EBPTワークシート
第22回「橈骨遠位端骨折患者に対するCross-educationによるアプローチ効果」解説

                                                                            苑田会苑田第二病院 白谷 智子

ステップ1.の解説:PICOの定式化

 対象者の主訴である「右手関節痛」を考慮し,Patientを痛みの訴えの強い橈骨遠位端骨折患者,InterventionをCross-education(交叉性訓練)による介入,Comparisonを通常の理学療法のみ,Outcomeを関節可動域,握力,疼痛,手関節機能と設定しました.

ステップ2.の解説:検索文献

 PubMedを用いて,キーワード「Cross-education,fracture」,Article typesをClinical Trialとして検索した結果,2件がヒットしました.その中で,1つの論文の対象者が橈骨遠位端骨折患者による介入研究であり,また,継時的な効果を検証した内容であったことから外来通院患者に適していると考え,この論文を選択しました.

ステップ3.の解説:検索文献の批判的吟味

 対象の取り込み基準[→採用基準を参照],除外基準については明確に示されていました.対象者は乱数表を用い無作為に介入群と対照群に割り付けられていました.ベースラインについては両群間において有意差がないことが示されていました.盲検法は,患者には盲検化はされておらず(不可能なため)評価者のみであったので,一重盲検にチェックを入れました.論文中に対象者数決定について効果量(effect size)は1グループにつき18人とG-powerを用いて決定していますが,介入効果の判定対象は介入群は67%,対照群は88%であったので,脱落例が結果に与える影響はあると考えられます.しかし,今回の多重比較法に頑強性があるので問題ないと思われます.Cross-educationにおいては健常筋の訓練法で効果の差異があり,筋収縮においても静止性収縮と求心性収縮では効果の差異があることが分かっています1,2).今回の結果のみでCross-educationの効果判定では有意差がなくても訓練法や基準化された負荷により差異が生じる可能性を研究の限界かIntroductionに記載すべきであると考えます。

ステップ4.の解説:臨床適用の可能性

 エビデンスの臨床像は適用する対象者に近く,禁忌条件や合併症等のリスクファクターはありませんでした.高い技術が求められる介入内容ではなく担当理学療法士の臨床能力として実施可能でした.また,当院の施設にある理学療法機器を用いて介入できる内容でした.主治医と対象者の同意を得て実施しました.

ステップ5.の解説:適用結果の分析

 Cross-educationとは疼痛や麻痺により直接アプローチが困難な筋群(目的)の反対側の筋群(より筋力がある側)の抵抗運動を用いて,目的の筋肉群の強化を期待する訓練法です.本論文につて批判的吟味を行った結果,介入群の脱落者が多いことと,Cross-educationの詳細な負荷量の決定方法の記載が不十分ではあったものの,本症例においては介入当初疼痛の訴えが強かったためCross-educationは本症例に適した方法であると判断し実施致しました.介入中の有害事象[→イベントを参照]はなく安全に実施できました.本論文中にCross-educationの負荷量の決定方法の詳細が示されていなかったため,本文に記載されていた回数を実施できる強度で実施しました.本論文と本症例のベースラインや介入時期については相違があり,また介入方法も異なる可能性があるため,本症例と本論文における介入群の結果を比較し,同程度の効果が得られたと判断することは難しいと思われます.本症例においては関節可動域の改善は良好でしたが,握力の改善が不十分であり,動作中に疼痛が生じることはあります.しかし,本症例のHopeである「元通り家事動作ができるようになりたい」ということについては可能となり,本症例にとってCross-educationによる介入は有意義であったと考えられます.
  1. Weir JP, Housh TJ, et al.: Effects of unilateral isometric strength training on joint angle specificity and cross-training. Eur J Appl Physiol Occup Physiol. 1995; 70: 337-343.
  2. Weir JP, Housh DJ, et al.: The effect of unilateral concentric weight training and detraining on joint angle specificity, cross-training, and the bilateral deficit. J Orthop Sports Phys Ther. 1997; 25: 264-270.

2019年09月25日掲載

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