内側型変形性膝関節症患者の足部形態

Levinger P, Menz HB, Fotoohabadi MR, Feller JA, Bartlett JR, Bergman NR.: Foot posture in people with medial compartment knee osteoarthritis. J Foot Ankle Res. 2010; 3:29 (open access, p1-8).

PubMed PMID:21162748

  • No.1212-2
  • 執筆担当:
    弘前大学
    医学部保健学科
    理学療法学専攻
  • 掲載:2012年12月1日

【論文の概要】

背景

 足部形態は、下肢の筋骨格系の状態の長期的変化に影響を及ぼすと考えられ、下肢の力学的アライメントや動的な機能を変化させうる。とりわけ、内側型膝OA患者で非手術例に対する治療的介入として、足部装具や履き物での調整が行われる。しかし、このような介入が膝関節および下肢の他の関節に対してどのような効果をもたらすのかをよく理解し、最も効果的なのはどのような症例かを特定していくためには、内側型膝OA患者における足部構造の特徴を把握することが重要であるにもかかわらず、足部形態を評価した研究は少ない。また、前額面上での踵骨の状態評価は経験が必要であるため信頼性が低い傾向があり、専門的な技術(経験)や主観的な解釈を必要としない客観的計測値を用いることが重要である。

目的

 本研究の目的は、内側型膝OA患者の足部形態を臨床的な専門技術や主観的解釈を必要としない計測方法(arch index)を加えて調査することである。

方法

 膝の内側構成体に顕著な臨床的及びX線学的所見を認める32名の症例(OA grade 2~3)と、症状のない年齢を一致させた健常者28名を対象とし、foot posture index(FPI)[1]、舟状骨高(navicular height)、舟状骨沈降度(navicular drop)、arch indexを用いて足部形態の評価を行った。健常者のうち23名には、足部計測の信頼性を評価するために、2度参加していただいた。すべての足部形態評価は経験のある同一検者によって行われた。
信頼性の評価にはICC(3,1)を用いた。群間比較には独立2群のt検定およびχ2検定を用いた。連続尺度の群間の差の大きさはCohen’s d(効果量)を求めた。体重と足部形態評価との相関を明らかにするためにPearsonの積率相関係数を用い、相関が有意な場合は、体重を共変量として扱った。

結果

 足部計測値のICCは、舟状骨高(ICC=0.86)、舟状骨沈降度(ICC=0.56)、FPI(ICC=0.91)、arch index(ICC=0.93)で、FPI、舟状骨高、arch indexでは変動係数が小さかった。体重はarch indexとは有意な相関(r=0.44, p<0.001)を示したが、FPI(r=0.22, p=0.09)、舟状骨高(r=0.008, p=0.94)、舟状骨沈降度(r=0.20, p=0.12)との相関は有意でなかった。したがって、 2群間でのarch indexの比較の際は、体重を共変量として取り扱った。群間比較では、対照群と膝OA群との間で以下の項目に有意差を認め、膝OA群は対照群に比較してより足部の回内傾向が示された:FPI(1.35±1.43 vs. 2.46±2.18, p=0.02; d=0.61、medium effect size)、舟状骨沈降度(0.02±0.01 vs. 0.03±0.01, p=0.01; d=1.02, large effect size)、arch index(0.22±0.04 vs. 0.26±0.04, p=0.04; d=1.02, large effect size)。しかし、舟状骨高は群間に有意差がなかった(0.24±0.03 vs. 0.23±0.03, p=0.54; d=0.04, negligible effect size)。

