回復期(phaseⅡ)心臓リハビリテーション後の運動の継続について:無作為化臨床比較試験

Pinto BM, Goldstein MG, Papandonatos GD, Farrell N, Tilkemeier P, Marcus BH, Todaro JF. : Maintenance of exercise after phase II cardiac rehabilitation: a randomized controlled trial. Am J Prev Med. 2011 Sep;41(3):274-83.

PubMed PMID:21855741

  • No.1112-1
  • 執筆担当:
    県立広島大学
    保健福祉学部
    理学療法学科
  • 掲載:2011年12月1日

【論文の概要】

背景

回復期(phaseⅡ)心臓リハビリテーション(以下,心リハ)では,身体機能の維持,二次予防や再入院の防止のために,運動療法,栄養指導,生活指導や冠危険因子是正教育等を多職種で系統的に介入する「疾患管理プログラム」を実施する。しかし,回復期(phaseⅡ)心リハ終了後の患者が,運動を長期的に継続していくことは難しい。

目的

回復期(phaseⅡ)心リハ終了後の患者に対する運動継続向けた支援について,その有効性について検証した。

対象

本研究への参加基準は,「40歳以上」,「回復期心リハ(週3回90分の運動療法を含む12週間プログラム)の参加者」,「そのプログラムが4週間後に終了予定」,「英語の読み書きが可能」,「自力歩行可能」,「電話応対が可能」を満たしているものとした。最終的な研究対象者は,130名(63.6±9.7歳)となった。対象者をメンテナンスカウンセリング(以下,MC)群64名と,コンタクトコントロール(以下,CC)群66名に無作為に振り分けた。

介入

MC:対象者は運動と歩数について毎日記録し,6ヶ月間(1~2ヶ月:毎週,3~4ヶ月:隔週,5~6か月:月1回,計14回)電話でのカウンセリングを受けた。カウンセリングは社会認知理論[1.]や多理論統合モデル[2.]等に基づいて行った。運動状況についてのフィードバックや有酸素運動の促し等を行い,運動に対するアドヒアランスが高まるように努めた。また,対象者はカウンセリングの度に運動・疾患についての個別指導シートを郵送で受け取った。6ヶ月以降は,隔月で電話での運動指導を受けた。さらに運動経過の報告書を4週目,8週目,12週目,16週目,20週目に郵送で受け取った。

CC:MC群と同様の頻度で,電話を受けた。電話では,質問紙にて健康状態の聴取を行った。疾患についての個別指導シートはMC群と同様の頻度で受け取った。運動についての個別指導シートは12ヶ月後に受け取った。

アウトカム:下記アウトカムを用いて介入前,6ヶ月後,12ヶ月後で評価を行った。 
・Seven‐Day Physical Activity Recall[3.] 
・3次元加速度計による活動量の評価 
・運動負荷試験:ブルース法でのトレッドミル運動負荷試験(介入前と6ヶ月後のみ評価) 
・運動に対するモチベーション: 5段階の行動変容ステージ分類で評価[2.]) 
・脂質・炎症マーカー:LDL,HDL,総コレステロール,CRP 
・SF‐36

結果

MC群とCC群の年齢,体重及び介入前の測定項目には有意差は無かった。12ヶ月後において,MC群の運動時間はCC群に比べ有意に長かった。6ヶ月後及び12ヶ月後のMC群の運動に対するモチベーションはCC群に比べ有意に高かった。6ヶ月後の運動負荷試験による最高酸素摂取量及び,6ヶ月後と12ヶ月後の脂質・炎症マーカー等については両群間に有意差は無かった。

考察

回復期(phaseⅡ)心リハ終了後の患者に対する電話を用いたカウンセリングプログラムは,運動に対するモチベーションの維持を可能とし,12ヶ月後においても運動時間が延長していた。維持期心リハは在宅での運動が中心となるため,今回のような電話を用いたカウンセリングプログラムは,運動を継続させる支援として有効な方法であると考えられた。

