EBPTワークシート
第27回 「入院パーキンソン病患者に対する部分免荷トレッドミル歩行練習の効果」解説

埼玉県総合リハビリテーションセンター 西尾尚倫

ステップ1.の解説:PICOの定式化

 パーキンソン病の歩行能力改善を目指す患者をPatientと設定しました。パーキンソン病は進行疾患であり、薬物治療を行っていても経過とともに身体機能の低下や日常生活能力の低下、参加活動の制限などが出現してきます。中でも身体機能の低下に対しては、レジスタンストレーニングが筋力向上、持久性トレーニングが心肺機能の向上、聴覚Cueを取り入れた歩行練習が歩行能力を向上させることなどが報告されています1)2)。そして近年、トレッドミルトレーニングがパーキンソン病者の活動性を改善させると報告されています3)。そこで今回はトレッドミルトレーニングの中でも部分免荷トレッドミルトレーニングに着目し、Interventionに部分免荷トレッドミル歩行練習と設定しました。また、部分免荷トレッドミル歩行練習の有効性を比較するために、Comparisonを従来の歩行練習、Outcomeを歩行能力の改善としました。
 
 

ステップ2.の解説: 検索文献

 検索エンジンとしては、PubMedを使用しました。検索ワードとしては「"parkinson disease"」「"body weight-supported treadmill training"」「"randomized controlled trial"」を選択し、AND検索にて5件ヒットしました。介入内容から本症例のPICOに近く、自施設にて介入可能な論文と判断したものを採用しました。

ステップ3.の解説:検索文献の批判的吟味

 採用論文のデザインは、パーキンソン病者をランダムに3群に割り付けて比較をするランダム化比較試験(RCT)です。なお、盲検化[→盲検法(ブラインディング)を参照]については本文中に明記はされておりませんでした。適応基準や除外基準は明記されており、3群間のベースラインについても結果の第1パラグラフにて有意差がないことが示されており、3群は同等の母集団であると判断できます。しかしサンプル数[→サンプルサイズを参照]の算出については明記がなく、十分ではないと判断しました。採用論文では介入による脱落はなく、全ての対象者が解析対象となっています。統計解析としては、3群(NEPD群、CGT群、PWSTT群)×3時点(ベースライン、2週間後、4週間後)の反復測定の混合分散分析[→反復測定分散分析を参照]を採用し、主効果および交互作用を確認しています。また、Bonferroni法を用いた多重比較検定[→Bonferroniの調整(多重比較法)を参照]を行い、どの群間、どの時点で有意な差が見られているかも検討しています。加えて、効果量も算出しており、介入の効果の程度も示しております。よって、採用論文の結果と考察については、パーキンソン病患者に対して部分免荷トレッドミル歩行練習が従来の歩行練習と比較して有用性が高いと示す、論理的整合性が認められると判断しました。

ステップ4.の解説:臨床適用の可能性

  本症例は採用論文の対象者のパラメーターや基準を満たしておりました。なお、DBSについては論文上に除外基準などが明記されていなかったこと、本症例においてDBSの調整による運動機能への影響が少なかったこともあり除外とはしませんでした。また、当センターで部分免荷トレッドミルを所有していること、セッティングが容易で理学療法実施時間内に十分行えること、運動負荷設定が簡便であることなどから、当センターにおいても実施可能でした。以上の条件と患者の同意、主治医の許可を得て実施に至りました。

ステップ5.の解説:適用結果の分析

  今回、部分免荷トレッドミル歩行練習をパーキンソン病患者に対して適用しました。採用論文のように、トレッドミルを用いた耐久性や歩行パラメーターの評価、モニターを用いたVisual biofeedbackなどは当センターでは再現ができませんでしたが、通常の歩行評価や姿勢鏡を用いての代用など、工夫をすることで実施しました。その結果、臨床所見であるMDS-UPDRS partⅢや快適歩行速度や6分間歩行距離などの歩行能力の改善が見られました。特に快適歩行速度については、臨床的最小重要変化量4)0.13〜0.18m/sを上回る改善が示されました(MDS-UPDRSや6分間歩行については臨床的最小重要変化量が示されていません)。
  運動がドーパミン合成を刺激すること5)や神経可塑性に寄与すること6)が報告されています。またトレッドミルトレーニングは、CPGを活性化させる反復的な外的刺激になることや歩行のリズム産生に寄与していると言われています7)。加えて、部分免荷トレッドミルはハーネスを使用して歩行するため、転倒恐怖感を軽減させて歩行できるメリットがあります8)。以上のことから、部分免荷トレッドミル歩行練習を取り入れたことで、臨床所見や歩行能力の改善に繋がったと考えます。しかし、理学療法介入はパーキンソン病者に対して有益ではあるが効果は短期間にとどまるとされています9)。そのため、短期入院での介入後も地域でのフォローアップが重要と考えられます。
  1)  Uhrbrand A, Stenager E, et al.: Parkinson's disease and intensive exercise
         therapy--a  systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials.
         J Neurol Sci. 2015;353(1-2):9-19..
  2) Lim I, van Wegen E, et al.: Effects of external rhythmical cueing on gait in patients
    with Parkinson's disease: a systematic review. Clin Rehabil. 2005 Oct;19(7):695-713.
  3) Robinson AG, Dennett AM, et al.: Treadmill training may be an effective form of
    task-specific training for improving mobility in people with Parkinson's disease and
    multiple sclerosis: a systematic review and meta-analysis. Physiotherapy.
    2019 Jun;105(2):174-186.
  4) Hass CJ, Bishop M, et al.: Defining the clinically meaningful difference in gait speed
    in persons with Parkinson disease. J Neurol Phys Ther. 2014;38(4): 233–8.
  5) Sutoo D, Akiyama K. Regulation of brain function by exercise. Neurobiol Dis.
    2003;13:1-14.
  6) Fisher BE, Petzinger GM, et al.: Exercise-induced behavioral recovery and
    neuroplasticity in the 1-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetra-hydropyridine-lesioned
    mouse basal ganglia. J Neurosci Res. 2004;77: 378-90.
  7) Herman T, Giladi N, et al.: Treadmill training for the treatment of gait disturbances
    in people with Parkinson’s disease: a mini review. J Neural Transm.
    2009;116(3):307–18.
  8) Miyai I, Fujimoto Y, et al.: Treadmill training with body weight support: its effect on
    Parkinson’s disease. Arch Phys Med Rehabil. 2000;81: 849-52.
  9) Tomlinson CL, Patel S, et al.: Physiotherapy intervention in Parkinson's disease:
    systematic review and meta-analysis. BMJ. 2012 Aug 6;345:e5004.

2020年07月01日掲載

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