EBPTワークシート
第31回 「パーキンソン病患者に対する理学療法の効果」

埼玉県総合リハビリテーションセンター 牧野 諒平

基本情報

年齢 70歳代
性別 女性
診断名 パーキンソン病
現病歴 無動で発症し、2010年パーキンソン病と診断され内服治療を行っていた。2015年から側弯が顕著となった。リハビリテーション目的で当センターに入院となった。
既往歴 50歳ごろから高血圧のため内服治療。

理学療法評価概略

本症例は無動でパーキンソン病を発症し、現在は手足に力が入りづらいと訴えている。独歩可能だが、すくみや小刻み歩行が出現してきており、自宅では転倒することも増えてきている。本人のホープでもある歩行能力の維持・改善が重要になると考えた。
入院時理学療法評価
Hoehn & Yahr stage 3
Unified Parkinson's disease Rating Scale (UPDRS) partⅢ 合計得点 40
10m快適歩行速度 8.1秒
歩数 19歩
6分間歩行試験 400m
Berg Balance Scale(BBS) 50点
片脚立位保持時間 右6秒/左5秒
Functional Reach Test(FRT) 20.0㎝
FIM合計 102
FIM運動項目 71
  • Hoehn & Yahr stage:パーキンソン病の病気の進行度(重症度)を示す指標とされている。Hoehn & Yahr stage 3は両側性症状に加えて姿勢保持障害が出現している状態である。
  • UPDRS part Ⅲ:パーキンソン病の統一された評価基準であり、part Ⅲは運動項目の検査である。点数が低いほど運動機能が良いことを示す。
  • 歩行能力:歩行速度、歩行耐久性は保たれているが、offではすくみ足や小刻み歩行が出現してきており、転倒リスクはあると考えられる。
  • バランス機能:片脚立位保持時間やFRTにて低下がみられている。360°回転ではすくみ足が出現してきており、方向転換では転倒リスクがあると考えられる。
  • FIM:歩行には監視が必要となっている。

ステップ1. PICO の定式化

Patient (患者) 特発性パーキンソン病患者
Intervention (介入) 服薬治療と理学療法の併用
Comparison (比較) 服薬治療のみ
Outcome (効果) 歩行能力、UPDRS part Ⅲ、バランス機能の改善

ステップ2. 検索文献

(☑一次情報 ・ □二次情報
検索式 検索データベース:PubMed
検索用語:"Parkinson's disease" AND rehabilitation AND "Randomized Controlled Trail"
論文タイトル Efficacy of a Physical Therapy Program in Patients With Parkinson's disease: A Randomized Controlled Trail.
著者 Ellis T, de Goede CJ, Feldman RG, Wolters EC, Kwakkel G, Wagenaar RC
書誌情報 Arch Phys Med Rehabil. 2005 Apr; 86(4): 626-32.
目的 入院による短期間の理学療法介入がパーキンソン病患者の身体機能や歩行能力に効果的かを調査する
研究デザイン ランダム化比較試験クロスオーバー試験
対象 特発性パーキンソン病(PD)患者68名
 Group A:35名
 Group B:33名
包括基準:1) 安定した服薬使用 2) Hoehn & Yahr stage Ⅱ~Ⅲ 3) Unified Parkinson's disease Rating Scale(UPDRS)の振戦、筋強剛、動作緩慢のいずれかの項目について最低1肢以上が1点以上 4) 独歩可能 5) 35歳~75歳 6) Mini-Mental State Examination scoreが24点以上で認知障害がない 7) 深刻な神経学的、整形外科的、心肺的疾病を有さない 8) 過去2か月、理学療法を受けていない
介入 Group A: 服薬治療に加えて1日に1.5時間以上の理学療法を週2回、6週間実施。6週間終了時点で評価、その後6週間は服薬治療のみの介入を行い、開始から12週の時点で評価を実施。
Group B: 通常の服薬治療のみを6週間実施して、その後、理学療法と服薬治療を6週間実施。評価は、6週後と12週後に実施。
Group A,Bともに開始から24週後にフォローアップ評価を実施。
理学療法はウォームアップ、ストレッチ、筋力強化、機能練習、歩行練習、バランス練習、リラクゼーションなどで構成された。
主要評価項目 Sickness Impact Profile(SIP-68)、UPDRS、快適歩行速度
結果 6週後の群間比較:SIP mobility(p=0.01)、快適歩行速度(p=0.01)、UPDRS ADLスコア(p=0.01)、UPDRS合計得点(p=0.007)で有意差あり。
3ヵ月後とベースラインを比較し、快適歩行速度とUPDRS ADLスコア・合計得点で有意差がみられた。
結論 PD患者は薬剤治療に加えて理学療法介入を行うことにより、短期的には快適歩行速度、モビリティに関与したQOL、ADLの改善に有効である可能性がある。長期的には快適歩行速度、UPDRS ADLスコア、UPDRS合計得点の改善に有効である可能性がある。

