EBPTワークシート
第28回 「回復期脳卒中片麻痺者の上肢運動麻痺に対する高頻度反復経頭蓋磁気刺激療法と集中リハビリテーションにて効果を認めた一症例」

                                                              苑田会リハビリテーション病院 石井 健史

基本情報

年齢 40代
性別 男性
診断名 右視床出血(脳室内穿破)
現病歴 意識レベルJCSⅠ-1,左片麻痺と呂律障害を認め救急搬送.CT上右視床出血と脳室内穿破を認める.保存的加療にて出血や脳室の拡大なく経過.ADL改善目的で当院入院.
既往歴 高血圧症,小児喘息
職業 公務員

理学療法評価概略(53病日)

「左側機能」
Brunnstrom Recovery Stage(以下:BS) 上肢:Ⅱ,手指:Ⅱ,下肢:Ⅰ
Fugl-Meyer-Assessment(以下:FMA) 上肢項目:5点
Wolf motor Function Test(以下:WMFT) 平均時間:120秒
Functional Ability scale(以下:FAS) 0
握力 0kg
ピンチ力 0kg
Functional Independent Measure (以下:FIM) 58点 

ステップ1. PICO の定式化

Patient (患者) 脳卒中片麻痺者の上肢運動麻痺
Intervention (介入) 高頻度反復経頭蓋磁気刺激(以下:rTMS)と集中リハビリテーション(以下:集中リハビリ)との併用療法
Comparison(比較) 通常のリハビリテーション(以下:通常リハビリ)と比較して
Outcome (効果) 上肢運動機能が改善するか

ステップ2. 検索文献

(☑一次情報 ・ □二次情報
検索式 PubMedにてキーワード “Repetitive Transcranial Magnetic Stimulation” AND “Poststroke”  で検索,  その結果,計48件が抽出された. 本症例のPICOに近く,介入可能な論文であると判断し,下記の論文を採用した.
論文タイトル Daily Repetitive Transcranial Magnetic Stimulation for Poststroke Upper Limb Paresis in the Subacute Period.
著者 Hosomi K, Morris S, Sakamoto T, Taguchi J, Maruo T, Kageyama Y, Kinoshita Y, Goto Y, Shimokawa T, Koyama T, Saitoh Y.
雑誌名 J Stroke Cerebrovasc Dis. 2016 Jul;25(7):1655-1664.
目的 亜急性期の脳卒中患者におけるrTMSとリハビリテーションの併用は運動機能を改善するか検証すること
研究デザイン ランダム化比較試験(RCT)
対象 脳卒中と診断され下記の基準を満たした41名を対象とした(平均年齢:62.9±13.8歳)
適応基準 BS上肢Ⅴ以下,または手指Ⅴ以下,脳卒中発症後8週間以内.
除外基準 BS上肢Ⅰおよび手指Ⅰである者,心臓ペースメーカー留置している者,rTMSの禁忌にあてはまる者,失語症,認知症,精神疾患,てんかんの既往を有している者,妊娠である者とした.
割り付け 基準を満たした,41名をrTMS施行群20名,偽刺激群21名に無作為に割り付けた.
介入開始時の平均発症後期間は45.5±9.0日
介入 rTMS施行群は,rTMSを1秒間に5Hzの頻度で10セット合計500発の刺激を5日間連続行い,これを2週間繰り返した.
偽刺激群は,偽刺激をrTMS施行群と同様に行った.
リハビリテーションは,rTMSセッションの完了後1時間以内に開始した.介入単位数はPT,OT(必要であればSTも含む)合わせて 8単位実施した.
リハビリ内容は,近位上肢機能の練習,巧緻動作練習,上肢の協調性練習,日常生活動作練習を行った.
主要評価項目
・BS
・FMA(合計スコア,近位上肢スコア(肩,肘および前腕の運動機能),遠位上肢スコア
 (手首および手の運動機能))
・National Institutes of Health Stroke Scale (以下:NIHSS) (合計スコア,上肢運動
 スコア)
・FIM(運動スコア,認知スコア)
・指タッピングテスト
・握力
*評価時期は,施行前,5日,12日,29日目に実施した.
結果 rTMS刺激群と偽刺激群のベースラインに差はなかった(FIM認知スコアを除き).
rTMS刺激群は,偽刺激群と比較してBS上肢,NIHSS(合計スコア,上肢運動スコア)は有意な改善を示した.
BS手指,FMA(合計スコア,近位上肢スコア(肩,肘および前腕の運動機能),遠位上肢スコア(手首および手の運動機能)),FIM(運動スコア,認知スコア)は刺激群と偽刺激群ともベースラインと比較し改善を認めた.
結論 rTMSは亜急性期脳卒中患者の上肢運動麻痺改善に有効であると示唆された.

