EBPTワークシート
第11回「人工股関節置換術後早期における部分免荷トレッドミルトレーニングの効果」 解説

東京医科歯科大学医学部附属病院 リハビリテーション部
小川 英臣
岡安  健

ステップ1 の解説: PICO の定式化

Patientは当院で術件数が多い片側性人工股関節術後患者としました。近年、術手技やインプラントの改善などにより術後経過が良好な患者が増え、術後早期より積極的な後療法が可能となってきました。早期の歩行訓練では平行棒や歩行器を利用しておりますが、部分免荷トレッドミルを利用した介入はあまり実施されておりません。部分免荷トレッドミル歩行のメリットは、交互性の両脚ステッピングを補助し、対称的なステップがより多くできる点にあると思われます。脳卒中や脊髄損傷などの中枢神経疾患に対するリハビリテーションに多く用いられる方法ですが、変形性関節症により歩行機能が低下し、新たに人工関節を置換した患者にとっての歩行再学習に有用なトレーニングかを検討する目的でInterventionを部分免荷トレッドミル、Comparisonを一般的な後療法、Outcomeを股関節機能および歩行機能の改善と致しました。

ステップ2 の解説: 検索文献

PEDroのAdvanced searchにてキーワード「THA、treadmill」、Body Part:thigh or hip、Subdiscipline:orthopeadics、Method:clinical trial、Return:10で検索した結果、5件ヒット致しました。本症例のPICOに近く、介入の参考となる文献と判断し本論文を選択しました。また、PEDro scaleは7/10点であり、臨床試験の内的妥当性の高い文献であったことも選択理由の一つとして挙げます。

ステップ3 の解説: 検索文献の批判的吟味

対象患者数は40人ずつランダムに振り分けられて、患者の割り付けも明確に表記されておりました。患者数はサンプルサイズの検定についての記載がなく、十分に多いとは言えないと判断いたしました。治療終了時は97.5%、追跡3ケ月までは87.5%を判定対象としておりますが、追跡12ケ月は60%まで低下しております。ハリスヒップスコアに関してはITT解析を実施したとの記載があり、脱落者を含めた検定に該当しております。盲検化は評価者のみ記載があったため、一重盲検と判断いたしました。比較した群間のベースラインは概ね同様と判断されましたが、治療群と対象群の歩行訓練におけるステップ数に大幅な開きがあり、群間の比較に影響があった可能性が伺えます。統計学的解析は繰り返しのある2元配置分散分析でハリスヒップスコアは有意水準5%以下、その他5項目に関してはボンフェローニ法を用いて修正し、有意水準1%以下で比較しております。翻訳文では、対照群にインプラントのルーズニング症例が4例いたとの結果から、部分免荷トレッドミルトレーニングにより効果的に中殿筋が強化されて破行が減少し、インプラントの緩み防止につながったとの表記がありました。また、股関節伸展可動域制限の減少に関しては運動療法の効果であった可能性を示唆しており、部分免荷トレッドミルトレーニングが股関節機能や歩行能力向上に寄与した点に関する考察の表記が少なかったため、やや論理的整合性に欠ける印象がありました。

ステップ4 の解説: 臨床適用の可能性

急性期病院である当院では採用した論文と同様の期間での介入はできませんが、介入時期や、運動負荷量を調節して実施することで介入可能と判断致しました。臨床適応が困難と思われるような禁忌条件・合併症などのリスクファクターは深部静脈血栓症が挙げられ、術後の循環動態の変動には血液データ(D-dimer)やバイタルチェックなどで十分配慮が必要と思われます。今回の症例は高血圧症の既往がありましたので、訓練前、訓練後の血圧をチェックし、バイタルの著明な変化がないことを確認したうえで徐々に運動強度を高めていきました。トレッドミルはリハビリ施設には多い治療機材であると思われますが、ハーネス等による免荷式のトレッドミルはどこの施設にもあるとは限りません。上肢で自重を部分的に免荷し疼痛をコントロールすることで、臨床適応の可能性を広げることが可能であると思われます。患者には先行報告を簡潔に説明し、実施予定内容と予測される効果、リスクやリスクに対する配慮を十分に説明し同意を得ました。アウトカムは翻訳文に記してある左右対称性と中殿筋筋電図を除いた、4項目と致しました。

ステップ5 の解説: 適用結果の分析

今回、人工股関節置換術後早期の介入ということで、運動負荷量を調節し過負荷に注意して行いました。トレッドミル歩行時間の短縮や、免荷量を問わなくすることで術後経過中の過度な筋肉疲労や他関節の疼痛も出現せずに介入可能でした。免荷量は治療前に測定した体重に対する最大下肢荷重量(92%)を目安に両上肢で自重を免荷して歩行していただきました。その他の具体的な指示においては、なるべく体幹を起こし、体幹の動揺がないように歩くようお伝えいたしました。介入時期や負荷量などが異なるため、選択した論文に記されているデータとの比較はできませんが、部分免荷トレッドミルはTHA術後早期においても股関節機能や歩行機能の改善を促すことが認められました。部分免荷トレッドミル訓練の特性として「交互性両脚ステッピングの補助」と「部分免荷の調節」の両要素により、疼痛や筋力低下などにより出現する代償的な立脚、遊脚を安楽、かつスムーズに行えることが可能であり、通常の平地歩行訓練よりも無理なく多くの対称的なステップを踏むことができたことが股関節機能や歩行能力の効果的な改善に影響を与えたと考えます。しかし、左右の対称性に関するアウトカムの検討が不十分であり、今後の検討項目と考えております。選択した論文では左右の対称性を左右の荷重時間の比率で求めておりますが、荷重時間のみの検討では、破行の有無や体幹の傾斜が含まれてしまうため、対称的かどうかの検討は困難であると思われます。 ハリスヒップスコアは国際的に最も普及している股関節スコアの一つですが、翻訳して使ってみると抽象的な表現も多く、解釈に悩む項目もありました。またmodifiedされたものが多数存在し、それぞれ採点結果に若干のばらつきが生じる可能性があるため、実際に採用したスコアのバージョンや改編の有無を明確に記載することが重要であると思われます。


  参考文献

  •    Harris WH:Traumatic Arthritis of the Hip after Dislocation and Acetabular Fractures: Treatment by Mold
       Arthroplasty. An end-result study using a new method of result evaluation. J Bone Joint Surg Am. 1969 Jun;51
       (4):737-55.

第11回「人工股関節置換術後早期における部分免荷トレッドミルトレーニングの効果」 解説 目次

2013年09月06日掲載

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