セメスワインスタインモノフィラメント検査(SWME)を用いた糖尿病性神経障害のスクリーニング検査

Feng Y, Schlosser FJ, Sumpio BE. The Semmes Weinstein monofilament examination as a screening tool for diabetic peripheral neuropathy. J Vasc Surg. 2009, 50(3):675-82.

PubMed PMID:19595541

  • No.1205-1
  • 執筆担当:
    県立広島大学
    保健福祉学部
    理学療法学科
  • 掲載:2012年5月1日

【論文の概要】

背景

糖尿病性神経障害は、糖尿病患者における足部の潰瘍や下肢切断の主要な原因となっている。実際に、糖尿病患者の約15%は足部潰瘍に罹患しており、非外傷性下肢切断の約50%以上は糖尿病に由来している。このことからも、早期から糖尿病性神経障害をスクリーニングし、足部の潰瘍や切断のリスクが高い患者を選別する必要がある。一方、感覚(触覚)を評価するセメスワインスタインモノフィラメント検査(Semmes Weinstein monofilament examination : SWME)は、非侵襲的で安価かつ迅速に検査が行える評価法である。また、患者自身でも定期的に簡単に検査を行うことが可能である。しかし、SWMEの基準値や標準的な検査の方法はまだ定まっていない。そこで、システマティックレビューにて、糖尿病性神経障害のスクリーニング検査としてのSWMEの有効性を批判的に評価した。

目的

本研究の目的は、糖尿病性神経障害の評価法としてSWMEが有用なのかを評価することである。

方法

MEDLINE、PUBMEDにて2008年8月31日までに示された論文を検索した。その結果、764論文が選択された(オンラインのみ)。論文の選択基準は、(1)研究の対象が糖尿病患者であること(2)足部の糖尿病性神経障害をSWMEの5.07/10 gにて評価していること(3)糖尿病性神経障害の診断はSWMEのほかに、複数の検査により評価していることとした。選択された研究結果から、感度や特異度、陽性的中率、陰性的中率、真陽性、偽陽性、真陰性、および偽陰性を算出した。また、糖尿病性神経障害の診断精度を評価するために、これまで糖尿病性神経障害の診断に用いられてきた神経伝導検査とSWMEが比較された。

結果

選出された764論文のうち、選択基準を満たしたのは30論文(n=8365)であった。さらに、30論文のうちの16論文が、感度や特異度、陽性的中率、陰性的中率、真陽性、偽陽性、真陰性、および偽陰性を計算するための十分なデータを提供した。SWMEの感度は、57%(95%信頼区間:44~68)から93%(95%CI:77~99)、特異度は75%(95%CI:64~84)から100%(95%CI:63~100)、陽性的中率は84%(95%CI:74~94)から100%(95%CI:87~100)、陰性的中率は36%(95%CI:29~43)から94%(95%CI:91~96)であった。SWMEの検査方法は、母指の指腹と第3中足骨頭および第5中足骨頭の足底面を検査し、いずれかの場所を知覚できない場合に糖尿病性神経障害疑いと判定する方法が最も感度が高かった93%(95%CI:77099%)。

考察

これまで、糖尿病性神経障害の検査法として用いられてきた神経伝導検査と比較しても、SWMEは感度と特異度が高い検査法であった。また、最適な検査の方法は、5.07/10 gのモノフィラメントを用いて、母指の指腹と第3中足骨頭および第5中足骨頭の足底面を検査することであった。この検査の方法では糖尿病性神経障害の感度は、90%を超えていた。SWMEは、安価で正確かつ非侵襲的な方法にて糖尿病性神経障害を識別できる検査法である。本研究の結果から、糖尿病患者はSWMEにて定期的に糖尿病性神経障害の検査を実施することを推奨したい。