ステップ3. 検索文献の批判的吟味

☑ 研究デザインは適切である (☑ランダム化比較試験である)
☑ 比較した群間のベースラインは同様である
☑ 盲検化されている (□一重盲検 ・ ☑二重盲検)
☑ 患者数は十分に多い
☑ 割り付け時の対象者の85%以上が介入効果の判定対象となっている
□ 脱落者を割り付け時のグループに含めて解析している
□ 統計的解析方法は妥当である
☑ 結果と考察との論理的整合性が認められる
 

ステップ4. 臨床適用の可能性

☑ エビデンスの臨床像は自分の患者に近い
☑ 臨床適用が困難と思われるような禁忌条件・合併症等のリスクファクターはない
☑ 倫理的問題はない
☑ 自分の臨床能力として実施可能である
☑ 自分の施設における理学療法機器を用いて実施できる
☑ カンファレンス等における介入計画の提案に対してリハチームの同意が得られた
☑ エビデンスに基づいた理学療法士としての臨床判断に対して患者の同意が得られた
□ その他:  
 
具体的な介入方針 rTMSの刺激強度は1秒間に10Hzを10セット合計1000発,1日1回を週6日実施.
rTMS施行後1時間以内に上肢機能に対して個別介入(電気治療刺激+自動介助運動
+Task Practice)加えて3単位自主トレーニング(電気治療刺激,ミラーセラピー,
Shaping,両上肢訓練)を状況に合わせて実施
アウトカム FMA,WMFT,握力,ピンチ力
注意事項 rTMSの設定(刺激強度と刺激数),刺激中の自覚症状.

ステップ5. 適用結果の分析

 rTMSの刺激強度および介入期間に関しては,当院の医師の指示のもと実施している為,論文とは異なった.rTMSの刺激強度は1秒間に10Hzを10セット合計1000発,1日1回を週6日とした.介入期間は8週まで継続した.介入中の有害事象はなく,安全に実施できた.評価結果を以下に示した.最終評価時には初期評価時と比較し,Br上肢Ⅱ→Ⅲ,手指Ⅱ→Ⅳ,FMA5点→33点の改善を示した。このFMAの結果は、臨床的最小重要変化量¹⁾を上回る改善であった。また、WMFT(時間・FAS),握力,ピンチ力,FIMも改善した.よって対象者に対するrTMSと集中リハビリの併用療法は有意義であったと考える.
  介入前 介入4週後 介入8週後
Br上肢/手指 Ⅱ/Ⅱ Ⅲ/Ⅳ Ⅲ/Ⅳ
FMA 上肢項目 5点 24点 33点
WMFT 平均時間 120秒 81秒 32.4秒
FAS平均 0 1 1.83
握力 0kg 5.5kg 6.4kg
ピンチ力 0kg 3.2kg 7.2kg
FIM 58点 81点 95点
1)Arya KN, Verma R, Garg RK. Estimating the minimal clinically important
   difference of an upper extremity recovery measure in subacute stroke
   patients.Top Stroke Rehabil. 2011 Oct;18 Suppl 1:599-610.

2020年08月01日掲載

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