触覚識別トレーニング中に健側の鏡面像を見たときに、触覚識別トレーニングの効果は増強される

Moseley GL, Wiech K.: The effect of tactile discrimination training is enhanced when patients watch the reflected image of their unaffected limb during training. Pain. 2009 ; 144: 314-9.

PubMed PMID:19501965

  • No.1010-2
  • 執筆担当:
    甲南女子大学
    看護リハビリテーション学部
    理学療法学科
  • 掲載:2010年9月25日

【論文の概要】

背景

幻肢痛患者やCRPS患者において、感覚識別トレーニングは触覚の鋭敏さを増加し、皮質の再組織化を正常化し、痛みを減少させる。健常者において、刺激されている部位を見ている方が感覚野の反応、触覚の鋭敏さは大きくなる。

目的

触覚識別トレーニングに健肢側の鏡面像を見る方法を組み合わせたトレーニングの効果がCRPS患者においても増強されるか検討した。

方法

研究デザイン:比較研究
10症例が4つの条件下(A:顔は触覚刺激されている患肢側を向いており、健肢側の鏡面像を見ている、B:触覚刺激されていない健肢側を直接見る、C:顔は触覚刺激されている患肢側を向いているが、健肢は隠されているため、健側の鏡面像は見ることができない、D:顔は触覚刺激されていない健肢側を向いているが、健肢は隠されており見ることができない)に30分間の触覚識別トレーニングを行なった。触覚刺激は直径2mmと11mmのプローブを用いて、患側の手背部5ヶ所にランダムに行い、プローブの種類と刺激場所を識別するように求めた。

結果

触覚識別トレーニングはトレーニング中に健肢側の鏡面像を見ているとき(条件A:顔は触覚刺激されている患肢側を向いており、健肢側の鏡面像を見ている)に触覚の鋭敏さが長期的に改善する。2点識別覚はトレーニング前よりもトレーニング2日後には8mm改善している。条件Aは他の条件よりも安静時痛について改善しており、痛みの変化と2点識別覚の変化は強く相関している(r=0.83)けれども、経過観察2日後には痛みに関しては他の条件と比較して何の効果も残っていない。他の条件において、触覚の鋭敏さは経過観察2日後にトレーニング前のレベルに戻っている。

考察

本研究結果はCRPSへの対応を進歩させ、触覚の回復が主なリハビリテーションの対象である神経損傷や神経病に関係している他の疾患(例えば、脳卒中)のリハビリテーションへの示唆にも富んでいる。

【解説】

Moseleyらは先行研究においてCRPS患者に対して触覚識別トレーニングが触覚刺激のみを行なう群や対照群と比較して、より痛みが減少し、触覚の鋭敏さも改善することを報告している[1.]。鏡を用いたMirror TherapyはRamachandranが始めに幻肢痛患者に対して効果的であることを報告しており[2.]、 McCabeらは初期のCRPS患者に対してMirror Therapyが効果的であることを報告している[3.]。
本研究ではこれらの先行研究の結果を考慮して、視覚情報と触覚とをうまく融合させた手法の効果を報告している。近年の研究において、CRPS患者は中枢神経系の変調が生じていることが明らかになってきていることから、本研究は本邦の臨床現場におけるCRPS患者に対する理学療法への応用が期待される。

【参考文献】

  1. Moseley GL, Zalucki NM, Wiech K.:Tactile discrimination, but not tactile stimulation alone, reduces chronic limb pain. Pain. 2008; 137: 600-8.
  2. Ramachandran VS, Rogers-Ramachandran D.: Synaesthesia in phantom limbs induced with mirrors. Proc Biol Sci. 1996; 263: 377-86.
  3. McCabe CS, Haigh RC, Ring EF, Halligan PW, Wall PD, Blake DR.: A controlled pilot study of the utility of mirror visual feedback in the treatment of complex regional pain syndrome (type 1).Rheumatology (Oxford). 2003; 42: 97-101.

2010年09月25日掲載

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