EBPTワークシート
第14回「腰椎椎間板ヘルニア摘出術後早期からの積極的理学療法の効果」解説

医療法人社団 我汝会えにわ病院 リハビリテーション科
宮城島 一史
小玉 裕治

ステップ1.の解説: PICOの定式化

 症例は腰椎椎間板ヘルニア摘出術後の患者であり、その理学療法として早期運動療法を選択することを検討しました。そこで、Patient(患者)を腰椎椎間板ヘルニア手術後の症例とし、Intervention(介入)とComparison(比較)を設定しました。Outcome(効果)は疼痛の改善およびQOLの効果として、Oswestry Disability Index(ODI)、MOS 36-Item Short-Form Health Survey (SF-36)を挙げて効果を検討しました。
 

ステップ2.の解説: 検索文献

 PubMedにてkeywordに「rehabilitation after lumbar disc surgery」と入力し検索しました。結果として22件の論文がヒットし、その中から本症例に対するPICOに適合する文献を選択しました。また、治療プロトコルとして当院の方針に類似している点も選択の理由となりました。
 腰椎椎間板ヘルニア術後の理学療法について検索しようと思ったため、「lumber disc herniation, physical therapy」というキーワードを用いたが、意図した文献を検索することができませんでした。しかし、腰椎椎間板ヘルニア術後理学療法に関連する論文にあるキーワードを参考に再検索を行うことで目的とする文献を見つけることができました。
 

ステップ3.の解説: 検索文献の批判的吟味

対象地域などの母集団となる情報は記載してあり、対象となる取り込み基準及び除外基準も明確に示してありました。割り付け条件は封筒法で、ランダム化は行われていたため、研究デザインランダム化比較試験(RCT)と判断しました。サンプルサイズの検討は不明であるものの、検出力分析(有意水準α=0.05,検出力80%,効果量を中程度とした場合)では、選択された統計手法では対象者は十分多いとは言えませんでした。初期評価時の年齢や身体状況などの解析には有意な差が見られず、ベースラインは各群同様でありました。脱落者に関しての記載はありませんでした。統計解析は、適切であると思われます。早期運動開始の効果を推奨するものとしては、おおむね整合性が得られたものと判断しました。 
 

ステップ4.の解説: 臨床適用の可能性

 臨床像は適合し、禁忌条件などリスクとして顕著なものはありませんでした。運動療法は、簡便であること、セルフエクササイズを中心とすることから、当院の診療においても適用可能でした。また、治療方法として特殊な機器を使用することはなく、実施可能でした。介入計画については主治医の許可を得て、これらの情報を患者に伝え、同意を得て実施しました。
 

ステップ5.の解説: 適用結果の分析

 今回、腰椎椎間板ヘルニア術後症例に早期から運動療法を実施しました。運動は疼痛自制内で実施するよう指導したことで、予定していた計画通りに評価・治療プログラムを実施できました。採用論文は、当院でも評価しているVAS、ODI、SF-36であったこと、またリハビリテーションプロトコールとも類似しており、臨床適用がしやすいものでした。しかし、機能評価に関する情報がなく、根拠に基づいた段階的な運動療法の設定が難しく、疼痛の増減を主体に設定しました。
 腰椎椎間板ヘルニアガイドライン第2版では、①リハビリテーションプログラム内容において集中的なエクササイズと軽いエクササイズに差はないこと、②術後2週目からの早期リハビリテーションプログラム開始と術後6週目からのリハビリテーションプログラム開始を比較した報告によると、就労状況では差はないことなどから手術直後から積極的なリハビリテーションプログラムの必要性を認められないとされています。逆に術後1ヶ月が経過した頃から開始されるリハビリテーションプログラムは短期間における疼痛や機能を改善させ、再就労を早くする効果があるとされています。手術による自然経過によるものも大きく、術後理学療法効果を示せるに至っていません。しかし、この採用論文の結果や今回の症例検討からも、術直後からの積極的な理学療法は、何らかの効果をもたらす可能性があります。今また、本症例は順調な経過をたどりましたが、効果が乏しい症例についても検討していく必要があると考えます。
 

2016年08月15日掲載

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