自宅でのインターバルトレーニングは滞在型の心臓リハビリテーションと同様に最高酸素摂取量を改善させる:無作為化臨床比較試験

Moholdt T, Bekken Vold M, Grimsmo J, Slordahl SA, Wisloff U. Home-based aerobic interval training improves peak oxygen uptake equal to residential cardiac rehabilitation: a randomized, controlled trial. PLoS One. 2012; 7 (7) : e41199. Epub 2012 Jul 18.

PubMed PMID:22815970

  • No.1209-1
  • 執筆担当:
    県立広島大学
    保健福祉学部
    理学療法学科
  • 掲載:2012年9月1日

【論文の概要】

背景

最高酸素摂取量の測定による運動耐容能の評価は、心疾患患者の重要な予後予測因子である。近年、高負荷と中等度負荷を繰り返すインターバルトレーニングが最高酸素摂取量、左室機能の改善に有効であることが報告されている。しかし、最高心拍数85~95%の運動強度を取り入れたインターバルトレーニングは安全性の面から監視型で行った方が望ましいとの指摘もある。

目的

冠動脈バイパス術後患者に対する自宅でのインターバルトレーニングの効果について、従来の滞在型心臓リハビリテーションと比較し検討した。

対象

冠動脈バイパス術後4~8週経過した患者30名(63±7.7歳)を対象とした。左室駆出率30%以下、不安定狭心症、コントロールされていない不整脈、重症な大動脈狭窄、解離性大動脈瘤、重篤な感染症等は除外した。対象者を滞在型の心臓リハビリテーション(residential rehabilitation:RR)群16名と自宅でのインターバルトレーニング(aerobic interval training:AIT)群14名とに無作為に振り分けた。

方法

RR群には、ノルウェーの標準的な心臓リハプログラムである4週間の滞在型の心臓リハビリテーションを実施した。運動療法の強度は自覚的運動強度を基準とし、低強度をBorg11、中等度強度をBorg12~14、高強度をBorg15~17とした。滞在中に30セッション(低強度4回、中等度16回、高強度10回)の運動を行った。運動の種類は屋外歩行、クロスカントリースキー、屋内でのエルゴメーター、ボールゲーム等とした。運動療法以外にも、ダイエットや禁煙等の一般的な教育プログラムも行った。4週間の滞在プログラム終了後は自宅においても運動を継続するよう指導した。

AIT群は、自宅にて週3回のAITを6か月間行うよう指導した。AITはまずウォーミングアップを10分間行い、次に高強度(最高心拍数の85~95%)の運動4分間と中等度強度(最高心拍数の70%)の運動3分間を1周期とし、それを4回繰り返した。運動の種類は歩行、ジョギング、水泳、サイクリング等とした。安全面への配慮としては、自宅での運動中及び終了後にもリハセンタースタッフと連絡が可能な状態で行うよう指導した。またAIT実施状況を日誌に記載するよう指導した。

アウトカム:下記アウトカムを用いて介入前、6か月後で評価を行った。
  • 心肺運動負荷試験:最高酸素摂取量、最大負荷時の自覚的運動強度、心拍減衰応答(HRR)
  • 血液生化学検査:HDL、中性脂肪、総コレステロール、フェリチン、グルコース、HbA1c
  • QOL: MacNew Heart Disease Health-related Quality of Life Questionnaire 1)

結果

介入前の年齢、体重及び各測定項目に関しては2群間に有意差は無かった。RR群ではウォームアップ中に1名死亡し、参加拒否にて1名脱落した。AIT群では膝関節痛および参加拒否にて2名脱落した。よって6か月後の評価が可能であった者はRR群14名、AIT群12名となった。介入前と比較し、介入後において両群ともに最高酸素摂取量、QOL(身体面、社会面)、HbA1cが有意に増加(いずれもp<0.05)したが、両群間において有意差は無かった。AIT群では介入前と比較し、介入後のHRRが有意に増加した(p<0.05)。AIT群のAIT実施頻度は1.6±1.6回/週で、週3回以上行っていたと記載していた者は5名だった。

考察

冠動脈バイパス術後患者に対する自宅でのAITは、従来の滞在型心臓リハビリテーションと同様に最高酸素摂取量やQOL等を改善することが可能であった。一般的に自宅退院後は徐々にアドヒアランスが低下し長期的な運動の継続が困難となっていくが、AIT群では実施頻度に幅があったものの6か月にわたり安全に運動が継続でき、RR群と同様に運動耐容能が改善した。

しかし本研究の限界としてはRR群の滞在型プログラム終了後の自宅での運動状況の把握が行えていなかったため、今後検討が必要である。

【解説】

インターバルトレーニングは、低強度の運動を挟んで持続時間の短い高強度の運動を反復する運動様式である。そのため心疾患患者に対して実施する場合は左心機能への過度な負担が懸念されるが、慢性心不全患者に対する研究[2.3.]では運動耐容能、左心機能等が有酸素運動よりも有意に改善したと報告している。
そこで、本論文では自宅での高強度のインターバルトレーニングを行いその効果を検討している。その結果として自宅でのインターバルトレーニングにおいても安全に実施できたと報告しているが、介入前の運動耐容能が平均7METs程度の低リスク患者を対象としており、非監視型のインターバルトレーニングを導入するにあたっては対象者の選定が重要であるといえる。
また、心筋梗塞患者を対象とした研究[4.]においても、12週間のインターバルトレーニングを完結できた対象者は107名中89名(83%)であったと報告している。本論文では6か月間にわたる自宅でのトレーニングであったためさらに継続が難しく、高強度運動と中等度運動を繰り返すインターバルトレーニングは従来の運動様式と比べ負荷調節が煩雑であるため、自宅で長期的に行う場合は継続性についても検討が必要である。

【用語説明】

MacNew Heart Disease Health-related Quality of Life Questionnaire[1.] 
狭心症、心筋梗塞、心不全等の心疾患患者を対象とした自己記入式の健康関連QOL評価。下位尺度は感情面14項目、身体面13項目、社会面13項目の3領域から構成され、過去2週間の状態に対する7段階の評価を行う。点数が高いほど状態が良いことを示す。

【参考文献】

  1. Hofer S, Doering S, et.al.:Determinants of health-related quality of life in patients with coronary artery disease. Eur J Cardiovasc Prev Rehabil..200; 13: 398 406.
  2. Wisloff U, Stoylen A, et al. :Superior cardiovascular effect of aerobic interval training versus moderate continuous training in heart failure patients:a randomized study..Circulation.2007;115:3086 3094.
  3. Meyer K、Foster C、et al:Comparison of left ventricular function during interval versus steady-state exercise training in patients with chronic congestive heart failure.Am J Cardiol.1998;82:1382-1387.
  4. Moholdt T、Aamot IL、et.al.:Aerobic interval training increases peak oxygen uptake more than usual care exercise training in myocardial infarction patients: a randomized controlled study.Clin Rehabil. 2012 ;26(1):33-44.

2012年09月01日掲載

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