バランス機能と歩行能力の変化がパーキンソン病患者のQOLに与える影響

Scalzo PL, Flores CR, Marques JR, Robini SC, Teixeira AL. Impact of changes in balance and walking capacity on the quality of life in patients with Parkinson's disease. Arq Neuropsiquiatr. 2012 Feb;70(2):119-24.

PubMed PMID:22311216

  • No.1205-2
  • 執筆担当:
    県立広島大学
    保健福祉学部
    理学療法学科
  • 掲載:2012年5月1日

【論文の概要】

背景

パーキンソン病(PD)は神経難病の中では有病率が高い。臨床的には、安静時振戦、固縮、動作緩慢によって評価される進行性疾患であり、姿勢の不安定性と歩行障害が発生し、転倒傾向は増大する。これらの身体状況は、QOLを悪化させる。PDはかなりQOLに影響を及ぼす慢性疾患として知られている。多くの研究が運動症状がPDのQOL認識を悪化させる要因であることを証明している。しかし、ほとんどの研究はPDQ-39とUPDRSの項目を関連させているのみである。本研究の目的は、通常理学療法の臨床診療において使用されている評価によりPD患者のバランスと歩行能力を評価し、その調査結果をQOL認識に関連づけることである。

目的

PD患者におけるバランス機能と歩行能力がQOL認識に与える影響を評価することである。

対象と方法

大学クリニックにおいて治療を受けている突発性PDと診断されたPD患者36名を対象とした。対象者はMMSEで認知機能が評価でき、自立して起立歩行が可能であった。認知障害、精神錯乱、共存症の神経病学的疾患、神経外科的処置の既往、活動制限を伴う心疾患の既往、直前2カ月にめまいや失神を伴う転倒を経験している人は除外した。本研究は倫理委員会の承認を得てすべての対象者はデータ収集の前に研究参加のための合意書に署名した。アンケートと臨床評価は同じ日に行った。薬剤を服用している場合は、薬の効果のある「on」の間に評価を行った。対象者にはUPDRS、修正版ヤール分類(HY)、シュワブ・イングランド日常生活活動スケール修正版(SE)、ベルグバランススケール(BBS)、6分間歩行距離(6MWT)、パーキンソン病質問票(PDQ-39)を実施した。

統計はスチューデントt検定またはマン-ホイットニーのU検定、χ2検定を用いた。相関関係分析は、ピアソンの相関係数またはスピアマンの相関係数を使用した。

結果

対象者は36名(男18名、女18名)、平均年齢65.5(51-84)歳、発症からの期間7.3(1-15)年、発症年齢58.1(40-75)歳である。対象者のうち29名はエルドーパを服用していた。UPDRS総得点は44.97±25.88(10-115)、HYは2.22(1-4)、SEは80.27(50-100)、BBSは49.52(29-56)、6MWTは396.3(155.0-570.0)、PDQ-39は21.32(1.92-65.13)である。BBS得点と6MWTは、発症からの期間、UPDRS総得点、疾患ステージ、機能的自立レベルと有意に負の相関関係を示した。PD特有の評価であるPDQ-39はUPDRS(総得点、下位項目得点)、SEなどのPDの重症度と有意に相関した。またBBSが悪く、6MWTが短いほどQOLは有意に低かった。評価結果とPDQ-39の相関関係は運動機能、日常生活活動、情緒安定性、認知、コミュニケーション、身体的不具合の項目に認められた。残りの2つの局面(精神的負い目と社会的な支持)に相関関係は認められなかった。

考察

本研究結果はBBSによりバランス障害が重度である場合もしくは6MWTが短距離の場合はQOL認識が悪いことを示唆した。バランス障害により転倒傾向が進み転倒恐怖が増大し、活動や社会的参加を制限するためにQOL認識が悪化していると考える。

6MWTの評価は簡単であり、神経病学的障害に起因する機能障害評価に適していると考える。先行研究による軽度から中等度のPDの6MWT平均距離は健常者予測距離のわずか42%である。本研究結果は歩行能力の低下がPDQ-39の運動能に否定的な影響を与えることを証明した。また、発症初期の若年患者ほどQOL認識は悪かった。若年者の場合はより多くの精神的負い目、夫婦間の問題、失業などが絡んでいるためであると考える。

