EBPTワークシート
第9回「股関節への介入を併用した変形性膝関節症に対する理学療法」 解説

信州大学医学部附属病院 リハビリテーション部
田島 泰裕

ステップ1. の解説: PICO の定式化

Patient (患者)は、両変形性膝関節症としました。両変形性膝関節症の保存療法として大腿四頭筋の筋力増強が一般的ですが、膝関節機能のみでなく、膝関節と股関節機能との関連性に着目し、股関節周囲筋の筋力増強が膝関節の負担軽減につながるのかを知りたいという目的にて、Intervention(介入)とComparison(比較)を設定しました。Outcome (効果)は、臨床的に評価が可能である疼痛、膝関節可動域および下肢筋力を項目として設定しました。

ステップ2. の解説: 検索文献

PubMedでの検索は、キーワードを「OA knee・muscle exercise・hip muscle  Limits:「randomized controlled trial・published in the last 10 years」で検索した結果、14件ヒット。その中から、本症例のPICOと合致できる文献で、介入などの面で参考にできると判断したものを採用しました。

ステップ3. の解説: 検索文献の批判的吟味

今回の文献では、研究デザインが適切であると感じたこと、2群のベースラインが近いことがよいと感じました。しかし、患者数については十分に多いとは言えないものでありチェックを入れませんでした。盲検化は、患者にはされておらず評価者のみでしたので、一重盲検にチェックを入れました。「脱落者を割り付け時のグループに含めて解析している」という項目については、記載がなかったためチェックを入れませんでした。

ステップ4. の解説: 臨床適用の可能性

7つの項目すべてにおいて確認したところ問題なくチェックが可能でした。介入方針においては、PICOと合致できる文献の評価時期や評価項目などを参考にして介入方針を決定しました。介入に際しては、文献と同様に股関節内転筋と外転筋の強化運動を週に5日行うメニューを12週継続して実施してもらいました。そのうち週1回はPTの監視下で、他はホームプログラムとして実施し、理学療法士が実施内容を確認して、疼痛が生じない範囲内で行うよう指導しました。

ステップ5. の解説: 適用結果の分析

変形性膝関節症は関節性変化に加え、筋力の低下により歩行や階段昇降などの動作で膝関節に大きな負担をかけることによって増悪していくという疾患だと言われています。特に筋力の低下に関して大腿四頭筋の低下が主な原因と一般的に言われていますが、過去の研究から大腿四頭筋だけでなく下肢全体に筋力低下を認めるとの報告があります。また、変形性膝関節症の患者において疼痛が出現しやすい立ち上がり動作や歩行、階段昇降等は大腿四頭筋だけでなく股関節周囲筋や足関節も重要な働きをします。そこで今回、股関節の筋力増強は膝関節の負担軽減につながるのではないかと仮説をたて、実際にどのくらいの効果があるか知りたいという目的にてPICOを設定しました。ステップ2ではその視点で設定したPICOと合致した文献を検索しました。ステップ3では大きな問題なく批判的吟味を施行することができました。そのため、ステップ4・5では検索文献で示された介入方法にほぼ則して、具体的介入の成果(股関節筋の強化が疼痛の軽減につながること)を確かめることができました。従来提唱される膝関節周囲筋のトレーニングに加え股関節周囲筋のトレーニングも重要であると実感できました。しかし、本文では「股関節筋力の増強は内側膝負荷に影響を及ぼさなかった。」と記載されていることから股関節筋力が病態進行抑制に影響はしないと考えます。しかし、股関節筋力は歩行時に下肢全体の安定性を増し異常動作を抑制する際には股関節内転・外転筋力の貢献度が高く、このことに注目した運動療法はADLの維持・改善、QOLの向上に有効であると考えられました。

第9回「股関節への介入を併用した変形性膝関節症に対する理学療法」 解説 目次

2013年05月29日掲載

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