前十字靱帯再建術後の筋量と機能における早期漸増的遠心性トレーニングの効果:術後1年の無作為化比較試験

Gerber, JP. Marcus, RL. Dibble, LE. Greis, PE. Burks, RT. LaStayo, PC.: Effects of early progressive eccentric exercise on muscle size and function after anterior cruciate ligament reconstruction: A 1-year follow-up study of a randomized clinical trial. Physical Therapy 2009;89:51-59.

PubMed PMID:18988664

  • No.0912-1
  • 執筆担当:
    山形県立保健医療大学
    保健医療学部
    理学療法学科
  • 掲載:2009年12月3日

【論文の概要】

はじめに

前十字靱帯(ACL)再建術後において筋萎縮や筋力低下を最小限に抑えるために、早期から安全で効果的なトレーニング負荷を実施することが重要である。漸増的な遠心性抵抗運動は筋量や筋力を増加させる一つの方法である。筆者らは先行研究として、漸増的遠心性トレーニングをACL再建術後3週から15週まで実施し、標準的なトレーニングと比較して大腿直筋、大殿筋の筋量と筋力、片脚跳躍距離が有意に向上すること、遠心性トレーニングが安全であることを報告している。しかし術後の治療効果を比較するには、術後26週の治療成績では不十分であり、少なくとも1年の期間をみる必要がある。

この研究の目的は、漸増的遠心性トレーニングの術後1年の治療効果を標準トレーニングと比較して明らかにすることである。

方法

対象:
先行研究に参加したACL再建術後患者54名(受傷前は中等度の活動性、18~50歳)。再建術は半腱様筋と薄筋腱もしくは膝蓋腱を用いた術式。下肢に骨折や再建術の既往、X線での膝関節異常、後十字靱帯損傷、外側側副靭帯損傷、Ⅲ度の内側側副靭帯損傷、明らかな関節軟骨損傷や半月板損傷を有する患者は除外した。14名が除外され、遠心性トレーニング群と標準トレーニング群に20名ずつ無作為割り付けをした。遠心性トレーニング群3名(再損傷2名を含む)と標準トレーニング群5名(再損傷2名を含む)が脱落した。両群の基本的特性に差はなかった。

トレーニングプログラム:
標準トレーニングはCKC(closed kinetic chain)、抵抗運動、膝関節ROM練習の内容であり、Ⅲ期に分けたプログラムを用いた。遠心性トレーニング群は、標準トレーニングに加えて術後3週から遠心性トレーニング用エルゴメーター(20~40rpm、膝屈曲範囲20~60°)を用いて行った。5分間の低負荷から始め、漸増的に30分間の高負荷まで行った。標準トレーニング群も求心性エルゴメーターを同じ時間実施した。両群ともトレーニング期間は術後15週までとし、それ以降は週2~3回のホームエクササイズ(一般的な漸増抵抗運動)を術後1年まで行った。

評価:
筋量はMRIによる両側下肢の大腿骨頭から脛骨大腿関節レベルの水平断の画像から計測した。計測筋は大腿直筋、大殿筋、ハムストリングス、薄筋とした。臨床評価としてKT-1000による膝関節前後不安定性、最大等速性筋力(角速度60°/秒、大腿四頭筋、ハムストリングス)、片脚跳躍距離を測定し、 ADL活動性、Lysholm Knee Rating Scale、Tegner Activity Scaleを調査した。各評価は術後3週と1年に行い両群を比較した。

結果

筋量:

  1. 大腿直筋:
    術後3週から1年で両群とも有意に増加した(p<.001)。その増加率は、標準トレーニング群が13.4±10.3%(平均± 標準偏差)、遠心性トレーニング群が23.3±14.1%であり、遠心性トレーニング群が有意に増加した(p<.01)。
  2. 大殿筋:
    大腿骨頭レベルの大殿筋遠位部を分析した。術後3週から1年で両群とも有意に増加した(p<.001)。増加率は標準トレーニング群が11.6±10.4%、遠心性トレーニング群が20.6±12.9%であり、遠心性トレーニング群が有意に増加した(p<.05)
  3. ハムストリングス、薄筋:
    術後3週から1年で両群とも有意に増加したが、増加率は2群間で差はなかった。

臨床評価:

  1. KT-100による膝関節前後不安定性:
    術後3週、1年ともに両群で差はなかった。術後1年では遠心性トレーニング群が1.7±1.9 mm、標準トレーニング群が1.9±1.5 mmに回復した。
  2. 最大筋力:
    大腿四頭筋:術後3週から1年で標準トレーニング群は約9%の増加、遠心性トレーニング群は約33%の増加を示した(p<.01)。ハムストリングス:両群とも術後3週から1年で増加傾向を示したが、2群間で差はなかった。
  3. 片脚跳躍距離:
    術後3週から1年で遠心性トレーニング群は有意に増加した(p<.01)。増加率は、遠心性トレーニング群が約50%、標準トレーニング群が21%であった。
  4. ADL活動性、Lysholm Knee Rating Scale、Tegner Activity Scale:
    両群とも術後1年で有意に改善した(p<.01)が、2群間で差はなかった。

考察

筆者らが行った先行研究ではACL再建術後3週で大腿直筋の萎縮が25~30%進行することが報告されている。今回の研究では、遠心性トレーニング群の増加が平均23%であったことから術前レベルの筋量に改善したことになる。これまでの報告では術後早期から筋に過負荷を与える遠心性トレーニングは行われていない。その理由には移植した腱への影響や安全性の点が考えられる。そのため術後何年も筋萎縮や筋力低下が残存するのではないか。しかし今回の結果から再建靭帯への影響は問題ないことが証明された。また術後早期の3ヶ月間のトレーニング期間が筋萎縮や筋力低下を減少させる臨界期間であることも示唆された。今回の遠心性トレーニングが膝伸展より股伸展のストラテジーで行われたことは重要な点である。今回、薄筋を用いて再建した患者では術後1年後でも薄筋の筋量が減少していた。術式による影響があるかについては今後の課題である。

【解説】

これまで著者らは、遠心性エルゴメーターを用いて遠心性トレーニングの効果を報告している。このエルゴメーターは背もたれつきのシートに腰掛けて前方に位置するペダルを漕ぐタイプのものであり、大腿四頭筋だけでなく大殿筋の収縮が得られることが特徴である。
2007年に報告された2論文[1.2.]の続編をRCTで求めた研究が本論文である。本論文で実施されている標準トレーニングの内容は一般的に行われている運動療法の内容である。術後3週から膝・股関節伸筋群の遠心性トレーニングを適切に組み合わせることで再建靭帯の安全性も確保され、大腿直筋、大殿筋の筋萎縮、筋力低下が最小限に抑えられ、片脚跳躍能力が高まることをRCTで明らかにした点で論文としての価値は高いといえる。また、本論文の筋量の計測にはMRIを使用し、大腿骨全体を8mmスライス、15mm間隔で撮影し、画像から各筋腹全体のボリュームを計測しており、信頼できる結果といえる。

【参考文献】

  1. Gerber, JP. et al.: Effects of early progressive eccentric exercise on muscle structure after anterior cruciate ligament reconstruction. J Bone Joint Surg Am 2007;89:559-570.
  2. Gerber, JP. et al.: Safety, feasibility, and efficacy of negative work exercise via eccentric muscle activity following anterior cruciate ligament reconstruction. J Orthop Sports Phys Ther 2007;37:10 -18.

2009年12月03日掲載

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