膝陳旧性脳卒中症例の運動機能障害と身体活動,歩行の関連

Danielsson A, Willen C, Sunnerhagen KS. : Physical activity, ambulation, and motor impairment late after stroke. Stroke Res Treat. 2012;2012:818513.

PubMed PMID:21941689

  • No.1111-1
  • 執筆担当:
    県立広島大学
    保健福祉学部
    理学療法学科
  • 掲載:2011年11月1日

【論文の概要】

背景

歩行は日常生活に重要である。しかし脳卒中発症により歩行能力は低下し,6か月を経過すると筋力も低下する。脳卒中発症後の身体活動レベルの研究はわずかであり,しかも高齢者を対象としたものである。近年の脳卒中の研究により日常活動レベルは非常に低いことは明らかである。陳旧性脳卒中症例の身体活動レベルは健康な人より低いと仮説がたてられる。そして歩行能力,身体活動と運動機能障害は関連していると考えられる。

目的

本研究の目的は若い陳旧性脳卒中症例の歩行習慣,歩行能力,身体機能レベルを臨床に応用できる方法を使用して運動機能障害と歩行能力,身体活動レベルとの関連を明らかにすることである。

対象と方法

研究への参加基準は,「WHOの定義による脳卒中である」「18歳以上である」「スウェーデン語でコミュニケーションがとれる」「歩行補助具を使用してもいいので他人の援助なしに6分間歩行ができる」を満たしているものである。最終的な研究対象者は31名(女性9名,男性22名)である。平均年齢は59.7±8.1歳(36歳から73歳)である。脳卒中発症からの経過期間は中央値で8年(7年から10年)である。

測定項目は最大歩行速度,6分間歩行距離(6MWT距離),生理的コストインデックス(PCI)を使用して算出したエネルギーコスト,下肢の運動機能障害評価としてFugl-Meyer assessmentである。

その他,体重と身長によりBMIを算出した。脳卒中以外の医学的問題はアンケートにより把握し,心拍数に影響を及ぼすような事項は記録した。最近3ヶ月間の連続屋外歩行距離の頻度はアンケートにより調査し,500mを基準として分類した。最近の身体活動はPhysical Activity Scale for the Elderly(PASE)により把握した。

結果

BMIは27±4.7であった。下肢におけるFugl-Meyer assessmentスコアは中央値29であった。30m最大歩行スピードは1.30±0.57m/sであり,基準値の62%であった。6MWT距離は平均値352m±136mで基準値の52%であった。 6MWT終了時の自覚運動強度の中央値は2であり,心拍数は96±18拍/分であった。歩行評価の間,8人は杖を使用し,2人は歩行器を使用し,7人は下肢装具を使用していた。PCIから算出したエネルギーコストは0.60±0.41beats/mであった。PASEによる身体活動レベルは124±67であった。基準値が利用できた28のケースではPASEの平均値は120±64で,基準値の72%±66であった。3ケ月間の連続屋外歩行距離が週1回,500m以下の対象者は17人だった。運動機能障害は,PASEでなく最大歩行速度、6MWT距離とPCIでかなり相関していた。PASEとPCIの間には有意な相関関係を認めなかった。

脳卒中関連の以外の医学問題は30人にあり,18人はこれらのために活動制限があった。心肺機能障害を持つ20人のうち5人も活動限界を訴えた。1人は心房細動を自覚していた。

考察

若い陳旧性脳卒中症例における身体活動レベルと歩行能力を健康な人と比較した。対象者は運動機能障害と歩行能力に大きな変化を伴っていた。対象者はBMIが高く肥満傾向を示した。歩行速度は基準値の60%であり,6MWT距離も約半分であった。このことは他の研究結果においても類似している。エネルギーコストは健康な人に比較し2倍であったがガス分析をしていないため不確かである。身体活動レベルは基準値の2/3であり,予想よりは高かった。しかし研究に参加する対象者は活動性が高いと考えられる。下肢の運動機能障害が歩行能力と関係しているということはFugl-Meyer assessmentスコアとの相関関係が示している。身体能力を超えて歩行している習慣は環境的,社会的,精神的な要因によるかもしれない。

