脳性麻痺の若者に対するインターネットに基づく身体活動介入:無作為化比較試験

Maher CA, Williams MT, Olds T, Lane AE: An internet-based physical activity intervention for adolescents with cerebral palsy: a randomized controlled trial. Dev Med Child Neurol. 2010; 52(5):448-455.

PubMed PMID:20132138

  • No.1009-1
  • 執筆担当:
    山形県立保健医療大学
    保健医療学部
    理学療法学科
  • 掲載:2010年9月11日

【論文の概要】

背景

脳性麻痺を含む肢体不自由児者の健康管理は、健康促進のため障害を最小にするように変化している。身体活動の取り組みは、筋力低下や肥満等を防ぎ、機能的な独立を維持し、健康を促進することが期待できる。これまで、脳性麻痺の身体活動を向上する介入の報告はみあたらない。また、脳性麻痺へのサービス提供は対面で行なわれ、経済および人的資源の限界を本質的に持ち、特定の結果を得るための必要量が不足していることが考えられる。さらに、過去のコンピューターを媒介とした介入において、脳性麻痺を対象として身体活動に焦点を当てたものはない。

目的

本研究の目的は、脳性麻痺の若者のために開発されたインターネットに基づくプログラムが身体活動行動を改善する効果を検証することである。また、介入による、運動知識、運動態度、自己効力感と意志、機能的能力の向上の効果を検証することである。

方法

研究デザイン:
無作為化比較試験

対象:
11歳から17歳の範囲でGMFCSがⅠ~Ⅲの脳性麻痺で、ウエブサイト利用のための読解力と理解力があり、インターネットに毎週アクセスできる環境にある41名である(男性26名、女性15名。平均年齢13歳7ヶ月。GMFCSⅠ21名、Ⅱ17名、Ⅲ3名。片麻痺16名、四肢麻痺25名。)。4ヶ月の間に整形外科的手術が予定されている場合は除外された。
対象は、GMFCSに基づく層別無作為抽出により、介入群20名と対照群21名に割り付けられた。

介入:
介入群に対する活動の説明は、「Get Set website」で毎週発表された。Get Setは双方向的なインターネットに基づくプログラムで、認知理論に基づき、教育、クイズ、目標設定、内省、明確な役割などを含んでいる。プログラムは8週間実行された。一方対照群は、評価の目的は健康の管理であると知らされ、自由で普通の活動をすることを奨励された。すべての対象者は、研究期間を通して普段のセラピーを受け続けた。

評価:
NL-1000 activity monitorsを用いて1週間の歩数と歩行距離、moderate to vigorous physical activity (MVPA) minutesを測定した。Multimedia Activity Recall for Children and Adolescents (MARCA)[1.]を用いて身体活動行動を測定した。Lifestyle Education for Activity Program [LEAP] Ⅱ scale[2.]を用いて、運動知識、運動態度、運動意志、自己効力感が測定された。また、6分間歩行テストが行なわれた。これらの測定は、ベースライン、10週後、20週後に行われた。

統計:
各期の2群間の比較にはt検定及びχ2検定を用い、ベースラインから10週と20週の結果の変化は、混合モデル分析を用い分析した。

結果

対象者特性またベースライン時の結果について、両群間に有意な差はなかった。介入群の身体活動行動は10週と20週に増加した。一方対照群では減少した。 10週時歩行距離に有意な変化が見られたが、20週時両群間に有意な差はなかった。10週か20週で身体活動変量(MARCAによって測定された身体活動レベルとMVPA時間)にわずかのパターンの変化が見られた。

考察

身体活動行動の歩行距離に両群間の変化が一貫したパターンを示したことは、身体活動と健康の効果の関係において、有望な発見であった。しかし一方、MARCAを用いた身体活動評価において変化がなかった理由として、介入群対象者が身体活動の方法を変更したことが考えられた。また、サンプルサイズが小さかったという研究限界が考えられた。
インターネットに基づく健康サービス配信は新興分野でかつ身近なものであり、費用効率も高いと考えられるが、今後は、効果的な配信の期間や強さ、また両親の介入等の補助的構成要素の検討が必要である。

【解説】

本研究は、脳性麻痺の身体活動の行動に着目し、その必要量をインターネットに基づく介入で補うことを考慮し、身体活動行動に積極的に影響する可能性を示唆したものである。また、インターネットによる双方向性を高める取り組みや身体活動向上のために運動知識や態度、自己効力感や意志に着目し理論化した点が評価できると考えられる。本邦でも本研究の対象年齢である11歳から17歳は、就学上の関係も含めた生活において、活動量の制限や理学療法を受ける機会の制約も考えられるところである。この点で、本研究が同対象に対する日常生活における身体活動向上のための取り組みを考える端緒になるものと考えられる。

【参考文献】

  1. Olds T, Ridley K, Dollman JM, Maher CA. :The validity of a computerized use of time recall, the Multimedia Activity Recall for Children and Adolescents. Pediatr Exerc Sci:In Press.
  2. Motl RW, Dishman RK, Trost SG, et al. :Factorial validity and invariance of questionnaires measuring social-cognitive determinants of physical activity among adolescent girls. Prev Med 2000; 31: 584--94
NL-1000 activity monitorsに関する参照URL
www.new-lifestyles.com/NL-1000_Users_Guide.pdf

2010年09月11日掲載

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