EBPTワークシート
第28回 「回復期脳卒中片麻痺者の上肢運動麻痺に対する高頻度反復経頭蓋磁気刺激療法と集中リハビリテーションにて効果を認めた一症例」解説

苑田会リハビリテーション病院 石井 健史
 

ステップ1.の解説:PICOの定式化

  Patientは,視床出血により左上下肢に重度の運動麻痺を呈した患者としました.Interventionは, rTMSと集中リハビリの併用療法としました.近年,脳卒中片麻痺患者の上肢運動麻痺を改善させることを目的にrTMSと集中リハビの併用療法が行われており良好な成績が報告されております.しかし回復期脳卒中片麻痺者へのこのようなアプローチを行った報告は少ないです.Comparisonは,通常リハビリとしました.OutcomeをFMA,WMFT,握力,ピンチ力,FIMとしました.

ステップ2.の解説: 検索文献

  最新のランダム化比較試験(RCT)を抽出するためにPubMedにてキーワード “Repetitive Transcranial Magnetic Stimulation” AND “Poststroke”  で検索,  その結果,計48件が抽出されました. 本症例のPICOに近く,介入可能な論文であると判断し,本文で示した論文を採用しました.

ステップ3.の解説:検索文献の批判的吟味

 比較した群間のベースラインは,FIMの認知項目以外は差がないと記載されていました.FIMの認知項目において刺激群が平均31.8(標準偏差4.8),偽刺激が平均28.8(標準偏差4.6)の為,この群間差は臨床的に影響ないと判断します.患者とアウトカム評価者に対して盲検化がなされています.無作為化は,置換ブロック法を採用しておりました.サンプルサイズは,群間差を0.95,差の標準偏差を1.0,検出力[→検定力を参照]を80%,有意水準を5%として計算すると各群19名が必要とされます.さらに,ドロップアウト[→脱落を参照]を5%と見込んでいますので,19名の5%は0.95≒1となります.従って,各群19+1=20名を取り込んだということになるので,今回のサンプルサイズは妥当であると考えます.本研究では,脱落者が2名おりましたが統計解析には含まれておりませんでした.統計解析は,ベースラインの群間比較には対応のないt検定[→t検定(差の検定としての)を参照]およびMann-WhitneyのU検定を用いておりました.rTMSの二群間の経時的な効果の分析には,反復測定分散分析が用いられており,事後検定にはDunnett検定[→Dunettの多重比較法を参照]とWilcoxonの順位和検定が用いられておりました.Bonferroniの不等式による補正[→Bonferroniの調整(多重比較法)を参照]もされておりました.また,最終時点における二群間の比較に対応のないt検定が用いられていました.本研究の目的がrTMSの追加効果を検証する事と記載されているので,反復測定の二元配置分散分析が適当と思われます.経時的変化の検証には有意水準の補正がなされていますが,最終時点における二群間の比較にそれがなされているかは不明です.したがって,統計解析方法は妥当でないと考えます.

ステップ4.の解説:臨床適用の可能性

  採用した論文の適応基準[→採用基準を参照]は,BS上肢Ⅴ以下,または手指Ⅴ以下,脳卒中発症後8週間以内であり,本症例と適応基準は一致しておりました.治療機器は磁気刺激装置マグプロシステムを使用しており,当院も同様のものを使用しておりました.刺激頻度に関しては,採用した論文は,5Hzで,当院で定めた基準は10Hzであり,Hzが異なりますが日本臨床神経生理学会の定めた高頻度の基準内であることから臨床適応可能と判断しました.集中リハビリ項目は,当院と同様ですがリハビリ内容の詳細は論文中に記載はありませんでした.介入計画については主治医の許可を得て,これらの情報を本症例に伝え,同意を得た上で実施しました.以上の内容を考慮し臨床適応可能と判断しました.

ステップ5.の解説:適用結果の分析

  今回,対象者のHope(復職)を考慮したPICOの定式化を行い,対象者の状況と当院の治療機器の両者を考慮し臨床適用の可能性を鑑みると,この論文が一番適していると判断し採用しました.適用した結果,介入中の有害事象[→イベントを参照]もなく安全に実施できました.rTMSと集中リハビリテーションの併用療法を,脳卒中片麻痺者の上肢運動麻痺に対して適用したところ、上肢機能およびADLアウトカムの改善を認めることができました。脳卒中患者片麻痺者に対するrTMSは,脳の機能的再構築が促進され,神経機能の回復を促進することが考えられております.rTMSとrTMS後集中リハビリテーションの併用療法は,効率よく麻痺を改善させる可能性があります.また,評価項目のFMA上肢項目の臨床的最小重要変化量¹⁾を上回る改善を示しました。今回、本症例を通じて、rTMSと集中リハビリテーションの併用療法は、脳卒中片麻痺者の上肢麻痺およびADLアウトカムの改善に有効である可能性が示されました.
  1) Arya KN, Verma R, Garg RK. Estimating the minimal clinically important
      difference of an upper extremity recovery measure in subacute stroke
      patients.Top Stroke Rehabil. 2011 Oct;18 Suppl 1:599-610.

2020年08月01日掲載

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