EBPTワークシート
第10回「脳性麻痺児の下肢筋力低下に対する電気刺激療法の効果」 解説

信濃医療福祉センター 理学療法科
松清 あゆみ

ステップ1. の解説: PICO の定式化

Patient(患者)は、脳性麻痺としました。痙直型両麻痺を呈した児に対する筋力をテーマに取り上げました。Intervention(介入)は、限られた治療時間で筋力強化が実施可能な方法として電気刺激療法の可能性を検討することとしました。Comparison(比較)は筋力強化手段としてより効果的な電気刺激条件を比較検討することとしました。Outcome(効果)は筋力強化だけでなく、運動機能レベルの向上に繋がっているか否かを確認することとしました。

ステップ2. の解説: 検索文献

PubMedでの検索は、キーワードを“cerebral palsy, motor function, electric stimulation”としました。最初に一次情報ではなく二次情報としてReviewを検索しました。14件該当しましたが、今回は電気刺激の方法による効果の違いについても検討しているClaireらによる総説を採用しました。
Reviewに限局すると該当数が極端に減少しますが、キーワードを“cerebral palsy, motor function, electric stimulation”として一次情報も含めると100件以上抽出され、RCTデザインでの比較研究もありました。
今回抽出した総説では、神経筋電気刺激(Neuro Muscular Electrical Stimulation: NMES)とThreshold Electrical Stimulation(TES)の2つを区別して比較していますが、この2つは刺激強度が大きく異なり、TESは睡眠中でも使用できる程度の弱い刺激で、筋収縮を生じる閾値に至らない刺激強度であるとされています。
なお、“Threshold Electrical Stimulation”は、略称で表すと“TES”となりますが、従来の“Therapeutic Electrical Stimulation: TES(治療的電気刺激)”とは異なるものです。本邦における和訳が定着していないため“TES”の略称を用いていますが、“Therapeutic Electrical Stimulation: TES(治療的電気刺激)”と混同しないように注意をお願いします。

ステップ3. の解説: 検索文献の批判的吟味

ステップ2で2次情報を選択した場合は、基本的にはステップ3を省略できますが、今回は先に紹介したReview(Claireらによる総説)の結論があいまいであるため、治療内容を具体的に参考にするため、その総説中で紹介されている1次情報であるRCTを選択して批判的に吟味することとしました。
採用した論文の書誌情報は以下の通りです。また、その論文の要旨をその後に示します。

Hazlewood ME et al.: The use of therapeutec electrical stimulation in the treatment of hemiplegic
cerebral palsy. Developmental Medicine & Child Neurology.1994; 36(8): 661–673.

 Hazlewood らは、5歳から12歳までの脳性麻痺児(片麻痺)20人を対象とした前向きコントロールデザインを用いて、介入前後の群間比較をしています。
 介入群・コントロール群とも10人ずつで、疾患や年齢が均等に割りつけられています。全対象者がプログラムを完了しており、統計処理は、ノンパラメトリックであるためWilcoxonの符号順位検定を用いて有意差をみています。盲検化処理についての記載はありませんでした。介入群は通常行われている理学療法プログラムに加えて麻痺側前脛骨筋に対し35日間連続で1時間/日、電気刺激を実施されました。パラメータは30Hz、パルス幅100μs、オン:オフ時間は7秒:15秒。刺激強度は他動的な背屈可動範囲内で背屈が生じる最小値を個々人に設定し、5週間の間で漸増されています。
 アウトカムは他動・自動足関節可動域、歩行周期中の膝・足関節の動き、を測定しています。
 結果として他動的足関節可動域の膝伸展位での背屈可動域において、介入群の介入前後比較で有意に改善を示しました。
 考察にて、介入群の多くが、麻痺側の下肢が電気刺激によって動くことを楽しんでプログラムを完遂し、これまで多くの時間と努力を費やしてきた拘縮予防のプログラムにとって代わる方法として推奨しています。また、定量的な評価ではないですが、電気刺激後の運動速度の変化もみられ、この点については今後調査する価値がある視点が得られたと述べています。歩行分析において有意差を認めなかった点に対しては、可動域の他動・自動ともに変化する事が歩行の改善に繋がるかもしれないが、この結果からは自動運動での可動範囲に有意差を認めなったということ、また歩行周期中の同時収縮が下肢の装具によって生じ、それが自動的な筋活動の妨げとなった可能性も示唆しています。

ステップ4. の解説: 臨床適用の可能性

総説において、NMESは治療効果として統計学的な有意差を認める結論を出している論文がTESよりも多いため、現時点ではNMESの方を採用すべきだと判断しました。
 一方で、刺激強度や周波数・パルス幅などの詳細な設定について比較・検討しているものは総説中にありませんでしたが、現在は各医療機器メーカーにより適切な治療モードの設定がなされており、セラピストが詳細にパラメータを調節して実施する必要は少ないのが現状ではないかと思います。今回参考にした文献では、パラメータが詳細に提示されていたため、設定の参考にしました。
 患者自身が言語による感情表出が可能で十分にコミュニケーションがとれる場合と、意思表示に制限のある場合では、適応できる刺激強度も異なり、発作の誘発など電気刺激による悪影響も考えられます。より効果が高いとされるものであっても、患者へ与える影響とその刺激による反応に細心の注意を払いながら実施する必要があるかと思われます。

ステップ5. の解説: 適用結果の分析

今回の総説からだけでは、電気刺激を行う際にどのような刺激方法がより効果的であるのか、明確な結論には至りませんが、少なくともNMESとTESの2種類の方法のうち、現時点でより有効性の高いとされる方法としてNMESに関しては検討することができました。まだ刺激方法の違いや標的とする部位による効果の違い、さらに電気刺激による弊害の有無など、検討課題はいくつもありますが、限られた治療時間で実施でき、より効果を高めるための1つの手段としてNMESを採用する判断もあり得ると思います。
 その一方で、ただ電気刺激のみを行うのでなく、自発的な筋活動による筋力強化運動も併用させるなど、誘発された筋活動をより機能的活動へ発展させていく事が更に重要であると感じました。

第10回「脳性麻痺児の下肢筋力低下に対する電気刺激療法の効果」 解説 目次

2013年06月04日掲載

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