日常生活動作を快適に行うための表面筋電図によるバイオフィードバック:職場での身体活動と健康の改善

E Peper, A Booiman, M Tallard, N Takebayashi.: Surface electromyographic biofeedback to optimaize performance in daily life : Improving physical fitness and health at the worksite. バイオフィードバック研究. 2010年37巻1号(29-36)

PubMed PMID:110007594095

  • No.1012-2
  • 執筆担当:
    甲南女子大学
    看護リハビリテーション学部
    理学療法学科
  • 掲載:2010年11月18日

【論文の概要】

背景と目的

深刻な痛みにより医師を受診する患者の30%以上で、筋肉の痛みは主要な不快感の原因となっている。これらの痛みは、ディスポネシス(課題を施行する際の不必要で無意識的な筋肉への誤った負荷)が原因であることが多い。
ディスポネシスは、以下のような要素で構成されている。
  1. 課題施行時の過度の筋緊張
  2. 課題施行時の不必要な筋緊張(不適切な共収縮)
  3. 課題終了後の筋弛緩不全
  4. 課題施行中に次の動作に移るために必要な筋弛緩の不全(表面筋電図では微小な間隙として現れる)

このような慢性的で潜在的な筋緊張は、頭痛、背部痛、関節痛、運動の反復性負荷による損傷、筋肉痛など、多くの障害の進行と持続の原因となる重要な共通因子である。ディスポネシスは、表面筋電図(SEMG)によるフィードバックで測定可能である。本論文は、二つの臨床事例を通して、ディスポネシスを表面筋電図によるバイオフィードバックによって減少できるかについて検証した。

対象

事例1:りんご詰め作業の仕事を始めてから頚や肩の痛みが生じ、治療が必要となった45歳の女性
事例2:ジムの運動機器を用いたトレーニング中に肩の過剰な緊張を感じる51歳の女性

方法

両事例とも、ディスポネシスがあると予想される上部僧帽筋と前腕屈筋群の表面筋電図をとり、記録された波形を見せながら作業中・運動中のディスポネシスをフィードバックさせ、筋肉への誤った負荷を正すようにセルフコントロールさせた。

結果

事例1では、表面筋電図によりりんご詰め作業時のディスポネシスに気づかせ、それをベースライン以下になるように自分でコントロールさせることにより、職場や家庭における首と肩の持続的な痛みを減少させることができた。
また、事例2においても、ジムでの運動機器を使用時に、肩や前腕に生じる過剰な同時収縮(特に右側)があることに気づかせ、それを自ら減少させることで、運動後も緊張が残らずリラックスが得られていることが表面筋電図によって確認された。

考察

表面筋電図は、筋肉のディスポネシスの状態を患者と治療者の双方に対し、筋肉の状態の評価、モニタリング、フィードバックすることができる。それは、ディスポネシスへの気付きを与え、患者に随意的にコントロールさせることでそのディスポネシスを減少させ、健康の改善につなげることができる有用な臨床機器と考えられる。

【解説】

バイオフィードバックでの表面筋電図の使用は、単に筋肉の活動状態を「測定」「評価」を行うだけでなく、本稿で述べられているように、誤った筋電を本人に自覚させ、筋活動を「セルフコントロールさせる」という治療的な意味あいが強い[1.]。特に動作中のディスポネシスの状態を自覚させ、それを適正な状態に改善できるように主体的に取り組むことは、運動のコントロール能力の改善とともに、心身にさまざまな負荷をかけるストレスを減少させることにつながる[2.]。
ディスポネシスの表面筋電図による測定は非常に簡易で、しかもその視覚的なフィードバックは運動を行う本人に非常にわかりやすい形であるため、障害をもつ人たちの代償運動の改善から、健常人の健康増進活動まで幅広く利用できるものと思われる[2.-3.]。

【参考文献】

  1. Erik Peper:The possible uses of biofeedback in education. In Mind/body integration: Essential readings in biofeedback.New York: Plenum.1979.
  2. George B. Whatmore and Daniel R. Kohli:Dysponesis: A Neurophysiological Factor in Functional Disorders. In Mind/body integration: Essential readings in biofeedback.New York: Plenum.1979.
  3. Bolek J: The role of surface electromyography in the restoration of motor function. Biofeedback 35(1) : 23-26. 2007.

2010年11月18日掲載

PAGETOP