議論

 本研究において、内側型膝OA患者の足部形態の特徴を調査した結果、対照群に比較して内側型膝OA患者ではより回内足傾向が強かった(FPI、舟状骨沈降度、arch index)。内側型膝OA患者にみられる内反膝は、膝OAの進行・増悪のリスクを高める。さらに内反膝では、荷重時に足底面を接床させるため、足部の回内で代償し、回内を増強させて足圧中心位置を外側に移動させることで内転モーメントを減少させる。この代償運動は足関節、距骨下関節、横足根関節の可動域に依存するが、内側型膝OAの進行に対してこのような足部構造や機能の変化がどのように影響していくのかを知るためには、縦断的調査が必要である。膝OAに対する治療法としての装具および履き物の効果に関する研究では、特に外側楔状足底挿板は膝の内転モーメント減少と症状軽減が示されているが、足部の運動を変化させうる。特に強調したいことは後足部の回内の増強は結果的に下肢に対して運動学的に不利な変化をもたらし、他部位の筋骨格系の問題を進行させることにつながる。ところが、外側楔状足底挿板にアーチサポートを付加すると、後足部の運動が保たれ、なおかつ内転モーメントを減少させ足底挿板の効果を高めることもできると報告されている[2]。これらの生体力学的効果は足部機能の個体差により影響を受けるため、外側楔状足底板の効果はどのような症例に最も高いかを適切に同定し、どのような症例にアーチサポートの付加といった改良が必要かの指針となるように、スクリーニングとして足部形態の評価を加える必要がある。
足部形態計測値の信頼性については、測定経験のある検者では、舟状骨高、arch index、FPIは先行研究と比較しても優れた検者内信頼性が示されたが、舟状骨沈降度のみ中等度の信頼性であり、先行研究と同程度であった。本研究の検者は若年者を対象にした研究では良好な検者内および検者間信頼性を得ているが、バランス維持が困難な高齢者では、立位で距骨下関節の中間位保持が難しいためと考えられる。arch indexは静的なfootprintから足部の特徴を定量化するための信頼性のあるツールであり、検者の臨床経験も必要としない。膝OA患者を対象とした先行研究はなく、本研究では良好な信頼性が得られ、内側型膝OAの有無による差を明らかにできた。先行研究では、arch indexは扁平足よりもむしろ脂肪量を評価しているのではないかと指摘されているが、重要なことは体重補正後でも群間に差があることであり、膝OA患者の評価としての有用性が示唆された。

【解説】

 FPI(参考文献[1])は、距骨頭の触診、外果の上下のカーブ、踵骨の角度、距舟関節の突出、内側縦アーチ、後足部に対する前足部のアライメントの6項目を評価するもので、各項目につき、-2点から+2点までの5段階尺度で合計点は-12点(著明な回外)から+12点(著明な回内)となる。詳細はHP(参考URL[1])からマニュアルがダウンロードできる。
足部アーチの評価では、臨床的にはアーチ高率(舟状骨高)やfootprintの評価が用いられ、arch indexは後者に属するものであるが、舟状骨高は骨格構造の評価であるのに対して、footprintは軟部組織も含めた足部形態の評価であり、軟部組織量に影響を受け体格指数(BMI)との関連性が報告されており[3]、結果の解釈には注意が必要である。
膝の内反変形では足部を回内させて足底面を床に接地させるとともに荷重線を外側移動させる効果を持つが、反面、距骨下関節が回内位となり、足部の剛性が低下するために安定性が低下することや、下腿内旋を誘導し、膝関節の側方動揺を助長する可能性が危惧される。このような足部形態評価によってアライメントの特徴に応じた足底挿板等の効果が期待できるが、長期的な効果や将来の変形進行の予測にはさらに縦断的な調査研究が必要である。

【参考文献】

  1. Redmond AC, Crosbie J, Ouvrier RA. Development and validation of a novel rating system for scoring standing foot posture : the Foot Posture Index. Clin Biomech (Bristol, Avon) 2006;21:89-98.
  2. Nakajima K, Kakihana W, Nakagawa T, Mitomi H, Hikita A, Suzuki R, Akai M, Iwaya T, Nakamura K, Fukui N : Addition of an arch support improves the biomechanical effect of a laterally wedged insole. Gait Posture 2009, 29: 208-213.
  3. 尾田 敦,鳴海陽子,他 : footprint評価の定量化と足アーチ高率との関係. 理学療法研究, 22:53-58, 2005.

【参考URL】

  1. Dr Anthony Redmond:The Foot Posture Index (FPI-6).
    http://www.leeds.ac.uk/medicine/FASTER/fpi.htm

2012年12月01日掲載

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