EBPTワークシート
第19回「脊椎手術後疼痛症候群患者に対するDynamic Lumbar Stabilization Exerciseの介入効果」

苑田会苑田第三病院 遠藤敦士

基本情報

年齢 68歳
性別 男性
診断名 成人脊柱変形症
現病歴 過去に腰部脊柱管狭窄症の診断にて、第3腰椎から第5腰椎の腰椎固定術を施行された。その後、腰痛と下肢痛は一時的に改善したが半年後に増悪を認めた。腰痛および下肢痛の原因と診断された成人脊柱変形症に対して、脊椎矯正固定術(第9胸椎から仙骨までの固定)が施行された。自宅退院するが、その後も腰痛と下肢痛が残存したため、当院にて外来理学療法を開始した。
既往歴 腰部脊柱管狭窄症

 

理学療法評価概略

日本語版Oswestry Disability Index(以下ODI) 42%
Visual Analog Scale(以下VAS) 腰痛38mm 下肢痛42mm
等尺性体幹伸展筋力 201.9N
30-second chair stand test(以下CS30) 12回

 

ステップ1. PICO の定式化

Patient (患者) 脊椎手術後疼痛症候群(Failed back surgery syndrome:以下FBSS )患者に対して
 
Intervention (介入) Dynamic Lumbar Stabilization Exercise(以下DLS)を行うことは
Comparison (比較) 通常の外来理学療法を行った場合と比較して
Outcome (効果) ADL、痛み、筋力は改善するか

 

ステップ2. 検索文献

(☑ 一次情報 ・ □ 二次情報
検索式 PubMed toolsの「clinical queries」にて検索した。
キーワード「Failed back surgery syndrome, exercise」で検索した結果、category「therapy」に10件の論文がヒットした。その中から設定したPICOと適合した論文を選択した。
論文タイトル Comparison of effectiveness of different exercise programs in treatment of failed back surgery syndrome: A randomized controlled trial
著者 Ali Yavus Karahan, Nilay Sahin, Akin Baskent
雑誌名 Journal of Back and Musculoskeletal Rehabilitation
目的 FBSS患者に対して、Isokinetic Exercise(以下IE)、DLS、Home Exercise(以下HE)の各介入方法が、痛み、機能的能力、筋力に与える影響を比較し、最も適した介入方法を検討することとした。
研究デザイン 無作為化比較試験
対象 対象者は1)20-50歳、2)脊椎の手術を受けており、3)6カ月以上疼痛が残存している者とした。

除外基準は1)脊椎の感染や腫瘍がある者、2)骨関節系の疾患がある者、3)不安定な循環器疾患や肺疾患を有する者、4)重篤な精神障害を有する者、5)重篤な痛みを有する者、6)BMIが35以上の者とした。

100名の対象者をランダムブロック法で介入方法ごとにIE群25名、DLS群25名、HE群25名、コントロール群25名に割り付けた。
介入 IE群:介入頻度は3回/週で、8週間とした。ストレッチングとウォームアップを行った後、ダイナモメーターを使用して体幹の屈曲と伸展の等運動性の筋力トレーニングを行った。

DLS:介入頻度は3回/週で、8週間とした。ストレッチングとウォームアップを行った後、多裂筋、腹横筋、骨盤底筋の安定化運動を行いながら上下肢の協調的な運動を組み合わせるエクササイズを実施した。

HE:文章や写真で示した運動(体幹屈伸運動、下肢ストレッチング、骨盤傾斜エクササイズ等)を週3回、8週間自宅で行わせた。

コントロール群:週2回の腰椎学級プログラムに2週間参加させた。内容は解剖学、椎骨の機能、腰痛の病態生理、不良姿勢などであった。
主要評価項目 VAS
Modified ODI
Lumbar muscle strength(以下LMS)
The Progressive Iso-inertial Lifting Evaluation(以下PILE)
結果 IEとDLSは、ホームエクササイズやコントロールと比較して、介入後のVAS、Modified ODI、LMS、PILEに有意な改善がみられた。介入後の各群の改善値を表1に示す。
結論 IEとDLSはFBSS患者に対して同等の効果があり、ADLや痛みや筋力の改善に有効である。
※床から一定の高さの台に重量物を繰り返し持ち上げるパフォーマンステスト
 既定の時間内に持ち上げることができた最大重量が得点となる

