EBPTワークシート
第27回 「入院パーキンソン病患者に対する部分免荷トレッドミル歩行練習の効果」

                                                         埼玉県総合リハビリテーションセンター 西尾尚倫

基本情報

年齢 50歳代
性別 男性
診断名 パーキンソン病
現病歴 40歳代に右手の安静時振戦が出現、パーキンソン病と診断。L-dopa内服にて経過を見ていたが、次第にジスキネジアやオンオフ現象が強く出現するようになり、3年前にSTN-DBS実施。今回利用していた施設の使用ができなったことで運動機会が減り、リコンディショニングを目的に当センターに入院。
既往歴 パニック発作
※STN-DBSについて
DBS(Deep Brain Stimulation、脳深部刺激療法)は機能異常をきたしている中枢神経系疾患に対して、脳内に深部電極を留置し、標的を電気刺激することにより、異常な神経活動を制御する治療法である。中でもSTN-DBSは視床下核を刺激し、wearing-off現象などの著しい日内変動や薬剤誘発性ジスキネジアなどの運動合併症を有する進行期パーキンソン病に対して行う標準的な外科的治療である。

理学療法評価概略

 本症例は、歩行車を使用して歩行が可能であり、ADLは自立していた。しかし、普段から利用していた施設が使用できなくなり運動機会が減少したことで活動量が低下していた。そのため当センター入院時では易疲労性がみられ、疲労とともに小刻み歩行やすり足歩行と行ったパーキンソン病特有の歩容が顕著にみられるようになっていた。
評価項目(On症状)
評価項目  
Hoehn & Yahr Stage 2度
MDS-UPDRS partⅢ 39点
ジスキネジア なし(内服前後に出現はみられる)
Berg Balance Scale 54点
10m歩行テスト(快適)
※計測条件:独歩
時間:11”01  歩数:23歩
※歩行速度:0.91m/s
※ケイデンス:125.3steps/min
※ストライド長:0.87m
6分間歩行距離
※計測条件:独歩
230m(Borgスケール 実施前10→実施後17)
※途中休憩あり
※2分間歩行距離:90m
TUG
※計測条件:独歩
15”36(実施中のすくみ足なし)
歩容 ・すくみ足:なし
・小刻み歩行:あり
・すり足歩行:あり
※UPDRS(Unified Parkinson Disease Rating Scale)について
運動症状、非運動症状を含めた複数の側面からPDの重症度を評価する臨床指標であり、Movement Disorder Societyによる改変版がMDS-UPDRSである。MDS-UPDRSは4つのパートからなり、part I~IVまでがそれぞれ、認知機能および気分障害、日常生活動作(ADL)、運動症状、運動合併症に対する評価となっている。症状に応じて点数がつけられ、点数が低いほど状態が良いことを示す。

ステップ1. PICO の定式化

Patient (患者) パーキンソン病患者に対して
Intervention (介入) 部分免荷トレッドミル歩行練習は
Comparison(比較) 従来の歩行練習と比較して
Outcome (効果) 歩行能力の改善に効果的であるか

ステップ2. 検索文献

(☑一次情報 ・ □二次情報
検索式 PubMedにて検索式「"parkinson disease" AND "body weight-supported treadmill training" AND "randomized controlled trial" 」で検索した。その結果、5件が抽出された。その中で、本症例のPICOに近い論文を採用した。
論文タイトル Partial Body Weight-Supported Treadmill Training in Patients With Parkinson Disease: Impact on Gait and Clinical Manifestation
著者 Ganesan M, Sathyaprabha TN, Pal PK, et al
書誌情報 Arch Phys Med Rehabil. 2015 Sep;96(9):1557-65.
目的 パーキンソン病患者において、従来の歩行練習と部分免荷トレッドミル歩行練習が歩行および臨床所見に及ぼす影響を評価すること。
研究デザイン Prospective experimental research design(実験的研究デザイン)
対象 パーキンソン病を罹患された方60名(平均年齢:58.15±8.7歳、身長:160±6.9cm、体重:60.38±10.5kg)
除外基準:MMSEが24点以下、 Beck Depression Inventory scoresが17点以上、Goetz dyskinesia scoresが4点以上、 Hoehn & Yahr Stageが4度以上、予測不能な運動変動や歩行訓練に影響を与える整形外科の問題を有すること
介入 NEPD(nonexercising Parkinson disease)グループ
 投薬以外、特定のトレーニングを受けない。普段の日常生活活動は推奨されていた。
CGT(conventional gait training)グループ
 直進や方向転換、腕振りを意識した歩行練習。その際に大きく歩幅を取ることや腕振りを意識させるための聴覚Cueを実施。
PWSTT(partial weight-supported treadmill training)グループ
 体重の20%を免荷させた状態でトレッドミル歩行練習。
※CGTグループ、PWSTTグループの共通条件
・快適歩行速度
・10分間の歩行を3セッション(2分間のインターバル)
・1週間に4回(合計16回)
・共に前後に5分間のウォーミングアップとクールダウン
主要評価項目 ベースライン、2週間後、4週間後(共にベストOn状態)に評価
・臨床所見評価:UPDRS{総得点、運動項目(PartⅢ)、下位項目}
・歩行評価:快適歩行速度(10m歩行テスト)、2分間トレッドミル歩行テスト※ ※歩幅、歩行距離、歩行速度、左右変動、歩行指数
結果 すべての参加者が脱落なく実施でき、悪影響の報告もなかった。
4週間のCGTおよびPWSTTでの歩行練習は、UPDRSスコアとそのサブスコア、および歩行パフォーマンスを有意に改善させた。さらにPWSTTはCGTよりもほとんどの評価において有意に優れていた。
※PWSTTでは、介入2週間時点においても、UPDRSスコアや歩行速度、歩行距離の有意な改善がみられていた。
結論 CGTとPWSTTのそれぞれ、パーキンソン病患者の歩行リハビリテーションに有益である。さらに、PWSTTはCGTよりも臨床所見や歩行アウトカムをより改善させる。