我々はバランス障害と歩行障害のような身体障害がPD患者のQOL認識に悪影響を与える要因であることを示した。運動能とADL能力を向上させるためには理学療法において適切に治療されなければならない。そして、間接的により良いQOLへとつなげるべきである。さらに、PDQ-39はリハビリテーション過程における重要なツールであり、特にPD患者のQOL認識を改善する可能性がある。

【解説】

論文の背景・位置づけ
PDは神経難病の中では有病率が高く、高齢社会の進展とともに患者数は漸増傾向にある。病理学上、PDは黒質緻密部からのドーパミン作用性ニューロンの喪失によって特徴づけられ、線条体内のドーパミン濃度の縮小を引き起こす。臨床的に、安静時振戦、固縮、動作緩慢によって評価される。進行性疾患であり、姿勢の不安定性と歩行障害が発生し、転倒傾向は増大する。これらの身体状況は、QOLを悪化させる。PDにおけるQOLの認識にバランス機能と歩行能力が大きく関与しており、理学療法においてこれらに対する治療を行うことがPDのQOL向上につながると示した論文である。
論文の評価(良い点、悪い点、難解用語の解説)
本論文においては、本文中にもあるように対象者が36名と少ないこと、年齢も51歳から84歳と幅があること、UPDRSの下位項目である治療の合併症が記載されていないことなどが問題としてあげられる。しかし、本研究においてはPD特有の評価であるUPDRS、HY、SE、BBS、6MWT、PDQ-39を幅広く使用している。日本理学療法士協会によればPD研究における評価指標の使用数および頻度は、H Y;グレードB(85 編、73.3%)、UPDRS;グレードA(45 編、38.8%)、PDQ-39;グレードA(17 編、14.7%)、 BBS;グレードA(10 編、8.6%)、6MWT(8 編、6.9%)の順である[1.]。本論文において、中心となっている6MWTとPDQ-39の使用頻度はそれほど高くはない。しかし、どちらとも時間がかからず評価ができるため臨床場面において容易に導入できると考える。特にPDQ-39は日本における信頼性も確認されており、高齢PD の介護者の介護負担などの調査にも使用されている[2.3.]。QOL評価は薬物治療のみならず外科的治療やDBS(deep brain stimulation)などの治療効果の判定にも用いられており、今後もUPDRSとならぶアウトカム評価として利用される機会が増えるものと思われる[4.]。

【用語説明】

PDQ-39
PDのQOL評価としてPDQLとともにあげられる疾患特異スケールである。日常診療で最も汎用されており39の質問事項からなる。質問事項は運動能、日常生活活動、情緒安定性、精神的負い目、社会的支え、認知、コミュニケーション、身体的不具合の8つの大項目に分類される。

【参考文献】

  1. 公益社団法人日本理学療法士協会HP:8.パーキンソン病 理学療法診療ガイドライン.http://www.japanpt.or.jp/gl/pdf/parkinson's_disease.pdf
  2. 河本純子,大生定義,長岡正範,他:日本人におけるParkinson’s Disease Questionnair-39 (PDQ-39)の信頼性評価.臨床神経学. 2003;43(3):71-76.
  3. 原田光子,中村由美子,川村佐和子:高齢パーキンソン病療養者のQOLと地域資源利用との関連.日本難病看護学会誌.2011;16(2):95-105.
  4. 吉井文均:パーキンソン病症候の新しい評価法について.運動障害.2007;17(2):47-54.
  5. Damiano AM, Snyder C, Strausser B, et al: A review of health-related quality-of-life concepts and measures for Parkinson's disease. Qual Life Res.1999; 8(3): 235-243.
  6. 眞野行生:ケアスタッフと患者・家族のためのパーキンソン病.医歯薬出版株式会社,東京,2002.
  7. 細田多穂監修:シンプル理学療法学シリーズ 理学療法評価学テキスト.南江堂,東京,2010.
  8. 一般社団法人日本神経学会HP:パーキンソン病治療ガイドライン2011. 
    http://www.neurology-jp.org/guidelinem/parkinson.html

2012年05月01日掲載

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