進行性のがん患者に対する運動療法:無作為化臨床比較試験

Oldervoll LM, Loge JH, Lydersen S, Paltiel H, Asp MB, Nygaard UV, Oredalen E, Frantzen TL, Lesteberg I, Amundsen L, Hjermstad MJ, Haugen DF, Paulsen O, Kaasa S. Physical exercise for cancer patients with advanced disease: a randomized controlled trial. Oncologist. 2011 Sep;16(11):1649-57.

PubMed PMID:21948693

  • No.1206-1
  • 執筆担当:
    県立広島大学
    保健福祉学部
    理学療法学科
  • 掲載:2012年6月1日

【論文の概要】

背景

がん患者に対する運動療法についてシステマティックレビューおよびメタ分析によって倦怠感の軽減、身体機能の改善やQOLの向上など一定の効果が示されている。しかし、病状がより進行したがん患者に対する検討は行われていない。

目的

進行性のがん患者に対して運動療法を行うことにより、倦怠感や身体機能の改善が図れるのかを検討した。

対象

Karnofsky performance status (KPS)スコア[1.]が60%以上で生命予後3ヶ月から2年と診断された400名のがん患者のうち、本研究に同意した231名を対象とした。対象者は転移性のがん患者を含み、歩行可能で認知機能に問題の無い者とした。対象者を運動群121名と通常ケア群110名に無作為に振り分けた。

方法

運動群には、週2回50~60分の運動療法を8週間行った。運動療法の内容は、10~15分間のウォーミングアップ、30分間のサーキットトレーニング、10~15分間のストレッチおよびリラクセーションとした。サーキットトレーニングは、下肢のステップ運動、立位バランス運動、上肢のレジスタンストレーニング、全身運動、下肢のレジスタンストレーニング、有酸素運動の6つの運動を行った。サーキットトレーニング内の各運動は2分間ずつ行い、移動は1分で行った。運動負荷量は対象者の身体機能に合わせ個別に設定した。

アウトカム
以下のアウトカムを用いて介入前および8週間後の評価を行った。
  • 倦怠感尺度:Fatigue Questionnaire[2.]を用いて身体的倦怠感と精神的倦怠感に分けて評価した。
  • シャトルウォーキングテスト
  • 椅子立ち上がりテスト:30秒間で何回椅子から立ち上がり出来るかを測定した。
  • 最大一歩幅
  • 握力

結果

運動群と通常ケア群の年齢、体重、KPSスコア、介入前の測定項目には有意差は無かった。運動群の43名(35.5%)、通常ケア群の25名(22.6%)は、がんの進行などにより脱落し、最終的には運動群78名、通常ケア群85名となった。介入前と比較し介入後において、倦怠感尺度は両群で有意差は認めなかったが、運動群のシャトルウォーキングテストと握力は有意に改善した。

考察

進行性のがん患者であっても週2回の運動療法を行うことによって、身体機能の改善が認められた。倦怠感については本研究では有意な改善は認めなかったが、明らかな増悪も認めなかった。がん性の倦怠感については、治療に伴うものや病状の進行による心理的不安など多くの因子が影響した可能性が考えられた。

【解説】

がん発症数の増加と治療技術の進歩により、本邦におけるがん患者の生存者数は年々増加している[3.]。がん患者は病状の進行に伴いさまざまな身体症状が出現するため、身体機能の維持や改善を図るための運動療法は非常に重要である。本論文では、進行性のがん患者に対する運動療法の有効性が不明確であることから、その効果を明らかにする目的で研究を行ったとしている。
本論文結果から、進行性のがん患者に対しても週2回の運動療法を行うことにより、握力やシャトルウォーキングテストの改善が認められた。しかし倦怠感については、十分な効果が認められなかった。がん性の倦怠感は、「最近の活動に合致しない、日常生活機能の妨げになるほどのがんまたはがん治療に関連した、つらく持続する主観的な感覚で、身体的、感情的かるまたは認知的倦怠感、または消耗感[4.]」と定義されている。そのため、がんに伴う倦怠感は身体活動による疲労と異なり、慢性的で安静にしていても改善が少ない症状であるといえる。そのため進行性がん患者を対象としている本論文では、病状の進行などの影響によって十分な効果が得られなかった可能性があり、今後検討の余地が残されている。

【用語解説】

Karnofsky performance status (KPS) score1) 
がん患者に対する病状や労働、日常生活の介助状況により、100%から0%まで11段階で評価を行う方法。
Fatigue Questionnaire[2.] 
アンケートによる倦怠感評価。身体的疲労と精神的疲労に分けて評価し、点数が高いほど疲労が高いと判断される。

【参考文献】

  1. Yates JW, Chalmer B, McKegney FP: Evaluation of patients with advanced cancer using the Karnofsky performance status. Cancer 45: 2220-2224, 1980
  2. Chalder T, Berelowitz G, Pawlikowska T, et al. Development of a fatigue scale. J Psychosom Res 37:147-153. 1993
  3. がんの統計編集委員会(編):がんの統計’11.
    http://ganjoho.jp/data/public/statistics/backnumber/2011/files/cancer_statistics_2011.pdf(参照 2012.5.18)
  4. 日本乳がん情報ネットワーク(編):がんに伴う倦怠感 2008年第1版.
    http://www.jccnb.net/guideline/images/gl16_fati.pdf(参照 2012.5.18)

2012年06月01日掲載

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