足趾の運動は、本邦の臨床場面においてもしばしば用いられる運動である。本邦ではタオルギャザーに代表される把持運動[1]や足趾を曲げずに床を押す運動、すなわち圧迫運動[2]がよく用いられている。本研究で使用されているTCは前者に対応する運動であり、SFは足部内在筋を主に使う運動として後者の要素を一部含む運動と捉えることができる。そして、その効果を筋活動および内側縦アーチの状態から示している点で臨床的にも有意義なデータを提供している。
母趾外転筋は正常歩行における蹴り出し時に床反力に抗して第1列(母趾側の骨格)を底屈させて、第1中足骨頭を固定する働きがあり[3]、また荷重位において足部の回内をコントロールして内側縦アーチを保持すると報告されている[4 , 5]。そのため、母趾外転筋の筋力強化は荷重位における足部の回内の制御という点で重要な役割をはたすと考えられる。本研究は、母趾外転筋の筋活動をより高め、内側縦アーチを高める(保持する)にはTCよりSFの方が適していること、またSF運動時の姿勢を変化させることで、より効果的な母趾外転筋の筋活動を引き出すことができることを示している点でも有益な報告と考える。
しかし、本研究では母趾外転筋の筋活動と内側縦アーチのみの違いに言及しているが、SFは主に足部内在筋を活性化させる運動とされているのに対し、TCは内在筋のみではなく、長趾屈筋や長母趾屈筋などの足部外来筋も大きく運動に関与する。このような活性化される筋の違いは、寄与する運動の違いを生み出す可能性がある。そのため母趾外転筋の筋活動と内側縦アーチの変化のみではなく、他の筋の筋活動やバランス能力、運動課題も含めて様々の方法でどちらの運動がより推奨されるかをさらに検討する必要がある。また、本研究では足部のアライメントが中間位の者を対象としているが、例えば外反母趾のように母趾外転筋の機能が低下している者や内側縦アーチが低下している者に対してはどちらの運動がより母趾外転筋の筋活動と内側縦アーチを高めることができるかなど、臨床場面で実際に問題となっている対象における検証が今後加えられれば、より有意義な報告になると思われる。