変形性股関節症の疼痛に対する運動療法の効果:メタアナリシスの結果

Hernandez-Molina G, Reichenbach S, Zhang B, Lavalley M, Felson DT: Effects of Therapeutic Exercise for Hip Osteoarthritis Pain: Results of a Meta-Analysis Arthritis &Rheumatism(Arthritis Care & Research) 2008;59:1221-28.

PubMed PMID:18759315

  • No.0910-4
  • 執筆担当:
    山形県立保健医療大学
    保健医療学部
    理学療法学科
  • 掲載:2009年10月9日

【論文の概要】

Objective


下肢の変形性関節症(OA)に対する保存療法として運動療法がよく推奨されているが、それらは主に膝関節についての研究に基づいており、股関節に適用されるエビデンスは乏しい。

本研究の目的は、股関節に的を絞った運動療法に関するエビデンスをランダム化比較試験から抽出し、検証することである。

Methods

文献検索は、Medline(1966.1-2007.7)、EMB ase、PEDro、Cochrane databases、およびACR Annual Scientific Meeting(1996-2006)、EULAR(Annual European Congress of Rheumatology:1990-2007)に発表された論文及び要約を対象に、“hip osteoarthritis”または、“coxarthrosis”のキーワードと“exercise”、 “physical therapy”など運動療法に関する12のキーワードを組み合わせて行われた。

選択条件は、①ランダム化されている、②対照群が設けられている、③対象者のフォローアップ率が60%以上である、④変形性股関節症 (股OA) 例を対象とし、運動群(筋力増強運動あるいはそれに有酸素運動などを組み合わせた4週間以上の介入)とコントロール群(非運動群)で股関節の疼痛緩和効果について比較している、⑤OAに対して推奨されている[1.]VAS(visual analog scale)やWOMAC(Western Ontario and McMaster Universities osteoarthritis index)などの評価スケールによる疼痛評価を少なくとも1つ行っている研究とした。

これらのデータの抽出や選択、研究の質の評価は二人のレビューア―がそれぞれ独立して行い、意見が分かれた際には、両者あるいは3人目のレビューア―を含めた合議により最終判断を行った。また、必要に応じて著者と連絡を取り、情報を収集した。統計分析は、運動群とコントロール群の効果量(Effect sizes)の比較[2.]とI2統計量[3.4.]を使用した研究間の異質性 (heterogeneity) の評価を行った。

Results

文献検索で286の研究を抽出し、そのうち股OAや運動に関する評価のない研究、徒手療法やハリ治療を含んでいる研究、術後のリハビリテーションに焦点を当てている206の論文を除外した。さらに、重複して発表された研究や運動による介入がない研究、ランダム化比較試験でない研究などを除外し、最終的に9つの研究(n=1,234名)が、選択基準を満たした。運動の頻度は週に1~4回(平均3回)、1回の時間は30~60分(平均52.5分)であった。フォローアップ期間は運動プログラムが開始されてから6~26週(中間値は8週)であった。

運動群とコントロール群の比較では、運動群に効果が認められ、その効果量は、0.39(95%信頼区間は−0.68~−0.008; P=0.01)であった。しかし、研究間に高い異質性(I2=75%)が認められ、介入方法が異なる1つの研究(対象者に個別指導がなされておらず遵守率も低い)が原因であることがわかった。この研究を除いた8つの研究(n=493)では、研究間の異質性は0%となり、運動による効果量は−0.47(95%信頼区間は−0.65~−0.28; P<0.0001)であった。さらに、膝関節症を合併する症例を除いた場合は、効果量が−0.58(95%信頼区間は−0.81~−0.35; P<0.0001)、異質性は0%であった。

Discussion

下肢のOAの痛みに対する運動の効果に関して、その効果量は低度(0.2)から中等度(0.7)と報告されている。今回の研究では、当初の選択条件を満たした対象論文全体を含めると、運動による効果が低度であったが、専門職による個別指導を行っていない研究を除外することで、効果が中等度になった。今回の選択条件であった筋力増強運動を含めた運動プログラムと、個人に合わせたプログラムが股OAの痛みの軽減に効果的であることが示唆された。

Conclusion

運動療法、特に筋力強化の要素を持つ運動は、股OAの疼痛を軽減するために有効である。

【解説】

本研究結果は、これまでに発表された論文や診療ガイドライン[5.]で示されている股OAに対する運動療法の効果に関する推奨度と大差はない。しかし、変形性股関節症のみに焦点を当てエビデンスを検証した点、また種々の運動療法の中で筋力増強運動による効果に注目した点で、より具体的な情報を提供しているといえる。
本論文で興味ある点は、股OAの痛みの軽減に筋力増強運動を含めた運動プログラムとともに個人に合わせたプログラムが有効である可能性が示唆されている点である。最初のメタアナリシスで高い異質性の原因となった1つの研究を除くことで、効果量が大きく増加した。除外された研究は、個別にプログラムを作成したり、運動の方法を直接教えたりするのではなく、各人がビデオを見ながら体操を続けるという介入であった。そのため運動を適切に行っていたかの確認もなく、運動の完遂率も他の研究と比べて極端に低かった。それらの要因が、その研究において効果が得られなかった原因ではないかと考察している。一方、この研究以外のすべての報告は理学療法士によって個別のプログラムの提供および指導がなされており、こうした個別指導の有効性が示唆されている。この結果は、股 OAに対する運動療法の有効性とともに運動の専門家としての理学療法士の必要性を際立たせる結果とも言える。
しかし、痛みに限らず、股OAに対する運動療法の中・長期的な効果は不明[5.]で、症状の進行に対して予防的効果を有するかどうかもわかっていない。また、どういった運動の種類や組み合わせが、股OA症例の持つ障害のどの部分に効果を有するかどうかについても、今後検証していく必要性がある。
本論文に出てくる「効果量」とは、効果の大きさを標準化したもので、運動群とコントロール群の平均値の差を、両群を合わせた標準偏差で割ることにより算出している。効果量の絶対値が0.2-0.4を小さい効果(コントロール群と比較して有効)、0.5-0.7を中等度、0.8以上を大きい効果として判定している。また、メタアナリシスにおける「異質性」とは、統合するデータ(結果)における研究間のバラツキ、あるいは各研究における対象者や介入方法、対照群、結果の指標、研究手法などの違いや差を表わす。本研究ではCochran[4.]の異質性の統計量(Q)に基づいたI2が指標として用いられており、I2 = 75%とは、結果にみられる変動の75%が偶然ではなく研究間の異質性により生じていると判断されている。

【引用文献】

  1. Altman R, Brandt K, Hochberg M, Moskowitz R, Bellamy N, Bloch DA, et al. Design and conduct of clinical trials in patients with osteoarthritis: recommendations from a task force of the Osteoarthritis Research Society. Results from a workshop. Osteoarthritis Cartilage 1996; 4: 217-43.
  2. Hedges LV, Olkin I, Statistical methods for meta-analysis. San Diego:Academic Press;1985.
  3. Whitehead A. Combining estimates of a treatment difference across trials.In: Whitehead A, editor. Meta-analysis of controlled clinical trials. Chichester (UK): The Atrium Southern Gate; 2002.p.59-60,88-91.
  4. Cochran WG. The combination of estimates from different experiments. Biometrics 1954; 10:102-29.
  5. 日本整形外科学会診療ガイドライン委員会, 変形性股関節症ガイドライン策定委員会. 変形性股関節症診療ガイドライン. 2008; 南江堂: 80-82.

2009年10月09日掲載

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