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第13回「むち打ち関連障害における早期運動療法の効果」
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EBPTワークシート第13回「むち打ち関連障害における早期運動療法の効果」解説
医療法人社団おると会 浜脇整形外科リハビリセンター
葉 清規
独立行政法人国立病院機構 関門医療センター
楫野 允也
ステップ1.の解説:
PICO
の定式化
ステップ1の本文へ
症例はむち打ち関連障害を有する患者であり、その理学療法として早期運動療法を選択することを検討しました。むち打ち関連障害は、近年、海外を中心に早期運動開始の治療成績が良好であるとの報告がみられます。そこで、Patient(患者)をむち打ち関連障害を有する患者とし、Intervention(介入)とComparison(比較)を設定しました。
Outcome
(効果)は疼痛の改善および疼痛に関連する機能改善効果として頸部可動域、Neck Disability Index(NDI)を挙げて効果を検討しました。また心理的要因の影響も考え、SF-8の評価も実施しました。
ステップ2.の解説: 検索文献
ステップ2の本文へ
PubMedにてkeywordに「Whiplash-associated disorders、early intervention、physical therapy」と入力し検索しました。その結果として4件の論文がヒットしました。今回は介入を運動療法と設定していましたので、physical therapyをexerciseに変更して検索した結果、3件に絞られました。その中から本症例に対するPICOに適合する文献を選択しました。また、治療方法としてマッケンジー法を取り入れた介入を行っている点が、筆者が用いることができる治療手段として合致したことも選択した理由となりました。
ステップ3.の解説: 検索文献の
批判的吟味
ステップ3の本文へ
対象地域などの母集団となる情報は記載してあり、対象となる取り込み基準及び除外基準も明確に示してありました。割り付け条件や盲検化〔→
盲検法(ブラインディング)
〕などの詳細な記載はありませんでしたが、多施設での患者を対象としており、ランダム化は行われていたため、
研究デザイン
は
ランダム化比較試験(RCT)
としました。
サンプルサイズ
の検討は不明であるものの、検出力分析(有意水準
α
=0.05、検出力80%、効果量を中程度とした場合)の結果、選択された統計手法では対象者は十分多いとは言えませんでした。初期評価時の年齢や身体状況などの解析には差が見られず、ベースラインは各群同様であり、割り付け時の91%が本文献での判定対象となっていました。脱落者の詳細理由は記載がありますが、
治療企図解析(ITT解析)
は行われていませんでした。
統計解析
は、検定は適切であると思われますが、
交互作用
や
多重比較法
などの詳細な記載はないため結果の解釈が不明確な点がありました。しかし、早期運動開始の効果を推奨するものとしては、おおむね整合性が得られたものと判断しました。
ステップ4.の解説: 臨床適用の可能性
ステップ4の本文へ
臨床像は適合し、禁忌条件などリスクとして顕著なものはありませんでした。マッケンジー法を用いた運動療法は、簡便であること、痛みの軽減にエクササイズを活用すること、セルフエクササイズを中心とすることから、当院における外来診療においても来院頻度を調節でき適用可能でした。また、治療方法として機器を使用することはなく、筆者はマッケンジー法のコースを修了していることから臨床能力としても実施可能でした。介入計画については主治医の許可を得て、これらの情報を患者に伝え、同意を得て実施しました。介入は疼痛による頸部機能障害に対する早期運動療法として、マッケンジー法の評価(反復運動検査)の結果、頸部リトラクション運動を指導しました。
ステップ5.の解説: 適用結果の分析
ステップ5の本文へ
今回、頸椎捻挫により後頭部痛、頸部痛を有し、疼痛による機能障害を有する症例に早期から運動療法を実施しました。マッケンジー法の評価より、頸部リトラクション運動を疼痛自制内で最大可動範囲実施するよう指導しました。本運動における疼痛増強はないため、継続して運動実施するよう指導し、徐々に疼痛は軽減してきました。しかし疼痛の軽減はみられるものの、日常生活内では疼痛に対する恐怖心があり、症状誘発する動作を極端に避けるようになりました。ADL指導の介入については、座位や作業時の姿勢指導は実施していましたが、NDIスコアにおいて障害がみられた項目に沿った指導は実施していませんでした。その結果、「身の回りのこと」、「物の持ち上げ」などのサブスケールに改善がみられず、NDIスコアにおいても改善はみられませんでした。この原因として、運動頻度については1日5セット程度の実施状況であったことから、機能障害の改善を得るための運動頻度が不足していた可能性が考えられます。また、より効果が得られるような運動負荷の調整が不足していた可能性が考えられます。マッケンジー法においては効果が得られない場合に、運動頻度、運動強度を調整し効果を確認していくことが必要とされ、これらを調整すべきであったと考えます。ただし、今回参考にした文献の効果判定は6ヶ月後であり、本症例においては3ヶ月間の評価であるため、現時点で機能障害の改善が得られないとはいえません。
検討すべき事項として、健康関連QOL尺度であるSF-8の獲得点数においては低下傾向にありました。持続的な頸部痛には、心理的苦悩が関与していることも報告されています。本症例においても頸部痛は改善傾向にあるものの持続的な症状であったため、心理面に影響した可能性が考えられます。よって早期からの運動療法だけではなく、日常生活が制限されているという評価から認知行動療法なども取り入れていくことで、より改善が得られたのではないかと考えます。
参考文献
・Luo X, Edwards C, Richardson W, et al: Relationships of clinical, psychologic, and individual factors with the functional status of neck pain patients. Value Health. 2004; 7: 61-69, 2004
PICOの定式化
検索文献
検索文献の批判的吟味
臨床適用の可能性
適用結果の分析
2016年07月15日掲載
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