた理学療法士としての臨床判断に対して患者の同意が得られた
  • その他
具体的な介入方針
変形性膝関節症の患者に対して、通常の膝関節周囲筋群の筋力トレーニング(大腿四頭筋の等尺性・等張性運動)に加えて、股関節外・内転筋トレーニングを。頻度は1週間に1回、理学療法士の監視下にて施行した。また、自宅でのセルフトレーニングを12週間継続させた。疼痛(VAS)、関節可動域、下肢筋力について、開始時、開始後12週終了時に評価した。
運動プログラム内容は、下肢ストレッチと膝関節周囲筋群の筋力トレーニングの他に、股関節ストレッチと股関節周囲位筋の筋力トレーニングを施行した。
注意事項
運動プログラム実施の際には、疼痛が生じないよう理学療法士監視下にて内容を確認しながら施行した。

ステップ5. 適用結果の分析

介入頻度は、予定していた計画通りにプログラムを実施できた。触診所見の結果を下表に示す。
 結果として、股関節可動域の拡大、股関節筋力の増強および疼痛の軽減が得られた。このことより、股関節に注目したアプローチは、股関節外転筋である中殿筋を強化することによって側方への動揺を抑え、膝関節内側への負担が軽減した可能性があるのではないかと考えられた。また、股関節外転筋の筋力練習をすることによって大腿直筋の筋力も増強するという報告もあるため、更に膝への負担が軽減したのではないかと考えられる。しかし、本文では「股関節筋力の増強は内側膝負荷に影響を及ぼさなかった。」と記載されていることから股関節筋力が病態進行抑制に影響はしないと考える。しかし、股関節筋力は歩行時に下肢全体の安定性を増し異常動作を抑制する際には股関節内転・外転筋力の貢献度が高く、このことに注目した運動療法はADLの維持・改善、QOLの向上に有効であると考えられる。
膝関節疼痛(VAS) 開始時 終了時
安静時 0 0 0 0
運動時 4.8 5.2 3.3 3.0
夜間 0 0 0 0
荷重時 5.6 6.7 4.7 4.4
 
関節可動域(°) 開始時 終了時
屈曲 100 100 110 100
  伸展 -5 -5 0 0
屈曲 120 120 120 120
  伸展 -5 -5 -5 -5
 
筋力MMT 開始時 終了時
屈曲 3 3 4 4
  伸展 3 3 4 4
  外転 3 3 4 4
  内転 3 3 4 4
  外旋 3 3 4 4
  内旋 3 3 4 4
屈曲 4 4 4 4
  伸展 4 4 4 4
ステップ2でPICOに適合した文献を見つけることができ、ステップ3では、大きな問題なく批判的吟味を施行することができた。そのため、ステップ4では検索文献で示された介入方法にほぼ則して実施できたが、ステップ5で具体的介入の成果においては動的バランス試験、階段昇降試験に関しては実施できず疼痛・関節可動域・筋力の項目の確認のみにとどまった。

第9回「股関節への介入を併用した変形性膝関節症に対する理学療法」 目次

2013年05月29日掲載

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