高齢者における歩行スキルの評価:8の字歩行テストの妥当性

Rebecca J. Hess, Jennifer S. Brach, Sara R. Piva and Jessie M. VanSwearingen.:Walking Skill Can Be Assessed in Older Adults: Validity of the Figure-of-8 Walk Test. Physical Therapy.2010; 90(1); 89-99.

PubMed PMID:19959654

  • No.1105-2
  • 執筆担当:
    甲南女子大学
    看護リハビリテーション学部
    理学療法学科
  • 掲載:2011年5月2日

【論文の概要】

背景

歩行は複雑な運動スキルであり、状況や判断に応じた変化に適応するため脳と身体との相互作用システムに基づいている。高齢者において、歩行スキルのわずかな障害が転倒リスクや日常生活の障害、そして高齢者施設への入所や死の帰結と関連する。歩行スキルの臨床計測では、一般的に直線路が使われているが、家庭生活や地域生活において障害物の回避や目的場所への到達にはカーブ路を歩行する能力が必要となる。カーブ路に対する歩行スキルは、カーブ内側足と外側足との荷重バランスや支持基底面の変化に対する足取りの調整を必要とする。8の字歩行テスト(F8W)は、直線路だけでなく、時計回りと反時計回りのカーブを強いるため、歩行環境の動力学的変化に対する足取りの適応という運動課題を高齢者に与え、より日常生活環境を再現する歩行スキルが評価可能となる。

目的

本研究の目的は、歩行困難な高齢者に対するF8Wの妥当性を検証するとともに、直線歩行測定とカーブ歩行測定との関連性を説明することであった。

デザイン

本研究は、米国ピッツバーグにある高齢者自立センターにおいて、2006年2月から2007年3月の間に行われた運動とバランスに関する別の介入研究の一部としてデザインされた。対象者は、その中で杖などの歩行補助具を使用し、主治医から研究への参加を承認された65歳以上の高齢者51名であった。

方法

F8Wは、5フィード(約1.5m)間隔に置かれた2個のコーンの間を8の字に歩行させ、1周に要した時間とステップ数、そして平滑性(カーブ歩行の広がり度合い)を測定した。また、F8Wの並存的妥当性と構成概念妥当性を検証するために、歩行機能(歩行速度、modified Gait Abnormality Rating Scale [GARS-M])、身体機能(Late Life Function and Disabilities Index [LLFDI]、Survey of Activities and Fear of Falling in the Elderly [SAFFE]、Gait Efficacy Scale [GES]、Physical Performance Test [PPT]、そして転倒経験)、運動制御と企画(歩行妥当性、Trail Making Test B [Trails B])も測定された。

結果

F8W の時間は平均10.49秒、ステップ数は平均17.51ステップであった。F8Wの試験-再試験信頼性はICC=0.78であり、検者間信頼性はICC=0.95-0.99と高い信頼性を示していた。F8Wの時間は、歩行機能(歩行速度 r=-0.570、GARS-M r=0.281、身体機能(LLFDI r=-0.469、SAFFE r=0.370、PPT r=-0.353)、歩行効力感GES r=-0.468、運動制御と企画(歩幅変動係数 r=0.279、歩隔変動係数 r=-0.277、Trails B r=-0.351)といずれも有意な関連性を認めた。また、F8Wのステップ数は、歩隔変動係数 r=-0.339、および転倒恐怖(有18.33ステップ―無16.00ステップ、t=-2.50)と有意な関連性を認めた。

限界

対象者が少ないため予備的研究と位置づけられ、今後さらなる研究が必要である。

結論

F8Wは、運動障害を持つ高齢者における歩行スキルを評価するテストとして信頼性と妥当性が確認された。また、F8Wは、日常生活や地域生活の環境を再現し、より実用的な歩行スキルの評価が可能なテストとして今後使用されるであろう。

【解説】

歩行スキルは、環境の認知に基づいた運動コントロールといった脳機能とそれを出力する身体運動機能との高度な相互作用による複雑なシステムによって成立している。したがって、高齢者の歩行スキルをより正確に評価することは、日常生活動作能力の推定や転倒リスクの予測など、科学的で効果的なケアプランの立案にとって重要な情報となる。これまで主に歩行スキルの評価には、ゲイトスキャンなどの機器を用いた時間的距離的歩行変数の測定やTimed "Up & Go" Test(TUG)などが使われてきた。しかし、前者は主に直線路での計測であり、後者は直線歩行と片方向のみのカーブ歩行とを組み合わせた歩行計測であった。一方、F8Wは直線歩行と両方向のカーブ歩行とを組み合わせた歩行計測であり、家庭生活や地域生活の環境における歩行スキルを評価できるテストだと考えられる。
また、筑波大学の松島ら[1.]は、F8Wを狭い場所でも可能で必要な物品も少ないことから文部科学省新体力テストに含まれる10m障害物歩行テストの代替テストになり得るかを検証し、信頼性と妥当性が確認されたと報告している。地域における高齢者の体力測定だけでなく、医療現場においても測定空間は限られており、本研究で信頼性と妥当性が確認されたF8Wはわが国においても有用性は高いと考えられよう。今後は、わが国においても健常および虚弱高齢者を対象とした大規模なF8Wの信頼性と妥当性に関する検証とバイオメカニクス的な解明が進むことを期待している。

【文献】

  1. 松島泰子、大塚慶輔、中野貴博、他:高齢者の8の字歩行テスト:SATプロジェクト130.体力科學 52(6), 760, 2003.

2011年05月02日掲載

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