EBPTワークシート
第24回「膝前十字靭帯再建術後患者に対する筋力強化と神経筋電気刺激の併用」解説

東京医科歯科大学スポーツ医歯学診療センター 大見武弘

ステップ1.の解説:PICOの定式化

 膝前十字靭帯(anterior cruciate ligament; 以下、ACL)再建術後にスポーツ復帰を目指す患者をPatientと設定しました。ACL再建術後のリハビリテーションの阻害因子の一つとして内側広筋をはじめとした膝伸展筋の筋萎縮があります1)。これに対して術後早期から理学療法治療できる方法の代表例が神経筋電気刺激を用いた筋力強化方法です。神経筋電気刺激を使用すると術後早期における筋容積および膝伸展筋力の回復が良好とされ、神経筋電気刺激に随意的筋収縮トレーニングを併用すると随意的筋収縮トレーニング単独施行群より優れた筋力回復を示すと報告されています2) 3)。以上のことからInterventionに神経筋電気刺激と筋力強化の併用を設定しました。Comparisonは一般的な理学療法、Outcomeは筋力の改善としました。

ステップ2.の解説: 検索文献

 検索エンジンにはPubMedを用いました。キーワードを「"anterior cruciate ligament"」「reconstruction」「”neuromuscular electrical stimulation”」として検索した結果、18件がヒットしました。理学療法治療内容から本患者のPICOに近く、理学療法治療可能な論文と判断したものを採用しました。

ステップ3.の解説:検索文献の批判的吟味

 対象の取り込み基準[採用基準を参照]と除外基準は明確に記載されていました。サンプルサイズが計算されているため、サンプル数は十分であると判断しました。対象の各群への割り付け方法、盲検化[盲検法(プラインディング)を参照]および検査者に関する記載はありませんでした。脱落者は0名であり、全ての対象者で解析されていました。各時期の群間比較には一元配置分散分析を用いていました。これに関しては妥当であると判断しました。各群のスポーツ復帰時の筋活動・筋力を健常者と比較するために対応のないt検定を用いていました。本来であれば、これに関しても一元配置分散分析を用いて健常者群と比較することが妥当であると判断しました。採用論文において統計学的有意差があった項目の効果量は1.00を越えていたので、神経筋電気刺激と遠心性収縮のトレーニングを併用した効果を推奨できるものとして、論理的整合性があると判断しました。

ステップ4.の解説:臨床適用の可能性

 本患者は採用論文の基準に適合し、電気治療の禁忌事項に当てはまることはありませんでした。当院で神経筋電気刺激機器を有していたこと、患者・親権者の受け入れ、主治医の許可、理学療法士の技術、以上の観点から採用論文と同様の理学療法治療を取り入れました。

ステップ5.の解説:適用結果の分析

 今回は当院でACL再建術を受けた患者に対し、神経筋電気刺激と遠心性収縮を併用した理学療法を施行しました。ACL再建術後、膝周囲筋は一時的な筋力低下(筋活動低下)、筋萎縮を経験した後、筋力回復、筋肥大の回復過程を経ます1)。術後早期の筋力低下(筋活動低下)や筋萎縮を最小限に抑えることが重要です。痛みをコントロールしながら筋収縮を誘発できる神経筋電気刺激は術後早期の筋力低下(筋活動低下)や筋萎縮に対して理学療法治療できる有用な手段と考えます。本患者のスポーツ復帰時の膝伸展筋力の下肢対称性指数(Limb symmetry index;ワークシートではLSIと表記) は97.4%であり、当院のスポーツ復帰基準(95%以上)を越えていました。このことから本患者には採用論文の理学療法治療が有効であったと考えます。
 術後の問題点、スポーツ復帰時の問題点の予想を鑑みて理学療法治療計画を立て、主治医、患者、親権者の同意を得ながら理学療法治療を進めることはいうまでもありません。また、筋力を含めた膝機能、パフォーマンス能力を評価した上で、医師と慎重にスポーツ復帰時期を検討する必要があります。
 
1)Urabe Y, Ochi M, et al. Changes in isokinetic muscle strength of the lower
  extremity in recreational athletes with anterior cruciate ligament reconstruction.
  J Sport Rehabil. 2002; 11: 252-267.
2)Hasegawa S, Kobayashi M, et al. Effect of early implementation of electrical
  muscle stimulation to prevent muscle atrophy and weakness in patients after
  anterior cruciate ligament reconstruction. J Electromyogr Kinesiol. 2011; 21:
  622-30.
3)Snyder-Mackler L, Delitto A, et al. Strength of the quadriceps femoris muscle
  and functional recovery after reconstruction of the anterior cruciate ligament. A
  prospective, randomized clinical trial. J Bone Joint Surg Am. 1995; 77: 1166-
  73.

2020年01月10日掲載

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