結論

若い陳旧性脳卒中症例において,歩行能力は正常基準レベルのおよそ半分であった。歩行エネルギーコストは2倍であった。そして,身体活動レベルは健康な人々と比較して低かった。運動機能障害は身体活動レベルで歩行能力と以外関係していなかった。脳卒中の後の身体活動は推奨されるよりは行われていないという状況がある。健康のためにはリハビリテーションが終了した後も身体活動を規則的に行うことが重要である。そのためには長期間健康のための評価をし,実行をサポートする必要がある。

【解説】

厚生労働省による脳卒中ホームページ[1.]によれば平成17年10月の主要な疾病の総患者数において「脳血管疾患」約137万人,「高血圧性疾患」781万人である、近年の死亡する確率が低くなり脳卒中後遺症患者は増大している。また,健康日本21では生活習慣の改善などによる循環器病の減少を目指しており、国民の10%が早歩き毎日30分を実行することを推奨している。
本論文は対象者の年齢に幅があり,就業などが不明であるという問題はあるものの脳卒中発症から数年が経過した症例の身体活動レベルを評価している。日本においても脳卒中後遺症患者は多いと考えられるが身体活動レベルは把握されていない。脳卒中後遺症患者の身体活動レベルが低いことを認識し,脳卒中の再発,廃用症候群を防ぐために定期的な評価及び指導が必要であることを示唆している。

【用語説明】

Fugl-Meyer assessment[2. 3.]:脳卒中ガイドライン2009においてリハビリテーション評価の中でグレードBに分類されている総合評価である。内容は上肢運動機能66点,下肢運動機能34点,バランス14点,感覚24点,関節可動域・疼痛88点から構成されている。論文における使用回数は国内外リハビリテーション雑誌(2006年)の原著(査読あり)に出てくる評価法のべ689件のうち14件である。脳卒中に関する内訳では,FIM25件,MMSE16件,Barthel index16件に次ぎ使用されている。総合評価スケールでは信頼性の高さ・他評価との比較による妥当性が報告されており,簡略版も出てきている。
PASE[4. 5.]:PASEは65歳以上の高齢者を対象としている身体活動評価である。10項目より構成されており,過去1 週間の身体活動の実践状況を問うものであり,余暇活動に加え,家庭内活動や仕事関連活動を評価している。 PASE質問紙は重症な身体制限のない高齢者においては妥当で信頼性が高い。PASEスコアはバランス,握力,脚力,身体状態の自己認識,既往歴において有意差を示し,PASEのテストと再テストの信頼性は自己評価で0.75,電話での質問で0.68であった[5.]。

【参考文献】

  1. 厚生労働省ホームページ:http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/seikatu/nousottyu/index.html
  2. 日本脳卒中学会ホームページ:脳卒中ガイドライン2009 http://www.jsts.gr.jp/jss08.html.276-280.
  3. Fugl-Meyer AR, Jaasko L, and Leyman I: The post stroke hemiplegic patient. I. A method for evaluation of physical performance. Scandinavian Journal of Rehabilitation Medicine. 1975;7(1):13-31.
  4. Washburn RA, Smith KW, Jette AM and Janney CA: The Physical Activity Scale for the Elderly (PASE): development and evaluation. J Clin Epidemiol .1993;46: 153-162.
  5. Liu-Ambrose TY, Ashe MC, Graf P, Beattie BL, Khan KM:Increased Risk of Falling in Older Community-Dwelling Women With Mild Cognitive Impairment.Physical Therapy.2008; 88( 12): 1482-1491.
  6. Flansbjer UB, Holmb¨ack AM, Downham D, Patten C,and Lexell J:Reliability of gait performance tests in men and women with hemiparesis after stroke. Journal of Rehabilitation Medicine.2005; 37( 2): 75窶錀82.

2011年11月01日掲載

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