表1.介入前後のアウトカムの改善値
 
  IE群 DLS群 HE群 コントロール群
VAS[mm] 44.9a,b 43.7 a,b 17.5a 3.6
Modified ODI[%] 14.5 a 13.7 a 8.0 a 2.9
LMS 体幹伸展
角速度60°/sec[Nm]
 
27.4 a,b
 
30.4 a,b
 
8.4
 
0.4
    角速度90°/sec[Nm] 16.7 a,b 27.5 a,b 9.2 a 1.8
    角速度120°/sec[Nm] 11.8 a,b 26.1 a,b 12.9 a 0.2
PILE 床から腰まで[kg] 3.2 a,b 2.5 a,b 0.3 0.5
   腰から肩まで[kg] 2.8 a,b 2.7 a,b 1.6 0.3
a:コントロール群と比較し有意差あり b:HE群と比較し有意差あり

 

ステップ3. 検索文献の批判的吟味

☑ 研究デザインは適切である ( ☑ ランダム化比較試験である)
☑ 比較した群間のベースラインは同様である
☑ 盲検化されている ( ☑ 一重盲検 ・ □ 二重盲検)
☑ 患者数は十分に多い
☑ 割り付け時の対象者の85%以上が介入効果の判定対象となっている
□ 脱落者を割り付け時のグループに含めて解析している
☑ 統計的解析方法は妥当である
☑ 結果と考察との論理的整合性が認められる

 

ステップ4. 臨床適用の可能性

☑ エビデンスの臨床像は自分の患者に近い
☑ 臨床適用が困難と思われるような禁忌条件・合併症等のリスクファクターはない
☑ 倫理的問題はない
☑ 自分の臨床能力として実施可能である
☑ 自分の施設における理学療法機器を用いて実施できる
☑ カンファレンス等における介入計画の提案に対してリハチームの同意が得られた
☑ エビデンスに基づいた理学療法士としての臨床判断に対して患者の同意が得られた
□ その他:   
                                
具体的な介入方針 検索した文献の対象者よりも高齢であるが、慢性的な疼痛を有しているFBSS患者に対して先行研究に基づいてDLSを実施する。介入頻度は対象患者様の希望により先行研究よりも少ない週2回とし、5週間実施する。
注意事項 難易度を上げるときはインナーマッスルの収縮が持続できているか確認する。
運動中に痛みの増悪がないことを確認する。

 

ステップ5. 適用結果の分析

 週2回、計10回の治療プログラムを実施した。介入前後のアウトカムを表2に示す。選択した論文の体幹伸展筋力検査とPILEは特殊な測定機器が必要なため、それぞれ代替の検査を行った。体幹伸展筋力検査はハンドヘルドダイナモメーターを使用した方法で行い、パフォーマンステストはCS30で代替した。
 DLSの介入後、全てのアウトカムに改善がみられたが、ODIとVASの改善値は小さかった。これは、今回の対象者がDLSの一つである骨盤底筋のコントロールに難渋したことが原因と考える。特に今回の対象者は高齢であり、運動が定着するまでの期間を考慮すると、介入頻度と介入期間が不十分だった可能性がある。一方、体幹伸展筋力は、先行研究で示されている最小可検変化量を超える改善がみられた。以上の結果から高齢なFBSS患者に対するDLSは体幹伸展筋力の改善には有効であるが、ADLや痛みの改善には介入期間を長くし、介入頻度を多くする必要があるかもしれない。
表2.介入前後のアウトカム
  介入前 介入後
ODI[%] 42 37.5
VAS腰痛[mm] 38 24
VAS下肢痛[mm] 42 25
等尺性体幹伸展筋力[N] 201.9 281.3
CS30[回] 12 14

 

第19回「脊椎手術後疼痛症候群患者に対するDynamic Lumbar Stabilization Exerciseの介入効果」目次

2019年03月20日掲載

PAGETOP