ステップ3. 検索文献の批判的吟味

☑ 研究デザインは適切である (☑ランダム化比較試験である)
☑ 比較した群間のベースラインは同様である
□ 盲検化されている (□一重盲検 ・ □二重盲検)
□ 患者数は十分に多い
☑ 割り付け時の対象者の85%以上が介入効果の判定対象となっている
□ 脱落者を割り付け時のグループに含めて解析している
☑ 統計的解析方法は妥当である
☑ 結果と考察との論理的整合性が認められる
 

ステップ4. 臨床適用の可能性

☑ エビデンスの臨床像は自分の患者に近い
☑ 臨床適用が困難と思われるような禁忌条件・合併症等のリスクファクターはない
☑ 倫理的問題はない
☑ 自分の臨床能力として実施可能である
☑ 自分の施設における理学療法機器を用いて実施できる
☑ カンファレンス等における介入計画の提案に対してリハチームの同意が得られた
☑ エビデンスに基づいた理学療法士としての臨床判断に対して患者の同意が得られた
□ その他:  
 
具体的な介入方針  本症例はMIBG心筋シンチグラフィーによりパーキンソン病と診断され、その後内服加療やSTN-DBSを実施され生活をしていた。なお、今回当センターにリコンディショニング目的に短期入院された本症例は、採用論文の対象者に近く除外基準には該当しなかった。
 介入は通常の理学療法(ストレッチ、筋力強化、立位練習など)に加え、PWSTTを実施した。PWSTTの設定については、採用論文同様に20%の体重免荷と快適歩行速度とした。なお、採用論文は1回30分(10分間×3セッション(2分間のインターバル))の介入を週4回・4週間実施していたが、本症例はそれに耐えうるほどの耐久性がなく、本人の疲労に合わせ、3〜5分×2〜3セットで実施した。また、本症例の入院期間に合わせて、介入期間は週5回・2週間とした。
※介入期間中に運動機能に大きく影響を与えるような薬剤調整やDBSの刺激調整は実施されなかった。
注意事項 歩行実施時間やインターバルについては、患者の歩行能力やバイタル変化に合わせて適切に設定する必要がある。
トレッドミルの速度に合わせて歩行を実施するため、歩き始めや疲労などによりリズムが崩れ転倒する可能性がある。
体重免荷のためにハーネスを着用するため、DBSの充電池埋め込み部分の圧迫がないか注意する必要がある。
 

ステップ5. 適用結果の分析

 採択論文では介入期間4週間であったが、本症例はPWSTTを2週間実施するにとどまった。また、連続10分×3セットのプロトコールは本症例の場合、入院時よりみられた耐久性低下のため3〜5分×2〜3セットと変更して実施した。なお、介入期間中に転倒などの有害事象は生じなかった。評価結果を下記の表に示す。
 最終評価時は初期評価時と比較し、MDS-UPDRS partⅢ39→30点、快適歩行速度0.91→1.11m/s、6分間歩行距離230→375mと改善を示した。また、歩容においても入院時に見られていた小刻み歩行は改善した。採用論文においても2週間の短期介入でPWSTTの介入効果が見られており、本症例においても同様の結果が見られた。そのため、PWSTTは介入強度を本人の状態に合わせ適切に設定することで、短期間でも効果を生み出す可能性が示唆された。 
介入前後のアウトカム ※ともにOn症状で評価実施
評価項目 介入前 介入後
Hoehn & Yahr Stage 2度 2度
MDS-UPDRS partⅢ 39点 30点
ジスキネジア なし(内服前後に出現はみられる) なし(内服前後に出現はみられる)
Berg Balance Scale 54点 56点
10m歩行テスト(快適)
※計測条件:独歩
時間:11”01 歩数:23歩
※歩行速度:0.91m/s
※ケイデンス:125.3steps/min
※ストライド長:0.87m
時間:9”03 歩数:19歩
※歩行速度:1.11m/s
※ケイデンス:126.2steps/min
※ストライド長:1.06m
6分間歩行距離
※計測条件:独歩
230m(Borgスケール 実施前10→実施後17)
※途中休憩あり
※2分間歩行距離:90m
375m(Borgスケール 実施前11→実施後13)
※途中休憩なし
※2分間歩行距離:120m
TUG
※計測条件:独歩
15”36(実施中のすくみ足なし) 10”87(実施中のすくみ足なし)
歩容 ・すくみ足:なし
・小刻み歩行:あり
・すり足歩行:あり
・すくみ足:なし
・小刻み歩行:なし
・すり足歩行:あり
※Off症状では介入後にわずかな歩幅の拡大が見られたが、顕著な変化は見られなかった。

2020年07月01日掲載

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