慢性的に気道分泌に問題のある患者の呼吸パラメーターに対する機械的排痰補助装置の使用効果

Effects of Mechanical Insufflation 窶摘xsufflation on Respiratory Parameters for patients with chronic airway secretion encumbrance. Winck CW, Goncalves MR, Lourenco C, Vianna P, Bach JR. Chest 2004; 126: 774-780

PubMed PMID:15364756

  • No.1108-2
  • 執筆担当:
    甲南女子大学
    看護リハビリテーション学部
    理学療法学科
  • 掲載:2011年8月1日

【論文の概要】

目的

筋ジストロフィーやALS(筋萎縮性側索硬化症)のような神経筋疾患の患者では、咳が弱化し、咳時の最大流速が低下する。結果として上気道を良好な状態に保つことが難しく、その部位での過剰な分泌物の貯留が大きな問題となり、非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)が失敗する原因となると考えられる。
本研究では、慢性閉塞性肺疾患(COPD)もしくは、神経筋疾患(NMD)の患者で、機械的排痰補助装置(以下、MI-Eと略す)を使用することによる生理的影響と耐性を評価する。

対象

ALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者13例、重度のCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の患者9名、慢性的に気道分泌に問題がありSpO2が低下したNMD(神経筋疾患)の患者7名を対象とした。

方法

各患者に、MI-Eを用いて排痰を促した。この際、MI-Eの圧設定を15、30、40cmH2Oのそれぞれの圧で行い、吸気3秒、呼気4秒のサイクルをかけた。1回を圧ごとに6サイクル行い、計3回を行った。

全ての過程で、呼吸誘導プレチスモグラフィー(以下RIPと略す)とSpO2を連続的にモニターし、MI-Eの使用前後で最大咳流量(PCF)をピークフローメーターで測定したほか、ボルグスケール(呼吸困難尺度)をとった。

結果

MI-Eを用いて排痰を促すことにより、全ての対象においてSpO2の中央値が優位に改善した(p<0.005)。最大咳流量(PCF)の中央値は、使用前後でALS群で170L(分)から200L(分)、NMD群で180L(分)から220L(分)まで上昇した(p<0.05)ほか、ボルグ係数も優位に改善した(p<0.05)。いずれも患者も、MI-E使用後に呼吸パターンが悪化することは見られなかった。

考察

ALSの患者は延髄障害が認められ、大多数が在宅NPPV(非侵襲的陽圧換気療法)を受けているが、そのようなALS患者やNMD患者において、MI-Eの使用により、PCFが優位に増加し、SpO2が漸進的に増加することが証明された。また圧を増加しても、呼吸パターンに変化は認められず、十分に耐用性のあるものとわかった。本試験は、このような疾患をもつ患者の気道分泌管理のためにMI-Eが適応できることを示しているほか、非侵襲的換気の潜在的補助手段であることがわかった。これらのことは、分泌物の蓄積に起因する肺合併症の頻度を減少させる働きがあると考えられる。

【解説】

小児の理学療法の分野では、先天性筋ジストロフィー症やSMA(脊髄性筋萎縮症)の子どもたちへの呼吸に対する取り組みが、ここ数年で大きく変化した。ALSの患者と同様、これらの子どもに対しては、これまでは呼吸機能の低下とともに気管切開と人工呼吸器が進められ、肺理学療法も対症療法的な方法であったが、非侵襲的陽圧喚起療法(NPPV)と機械的排痰装置(MI-E)によって、呼吸理学療法は延命と同時にQOLを追求した積極的治療法に変わった。
この論文後、MI-Eは排痰困難のために日常生活に不安な思いを余儀なくされていた多くの患者・家族にメリットがあることが報告され、日本でも「カフマシーン」または「カフアシスト」という名称で広く使われるようになった[1.2.]。筆者自身も、実際に担当患児にNPPVとこのMI-Eを併用することで、コンプライアンスの大きい胸郭を積極的に形成し、上気道のクリアランスを可能な限り正常に保つことの有益性を実感することができた[3.]。このMI-Eは、平成22年からは日本でも医療保険が適応されるようになり、より多く利用されるようになってきているが、今後ますます汎用されることが望まれる。

【参考文献】

  1. Benditt JO; Boitano L :Respiratory support of individuals with Duchenne muscular dystrophy: toward a standard of care. Physical Medicine And Rehabilitation Clinics Of North America 2005 :16 (4): 1125-39.
  2. Finder JD, Birnkrant D, Carl J, et al. : Respiratory care of the patient with Duchenne muscular dystrophy: ATS consensus statement. American Journal Of Respiratory And Critical Care Medicine 2004 : 170 (4):456-65.
  3. 瀬藤乃理子、粟野宏之、八木麻理子:進行期の筋ジストロフィー患児のQOL向上をめざした援助(2)呼吸障害へのとりくみ  甲南女子大学看護リハビリテーション学部紀要3:135-141. 2009.

2011年08月01日掲載

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