EBPTワークシート
第30回 「左被殻出血後右片麻痺患者に対する課題指向的circuit trainingの効果」

竹川病院 櫻井 瑞紀

基本情報

年齢 54歳
性別 女性
診断名 左被殻出血
現病歴 X年Y月倒れているところを発見される。A病院搬送され左被殻出血の診断となり、同日緊急内視鏡下血種除去術施行(血腫量約30ml)。20病日B病院回復期リハビリテーション病棟へ入棟され、理学療法・作業療法・言語聴覚療法開始。
既往歴 高血圧症、バセドウ病(直近3年間は治療歴なし)

理学療法評価概略(154病日)

Stroke Impairment Assessment Set 37/76(運動項目2-1A-4-1-2)
触覚 手掌4/10 足背3/10
運動覚 大きな動きで動いていることは分かる
深部腱反射 膝蓋腱++ アキレス腱++ 上腕二頭筋+++ 上腕三頭筋++
Berg Balance Scale 36/56
10m歩行 30.6秒 28歩(四点杖)0.35m/sec
Timed Up and Go test 30.1秒(四点杖)
コース立方体組み合わせテスト 78点 IQ88
レーヴン色彩マトリックス検査 33/36
Barthel Index 85/100
Functional Independence Measure 85/126(運動:66/91 認知19/35)

ステップ1. PICO の定式化

Patient (患者) 左被殻出血後右片麻痺者に対して
Intervention (介入) 歩行に課題特異的なサーキットエクササイズは
Comparison (比較) 通常理学療法と比べて
Outcome (効果) 歩行パフォーマンス(10m歩行速度、TUG)の改善を認めるか

ステップ2. 検索文献

(☑一次情報 ・ □二次情報
検索式 検索データベース:PubMed
検索用語:physiotherapy(physical therapy) stroke randomised controlled trial circuit
論文タイトル Effects of circuit training as alternative to usual physiotherapy after stroke: randomised controlled trial
著者 Ingrid G L van de Port, Lotte E G Wevers, Eline Lindeman, Gert Kwakkel
雑誌名 BMJ. 2012; 344: e2672.
目的 課題指向的なサーキットトレーニングは、通常理学療法よりも優れた安全な治療戦略になるか明らかにすること
研究デザイン 一重盲検 多施設階層化 無作為化比較試験
対象 9つのリハビリテーションセンターの外来脳卒中患者。
適合基準:WHOの定義に従って脳卒中が確認されている。身体的補助なしで最低10 m歩くことができる(functional ambulation categories 3以上)。リハビリテーションセンターから自宅に退院していること。歩行能力・身体状態を改善するために、理学療法を継続する必要がある。インフォームドコンセントを実施し、12週間の集中プログラムに参加する意欲がある。
除外基準:認知障害を有する(mini-mental state examination 24点未満)、コミュニケーションが取れない(Utrechts Communicatie Onderzoek 4未満)、リハビリテーションセンターから30 km以上遠くに住んでいる。
介入 介入期間・頻度:週2回、90分、(24セッション)
介入群
歩行能力改善することを目的とした FIT-Strokeプログラム(段階的な課題指向のサーキットトレーニングプログラム)を実施した。FIT-Strokeプログラムにはウォーミングアップ(5分)、サーキットトレーニング(60分)、評価と短い休憩(10分)、およびグループゲーム(15分)の4ステージが含まれていた。プログラムを実施したセラピストは、1日研修を受けた。
対照群
外来理学療法にて1対1の治療を受けた。オランダの理学療法ガイドラインに従って、立位バランス・身体機能・歩行制御を改善するためのプログラムが実施された。
主要評価項目 Main outocome:
stroke impact scale運動項目
Secondary outcomes:
Stroke Impact Scale version 3.0(SIS)
Rivermead mobility index(RMI)
the falls efficacy scale(FES)
the Nottingham extended activities of daily living (NEADL)
the hospital anxiety and depression scale (HADS)
the fatigue severity scale (FSS)
the Motricity index(上肢・下肢)
functional ambulation categories
6分間歩行テスト
5メートル快適歩行速度テスト
timed balance test
timed up and go test
modified stairs test
letter cancellation task
結果 合計250人が対象となった。126名が介入群、124名が対照群にランダムに割り当てられた。介入群1名、対照群7名がドロップアウトとなり分析から除外された。平均出席率は83%であった。セッション当たりの平均治療時間は、対照群の34±10分、介入群の72±39分で差を認めた。ベースラインの差は脳卒中発症後日数、SISの1つの下位項目(strength)、Motricity index下肢、6分間歩行テストで認められた。
 
介入後の2群間のSIS運動項目の差は認められなかった。6分間歩行テスト、5メートル快適歩行速度テスト、modified stairs testにおいて差が認められた。介入後から12週間経ったフォローアップでの比較において、5メートル快適歩行速度テストのみ差を認めた。
結論 発症6カ月以内の軽~中等度の障害脳卒中患者において、課題指向的サーキットトレーニングは安全であり対面治療と同程度の効果を認めた。 脳卒中患者の理学療法を促進するために、サーキットトレーニングは費用対効果が高く有用な治療法であることが示唆された。

ステップ3. 検索文献の批判的吟味

☑ 研究デザインは適切である (☑ランダム化比較試験である)
□ 比較した群間のベースラインは同様である
☑ 盲検化されている (☑一重盲検 ・ □二重盲検)
☑ 患者数は十分に多い
☑ 割り付け時の対象者の85%以上が介入効果の判定対象となっている
□ 脱落者を割り付け時のグループに含めて解析している
☑ 統計的解析方法は妥当である
☑ 結果と考察との論理的整合性が認められる
 

ステップ4. 臨床適用の可能性

□ エビデンスの臨床像は自分の患者に近い
☑ 臨床適用が困難と思われるような禁忌条件・合併症等のリスクファクターはない
☑ 倫理的問題はない
☑ 自分の臨床能力として実施可能である
☑ 自分の施設における理学療法機器を用いて実施できる
☑ カンファレンス等における介入計画の提案に対してリハチームの同意が得られた
☑ エビデンスに基づいた理学療法士としての臨床判断に対して患者の同意が得られた
☑ その他:  
 
具体的な介入方針 理学療法士対面による、動画を使用した課題指向的トレーニングを実施。
論文の対象者よりも身体機能が低く、かつ運動性失語を有している。そのため、課題難易度を調整し動画を使用し理学療法士管理の下、状況を確認しながら実施した。
運動課題:6種類(座位1種類、立位3種類・歩行2種類)を1日1回(休憩を含め約60分)、4週間実施。
注意事項 歩行に課題指向的な運動課題を患者の身体機能ごとにどう設定するか。負荷量・難易度(課題の運動強度・持続時間・試行回数・頻度・休憩時間)の調整が必要。課題施行中の補助(手すり・杖、短下肢装具、介助有無)の調整が必要。

ステップ5. 適用結果の分析

評価項目 初期 最終(4W後)
Stroke Impairment Assessment Set 37/76
(運動項目2-1A-4-1-2)
39/76
(運動項目2-1A-4-1-2)
Berg Balance Scale 36/56 36/56
10m歩行
(四点杖)
30.6秒(0.35m/sec)
28歩(0.36m/step)
24.4秒(0.41m/sec)
24歩(0.42m/step)
Timed Up and Go test
(四点杖)
30.1秒 27.4秒

2020年11月26日掲載

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