【解説】

アメリカ心臓協会のガイドライン[4.]によると,心筋梗塞患者の長期予後を改善させる手段として回復期及び維持期の心リハは,エビデンスレベルAとして挙げられている。そのため回復期(phaseⅡ)心リハ終了後も運動を継続していくことが重要であるが,患者自身がその行動を維持していくことは容易では無い。そこで,欧米では患者の心理や行動に関するアプローチとして,従来の知識提供型から行動変容型を用いたものが主流となってきており,本研究においても社会認知理論や多理論統合モデルに基づいたカウンセリング指導を行っている。本研究の優れている点としては,回復期(phaseⅡ)心リハ終了後1年間の無作為化臨床比較試験が行われている点,電話での介入頻度が同じであっても個別性のある運動指導を行わなければ,運動に対する動機づけや運動時間の維持が図れないことを検証した点である。
課題としては,メンテナンスカウンセリング1回に15.8±5.8分もの時間を要している点である。実際の臨床場面において同等の指導時間を確保することは困難であるため,時間及び頻度に関しても検討する必要があると考えられる。

【用語解説】

社会認知理論[1.](Social Cognitive Theory)
Banduraにより提唱された社会心理学理論。行動変容は「環境」,「個人的要因」,および「行動そのものの特性」という3つの相互作用によって影響を受け,自己効力感を高めることが行動変容を起こす重要な要因であると考えられている。
多理論統合モデル[2.](Transtheoretical Model)
Prochaskaらにより提唱された禁煙行動研究から発展した行動科学の理論。喫煙者が禁煙しようと努力する過程でいくつかの行動変容ステージを経て変化していくことから,運動行動の分野でも多理論統合モデルが応用され,心筋梗塞患者[5.]や糖尿病患者[6.]を対象にした報告がある。前熟考期,熟考期,準備期,実行期,維持期の5段階の行動変容ステージに分類され,対象者の運動実践段階及び心理的準備段階を評価する際には,患者からの聞き取り調査と同時に,運動量の把握が必要となる。
アドヒアランス[7.](Adherence)
患者が積極的に治療方針の決定に参加し,その決定を納得して自らの意思で行動することをいう。慢性疾患患者の運動に対するアドヒアランスは,当初は高いものの時間が経つにつれて低下していくことが報告[8.]されている。
Seven‐Day Physical Activity Recall[3.]
インタビュー方式で過去7日間の身体活動を聴取し,中強度の運動時間及びMETsを算出する方法。

【参考文献】

  1. A. Bandura .Social foundations of thought and action: a social cognitive theory, Prentice Hall, Englewood Cliffs NJ .1986
  2. J.O. Prochaska and C.C. DiClemente .Stages and processes of self-change of smoking: toward an integrative model of change. J Consult Clin Psychol 1983;51(3):390窶錀395.
  3. S.N. Blair,W.L. Haskell and P.H, et al. Assessment of habitual physical activity by a 7-day recall in a community survey and controlled experiments. Am J Epidemiol 1985;122(5 ): 794窶錀804
  4. American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines; Canadian Cardiovascular Society. ACC/AHA guidelines for the management of patients with ST-elevation myocardial infarction: a report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines. Circulation 2004; 110: e82-292.
  5. 山田純生,岡浩一朗・他:心臓リハビリテーションの工夫 運動の習慣化を目的とする運動指導方策として,行動変容のtranstheoretical model(TTM)には臨床的有用性があるか? .心臓リハビリテーション2001; 6: 71-74.
  6. 関川清一,髻谷満・他:2型糖尿病患者に対する運動指導が行動変容に及ぼす効果.理学療法科学2009;24(4):587‐592
  7. 植木純,佐野恵美香・他:リハビリテーション心理学・社会学UPDATE アドヒアランス. 臨床リハ2009;18(7):621‐625
  8. Dunbar-Jacob J, et al. Adherence in chronic disease .Annu Rev Nurs Res 2000;18:48-90.

2011年12月01日掲載

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