痙直型脳性麻痺児と重度外傷性脳損傷児の運動バランス能力に関する在宅の課題指向型エクササイズの効果

Katz-Leurer M, Rotem H, Keren O, Meyer S.:The effects of a 'home-based' task-oriented exercise programme on motor and balance performance in children with spastic cerebral palsy and severe traumatic brain injury. Clin Rehabil. 2009;23:714-24.

PubMed PMID:19506005

  • No.1003-2
  • 執筆担当:
    山形県立保健医療大学
    保健医療学部
    理学療法学科
  • 掲載:2010年3月27日

【論文の概要】

背景・目的

最近、家庭で行なわれる課題指向型エクササイズが、脳性麻痺児の基本的運動能力や筋力及び歩行効率を改善する報告[1.]がなされた。その後、諸家[2.-4.]らが、脳性麻痺児や外傷性脳損傷児等の運動障害のある児に対する在宅プログラムに関して、順守率やその効果を報告している。

本研究の目的は、単純な在宅プログラムの実行可能性と、外傷性脳損傷児や脳性麻痺児における介入の短期間の効果を評価することである。

方法

研究デザイン:
無作為化臨床試験

対象:
子どもリハビリテーション病院の外来患者か元患者であり、取り込み基準は、7から13歳で、自力で椅子から立ち上がることができ、転倒しないで5秒以上立位を維持できること。また、下肢の他動的可動域の明らかな制限がないことであった。当初の30名の子供のうち、この基準を満たした外傷性脳損傷児10名(平均年齢9±3.3歳)は、いずれも閉鎖性頭部外傷で損傷後1年経過し独立歩行が可能であった。脳性麻痺児10名(平均年齢8.5±3.3歳)はGMFCSIあるいはⅡであった。

手順:
ベースライン測定後、子ども達は、介入群か対照群に無作為に割り付けられた。対照群の5人の脳性麻痺児、5人の後天的外傷性脳損傷児は、規則的な日常の活動を続けるように指示され、6週後に測定が行なわれた。介入群もまた日々の規則的な活動を続けることを指示され、加えて、6週間の間、一週に連続して5日間の家庭エクササイズを行ない、6週後に2回目の測定、さらにその6週後に3回目の測定が行なわれた。

介入:
立ち上がり、左右の下肢で前方と側方へのステップ、これを各エクササイズ1分間3セッションを、6週間に週5回、両親の管理下で実行された。各エクササイズの回数は、はじめ2週間は、初回測定の最大能力の50%、3週目から75%に設定された。

評価:
バランスの評価として、Functional Reach Test(FRT)、Timed Up and Go Test(TUG)。
歩行能力の評価として、10m歩行速度、2分間歩行テスト、エネルギー消費指数。
ハンドヘルドダイナモメーターを用いた股関節伸展筋・外転筋、膝関節屈筋・伸展筋の最大等尺性筋力が測定された。

統計:
2群間の比較にはマン・ホイットニー検定及びχ2検定を用い、介入群内での比較にはウイルコクソン符号順位検定を用いて分析した。

結果

介入群は5名の外傷性脳損傷児と5名の脳性麻痺児(片麻痺2人、両麻痺3人)であり、両群の対象者特性及びベースラインの有意な差はなかった。実行可能性では、10人のうち9人がプログラムを完了し、順守率は90%であった。6週後に、 介入群でFRTが有意に増加し、TUGで有意に減少した。一方、対照群では変化はなかった。他の結果では、両群に有意な差はみられなかった。また、介入群において12週のフォローアップ期間、TUGの平均の変化は維持される傾向にあった。

考察

家庭で行われる立ち上がりとステップの短期間の課題指向型エクササイズは実行可能であり、機能的バランス能力は向上し、それはトレーニングが終了した後も維持した。しかし、筋力や歩行能力に改善は見られなかった。プログラム順守率がこれまでの研究[2.-4.]より高かった理由は、プログラム手順の構成と関連したかもしれない。また、立ち上がりでは漸増負荷を行なわなかったが、この方法は、筋力を得るというよりはむしろスキルとしてのトレーニングに関係したかもしれない。

【解説】

脳性麻痺や外傷性脳損傷の子どもたちは、立ち上がりとステップという日常活動に密接に関わるプログラムを短期間実践したことで順守率がこれまでの研究よりも向上し、家庭において特定のプログラムでなくともバランス機能の改善を示したことは、臨床的意義を有すると考えられる。しかし、著者も研究の限界で述べているように、対象者数が少ないことを考えて結果を解釈する必要があると思われる。また、対象者が全て歩行可能なこともこのプログラムを採用できた要因と考えることができる。機能障害がより重度な場合に採用される単純なエクササイズ、また画一的な練習を行なうことの意義の考慮は今後の検討課題であると思われる。
本論文における在宅プログラム順守率を高めるプログラム手順には一考の価値を有すると思われる。それは、エクササイズの設定が単純で、参加者にとって退屈でないという認識に基づいていたことである[5]。また、セラピストは毎週、子供と親に電話をして、プログラムを続けるために彼らを励まし、どんな質問にでも答え問題を解決しようとした。さらに、日々の実行を日記に記していた。このような積極的フィードバックが子どものモチベーションを促進し順守率を高めたと考えられる。

【引用文献】

  1. Dodd KJ, Taylor NF, Graham HK : A randomized clinical trial of strength training in young people with cerebral palsy. Dev Med Child Neurol 2003; 45: 652--57.
  2. Liao HF, Liu YC, Liu WY, Lin YT : Effectiveness of loaded sit-to-stand resistance exercise for children with mild spastic diplegia: a randomized clinical trial. Arch Phys Med Rehabil 2007; 88: 25--31.
  3. Katz-Leurer M, Eizenstein E, Lieberman DG.: Feasibility of motor capability training at home in children with acquired brain injury. Physiotherapy 2008; 94: 71--77.
  4. Fragala-Pinkham MA, Haley SM, Rabin J, Kharasch VS. : A fitness program for children with disabilities. Phys Ther 2005; 85: 1182--200.
  5. Henry KD, Rosemond C, Eckert LB. : Effect of number of home exercises on compliance and performance in adults over 65 years of age. Phys Ther 1998; 78: 270--77.

2010年03月27日掲載

PAGETOP