EBPTワークシート
第29回 「ギランバレー症候群患者に神経筋電気刺激を併用した理学療法」解説

埼玉県総合リハビリテーションセンター 小川 秀幸

ステップ1.の解説:PICOの定式化

 重度のギランバレー症候群患者において、神経筋電気刺激療法(neuromuscular electrical stimulation: NMES)は筋力増強効果が得られるのかという臨床疑問[→クリニカルクエスチョンを参照]に対してPICOを定式化しました。

ステップ2.の解説: 検索文献

 今回は、PubMedを利用しました。検索用語を(Guillain-Barre Syndrome[MeSH])、 (muscle strength)、(Neuromuscular Electrical Stimulation)の3つに設定し、AND検索を実施しました。
 検索結果は、Guillain-Barre Syndrome[MeSH])と (muscle strength)の2つのキーワードでは48件の論文が該当し、(Neuromuscular Electrical Stimulation)を加えると1件が該当しました。本文を確認し、PICOに適合していたため本論文を採択しました。

ステップ3.の解説:検索文献の批判的吟味

 この採用論文は、急性期のギランバレー症候群患者を対象としているため、病期の違いがあることにまず注意が必要でした。一方で、対象の包含基準[→採用基準を参照]や除外基準が明確に記載されています。さらに、NMESの詳細な方法についてオンラインで入手可能な解説(サプリメント)に記載されているため、本症例に対する理学療法介入の参考になると考えました。また、対象者の重症度はGBS disability score 4レベルであり、本症例と同等でした。
 研究デザインに関して、ランダム化[→無作為化を参照]の割付は右または左大腿のいずれかで電気刺激を受ける側を無作為に設定し、非刺激側を対照群としています。同一患者での刺激側と非刺激側でランダム化されていることは適切であるのか、疑問が残ります。その影響か、結果では大腿四頭筋の横断面積、膝伸展の最大等尺性筋力共に有意差は認めませんでした。ただし、NMESの有害事象[→イベントを参照]は認めなかったと報告されていました。
 以上より、本論文は、対照群を別に設けることが困難であるという限界があり変則的な設定ではありますが、安全性や実施プロトコルが提示されたギランバレー症候群患者に対するNMESの介入効果の検証を試みた数少ない論文であると言えます。また、結果はNMESの介入によるネガティブな影響を認めず、この論文のみにより介入効果が無いと立証されたわけではないと判断できますので、方法と禁忌を確認しながら本症例に適応できると考えました。

ステップ4.の解説:臨床適用の可能性

 本患者は採用論文の基準に適合し、電気治療の禁忌事項に当てはまるようなこともありませんでした。患者の受け入れ、主治医の許可、病院の環境(電気治療機器)、PT自身の技術(設定)、4つの視点から介入の可否を考慮した結果、今回の介入を適用することとしました。

ステップ5.の解説:適用結果の分析

 今回は、重度のギランバレー症候群患者に対し、NMESを併用した理学療法の介入を適用しました。ギランバレー症候群患者に対するNMESの効果を報告している論文は少なく、今回採用した試験的な論文一編でした。NMESの安全性と実施のプロトコルを詳細に記載してあるため、介入に適応することができました。
 本症例は、両下肢の膝伸展筋力がNMES開始時と最終評価時を比較すると改善していました。しかし、採用論文でも考察されていましたが、神経回復などの自然回復のために筋力が改善したのか、NMESの効果による筋力改善なのかは明確ではありません。そのため、エビデンス構築のためには対照群を設定してさらに症例数を増やして比較検討することが必要であると考えます。私達の日々の臨床の中から、エビデンスを構築していく一助となるように実践報告を積み重ねていくことも重要な視点です。

2020年09月01日掲載

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