初発脳卒中発症後60日間における意味ある歩行速度の改善:臨床上重要な最小限の変化

Julie K. Tilson, Katherine J. Sullivan, Steven Y. Cen, Dorian K. Rose, Cherisha H. Koradia, Stanley P. Azen, Pamela W. Duncan; Locomotor Experience Applied Post Stroke (LEAPS) Investigative Team, Meaningful Gait Speed Improvement During the First 60 Days Poststroke: Minimal Clinically Important Difference, Physical Therapy, 2010, 90, 196-208.

PubMed PMID:17996052

  • No.1104-2
  • 執筆担当:
    甲南女子大学
    看護リハビリテーション学部
    理学療法学科
  • 掲載:2011年4月1日

【論文の概要】

背景

脳卒中を起こした人において歩行速度に改善が見られた際に、機能が向上した、機能障害が減ったと患者がコメントすることがある。しかしながら、それらの関係性、つまり臨床的に意味のある最小限の歩行速度の変化や、脳血管障害患者における機能的に重要な変化と歩行速度との関係性については明らかにされていない。

目的

本研究の目的は、発症後20~60病日の脳血管障害患者において、修正版ランキンスケール(mRS)の向上に伴った快適歩行速度での臨床的に重要な最小変化(MCID)を決定することである。

研究デザイン

本研究は、前向き研究、経時的、コホート研究である。

方法

対象者は、多施設型無作為抽出臨床研究であるLocomotor Experience Applied Post Stroke(LEAPS)に登録された初発脳卒中患者283名である。発症後20日後および60日後に快適歩行速度、mRSが評価された。mRSにおいて1段階以上の改善が見られた場合を、機能障害レベルの意味ある変化とした。

結果

快適歩行速度の平均±標準偏差は、発症後20日後では0.18±0.16m/秒、60日後では0.39±0.22m/秒であった。対象者全体では、機能障害レベルが1段階以上改善したのは47.3%であった。mRSの結果に基づくと、MCIDは快適歩行速度において0.16m/秒以上増加する変化であると予測された。本研究の限界は、快適歩行速度における予測MCIDは73.9%の感受性、57.0%の特異性にとどまったことであるが、その理由としてはmRSが歩行を評価する指標ではないことが考えられた。

結論

我々は、亜急性期の脳卒中患者の歩行速度に低下が見られる人において、臨床上重要な最小の歩行速度変化を予測した結果、0.16m/秒であった。0.16m/秒以上の改善が見られた患者においては、改善のなかった人と比較して、機能障害レベルの意味ある改善が見られていた。本研究で得られた値は、臨床において亜急性期の脳血管障害患者のゴール設定のため、そして能力改善過程を解釈する際に用いることが出来ると考えられる。

【解説】

本研究は、Locomotor Experience Applied Post-Stroke(LEAPS)trial の一部として行われているもので、その目的は発症後一年の間に歩行能力の改善が見られる患者群の特徴をつかむことである。研究デザインは、一重盲検法を用いた5施設共同の無作為対照研究である。評価は標準化された方法を用いており、検者内および検者間信頼性も確認された手法で行われている。
本研究で注目している「臨床的に重要な最小限の変化」とは、患者が変化を感じられた時の最小の評価値変化を意味しており[1.]、FIM[2.]、バーゼルインデックス[3.]、数種の上肢機能評価指標[4.]を用いて、その予測値が明らかにされている。
また、「臨床的に重要な最小限の変化」の指標として快適歩行速度が用いられているが、これは先行研究[5.6.]において機能障害の改善に付随した増加が報告されていることから採用されている。
また、臨床的かつ反応性のある"ゴールドスタンダード"の変化との比較により信頼性のある意味ある変化を見つけ得ることが出来る[7.8.]、と述べられていることに基づき、本研究では快適歩行速度をゴールドスタンダードである修正版ランキンスケールと比較して分析している。最近の寿命に関する研究では、修正版ランキンスケールの1段階の変化の重要性が示されており、発症3ヵ月後の結果は長期的に見た患者の自立度を予測するだけでなく、死亡率を予測できるといわれている[9.]。
評価時点は、発症後20日後と60日後と設定している。その理由は、大半の患者はこの期間に何らかのリハビリテーション受ける事により重要な変化を生じるためと述べられている。
結果では、快適歩行速度や修正版ランキンスケールに加えて、脳卒中の障害程度を評価する指標として用いられたフーゲルマイヤー機能評価の上肢・下肢・感覚項目においても有意な改善が見られたことから、患者全体では、神経学的回復およびリハビリテーションプログラムによる改善を明らかに生じたことを確認している。快適歩行速度と修正版ランキンスケールとの間には良好な関係性が見られたが、ROCカーブではカットオフ値の断定が難しかったことから、CART分析により臨床的に重要な最小限の歩行速度変化は0.16m/秒と推測としている。
本研究の限界としては正確性(感度と特異度)が低くなったことが挙げられている。その理由として、修正版ランキンスケールが歩行能力そのものを評価する指標でないことを挙げている。修正版ランキンスケールは様々な要素が含まれる事から、歩行速度の向上が直接的に修正版ランキンスケールの点数の向上につながっている訳ではないが、臨床的に重要な最小限の歩行速度を決定する事は、個々の参加レベルの変化を反映するという理由で両者の関係性を重要視している。

【文献】

  1. Jaeschke R, Singer J, Guyatt GH. Measurement of health status: ascertaining the minimal clinically important difference. Control Clin Trials. 1989;10:407-415.
  2. Beninato M, Gill-Body KM, Salles S, et al. Determination of the minimal clinically important difference in the FIM instrument in patients with stroke. Arch Phys Med Rehabil. 2006;87:32-39.
  3. Hsieh YW, Wang CH, Wu SC, et al. Establishing the minimal clinically important difference of the Barthel Index in stroke patients. Neurorehabil Neural Repair. 2007;21:233-238.
  4. Lang CE, Edwards DF, Birkenmeier RL, Dromerick AW. Estimating minimal clinically important differences of upperextremity measures early after stroke. Arch Phys Med Rehabil. 2008;89:1693-1700.
  5. Perry J, Garrett M, Gronley JK, Mulroy SJ. Classification of walking handicap in the stroke population. Stroke. 1995;26: 982-989.
  6. Schmid A, Duncan PW, Studenski SA, et al. Improvements in speed-based gait classifications are meaningful. Stroke. 2007;38: 2096-2100.
  7. Beaton DE, Bombardier C, Katz JN, et al. Looking for important change/differences in studies of responsiveness. J Rheumatol. 2001;28:400-405.
  8. Crosby R, Kolotkin R, Williams G. Defining clinically meaningful change in healthrelated quality of life. J Clin Epidemiol. 2003;56:395-407.
  9. Huybrechts KF, Caro JJ, Xenakis JJ, Vemmos KN. The prognostic value of the modified Rankin Scale score for long-term survival after first-ever stroke. Cerebrovasc Dis. 2008;26:381-387.

2011年04月01日掲載

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