これまで、SWMEは様々なバリエーションが存在していた。また、これまでの研究のほとんどが、検査方法の詳細な情報を欠いており、検査部位やその数は任意であった。このことから、それぞれの研究で検査部位が異なり、検査部位の数も1から10カ所まであった。しかし、足指はいずれの研究においても共通して検査が行われていた。SWMEは、検査部位が多いほど糖尿病性神経障害の患者をより敏感に識別することが可能である。しかし、複数の部位を検査するということは、より多くの時間を必要とすることを意味する。検査の効率性と有効性の両側面を鑑みた結果、少なくとも母指の指腹と第3中足骨頭および第5中足骨頭の足底面の3カ所にて検査を行うこと推奨したい。また、この3カ所のいずれかが5.07/10 gモノフィラメントを知覚できない場合は、糖尿病性神経障害が疑われる。

SWMEの他に、広く受け入れられている客観的かつ定量的な検査法として、振動覚測定器(biothesiometer)による振動覚閾値の検査がある。ただしこの検査法は、再現性が低いことが報告されており、機器が高価で、キャリブレーションを行う必要があり、電源を必要とする。このようなことからも、SWMEは非常に実用的なスクリーニング検査法であると言える。

結論

SWMEは、母指の指腹や第3中足骨および第5中足骨の足底面の3カ所を検査することで、診断価値を高めることができる。糖尿病性神経障害の定期的なスクリーニング検査は、抹消神経障害を早期に発見するために不可欠であり、足部の潰瘍や下肢切断のリスクを軽減し、発症前の介入と管理を可能にする。

【解説】

SWMの利点は、フィラメントを皮膚に押しあてる力が一定しなくとも、フィラメント自身がもつ物理的硬性により、一定した圧刺激を加えることにある[1.]。また、太さが異なるフィラメントを用いることで、段階評価が可能となる。このことから、SWMは触圧覚を段階尺度として半定量的に評価できる検査法とされている[2.]。糖尿病性神経障害のスクリーニング検査は、患者自身で定期的に行われるべきであり[3.]、その検査はSWMEによって行われるべきだと世界保健機関(WHO)や国際糖尿病連合が推奨している[4.5.]。
SWMEは、フィラメントが曲がるまで押しあててから、フィラメントを皮膚から離す。被検者には、足底にフィラメントが触れたことを知覚すると“はい”と返答するように指示をしておく。5.07/10 gのフィラメントが曲がるまで押しあてた際に、被検者がフィラメントを知覚することができなかった場合は、感覚脱失であると判定される。注意点は、皮膚の角質が厚く変化した胼胝(たこ)の部位にて検査を行わないことである。
糖尿病性神経障害の有無を判定するのに用いられるフィラメントの太さは、5.07/10 gとされている。これは、1985年にBirkeとSimsが検査基準値を確立したのが最初である[6.]。ハンセン病患者72例と糖尿病患者28例を対象に、フィラメントサイズ4.17、5.07、6.28の3種類にて検査した。その結果、潰瘍のある患者は5.07モノフィラメントを知覚することができなかったことから、保護感覚を検出するための閾値は5.07モノフィラメントであると結論づけた。

【参考文献】

  1. Dorsey SG, Leitch CC, Renn CL, et al.: Genome-wide screen identifies drug-induced Regulation of the gene giant axonal neuropathy (Gan) in a mouse model of antiretroviral-induced painful peripheral neuropathy. Biol Res Nurs, 2009, 11(1): 7-16.
  2. Bell-Krotoski JA, Fess EE, Figarola JH, et al.: Threshold detection and Semmes-Weinstein monofilaments. J Hand Ther, 1995, 8(2): 155-162.
  3. Kamei N, Yamane K, Nakanishi S, et al. : Effectiveness of Semmes-Weinstein monofilament examination for diabetic peripheral neuropathy screening. J Diabetes Complications 19(1):47-53, 2005.
  4. World Health Organization. Guidelines for the prevention, management and care of diabetes mellitus.http://whqlibdoc.who.int/emro/2006/9789290214045_eng.pdf Published 2006.
  5. International Working Group on the Diabetic Foot. Practical guidelines addendum.http://www.iwgdf.org/index.php?option=com_content&task=view&id=45&Itemid=66
  6. Birke JA, Sims DS.: Plantar sensory threshold in the ulcerative foot. Lepr Rev 57(3):261-267, 1986.

2012年05月01日掲載

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