ステップ3. 検索文献の批判的吟味

☑ 研究デザインは適切である (☑ランダム化比較試験である)
☑ 比較した群間のベースラインは同様である
☑ 盲検化されている (☑一重盲検 ・ □二重盲検)
☑ 患者数は十分に多い
□ 割り付け時の対象者の85%以上が介入効果の判定対象となっている
□ 脱落者を割り付け時のグループに含めて解析している
☑ 統計的解析方法は妥当である
☑ 結果と考察との論理的整合性が認められる
 

ステップ4. 臨床適用の可能性

☑ エビデンスの臨床像は自分の患者に近い
☑ 臨床適用が困難と思われるような禁忌条件・合併症等のリスクファクターはない
☑ 倫理的問題はない
☑ 自分の臨床能力として実施可能である
☑ 自分の施設における理学療法機器を用いて実施できる
☑ カンファレンス等における介入計画の提案に対してリハチームの同意が得られた
☑ エビデンスに基づいた理学療法士としての臨床判断に対して患者の同意が得られた
□ その他:
具体的な介入方針 全身の柔軟性・可動域維持のためにセルフストレッチ指導を行う。歩行能力維持のため、トレッドミル歩行や屋外歩行などを行う。転倒防止のため、重心移動練習などによる安定性限界の拡大や、方向転換といったバランス練習を行う。
注意事項 姿勢保持障害があり、在宅生活でも転倒歴がある。安全を確保した上で理学療法介入を行う必要がある。

ステップ5. 適用結果の分析

当センターではPT、OT、ST合わせて1日に120分、週6回のリハビリテーションを4週間実施した。理学療法評価は入院から4週間後の退院時に行った。
4週間後理学療法評価
Hoehn & Yahr stage 3
Unified Parkinson's disease Rating Scale (UPDRS) partⅢ 合計得点 32
10m快適歩行速度 9.0秒
歩数 19歩
6分間歩行試験 480m
Berg Balance Scale(BBS) 56点
片脚立位保持時間 右20秒/左12秒
Functional Reach Test(FRT) 25.0㎝
FIM合計 106
FIM運動項目 73
採用論文では、理学療法介入によりPD患者の快適歩行速度の改善が認められた。本症例では採用論文のベースラインよりも歩行速度が速かったことが影響してか、歩行速度の改善は認められなかった。歩行耐久性の指標である6分間歩行試験は80mの改善が認められた。バランス機能は入院時よりも改善がみられ、BBSは満点となった。FIM得点はトイレ動作、浴槽への移乗といった項目が自立となり、ADLの改善を認めた。通常の服薬治療に加えて行う4週間の理学療法介入により、PD患者のUPDRS partⅢ、歩行耐久性、バランス機能、ADL能力の改善が期待できることが示唆された。

2021年01月04日掲載

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