慢性期脳卒中患者に対する、新規開発したバランス制御トレーニング装置による、バランスと移動性改善に関わる効果と実効性について:無作為化比較試験

Lee SH, Byun SD, Kim CH, Go JY, Nam HU, Huh JS, Jung TD:Feasibility and effects of newly developed balance control trainer for mobility and balance in chronic stroke patients: a randomized controlled trial. Ann Rehabil Med. 2012 Aug;36(4):521-9. Epub 2012 Aug 27.

PubMed PMID:22977778

  • No.1301-1
  • 執筆担当:
    弘前大学
    医学部保健学科
    理学療法学専攻
  • 掲載:2013年1月1日

【論文の概要】

緒言

 脳卒中患者は非対称性の姿勢をとり、様々な原因で歩行困難をしいられている。筋力不足や荷重不均衡、感覚障害、痙性などである。そこで、適切な姿勢制御とバランスが脳卒中患者の移動能力改善に重要である。そのため、バランストレーニングとして麻痺側下肢に荷重する感覚刺激を多く取り入れた、神経発達学的治療法(NDT)などが行われていた。このような水平面の左右荷重トレーニングは、様々なツールやロボット、バランスマスターのような練習機器を用いて行われてきていた。しかし、これらにはある問題が存在する。それは、立ち上がりなど日常で行う動作が、垂直方向への重心移動が必要にもかかわらず、その要素が入っていないためである。そこで我々は、垂直方向と水平方向、両側面から練習できるバランス制御トレーニング装置(BCT)を開発した。 
本研究の目的は、慢性期脳卒中患者におけるバランス改善のトレーニング方法として、BCTという垂直方向・水平方向へのバランス練習機器を通じ、その実効性と効果を検証することである。

対象と方法

 対象は2010年3月~2011年2月まで、設定した条件をクリアし、以下の調査できた慢性期脳卒中患者40名である。 
研究デザインは、40名の患者を介入群と、従来の理学療法群(対照群)20名ずつ無作為に割り付けた。割り付けは第三者によって行われた。ただし、治療効果の目安であるBBSなどの検査を行ったものは盲験化されたが、患者や治療介入したPTは盲験化されていない。なお、この研究での脱落者はいなかった。 
介入方法は、両群とも4週間で週5日1時間トレーニングを行った。介入群は20分BCTを追加で行った。BCTは、2つのステップで構成されている。最初は、自ら荷重する練習で水平面と垂直面の動きを行う視覚フィードバック練習10分。患者には最初の5分、均等荷重(応答)するよう指導した。この間左右荷重量を画面で見られるようにした。次の5分で患側の膝屈伸を繰り返す荷重練習を行った。2つめは、荷重練習をビデオゲームで行うものである(バランスボードクリーナー;10分)。ゲームは2分ずつ、5回行われる。画面上に広がるボード(黒板)を荷重して消していくもので、水平軸のものと垂直軸(膝屈伸)のものとがある。 
測定項目はFAC、10m歩行速度、BBS、BI改訂版(MBI)、TUGを測定。そのほかMMSEと膝伸展筋力をみた。測定時期は実験前、2週、4週目に測定した。分析はSPSSver18を用い、カイ二乗検定とt-testを行った。

結果

・介入群は男性13人、女性7人、平均53.75歳、発症からの期間13.3ヶ月。対照群は男性12名、女性8名、平均54.1歳、発症からの期間は14ヶ月。なお、実験前の各測定パラメータに有意差はなかった。 
・今回の研究で、脱落者はでなかった。BCTがゲーム性があるので楽しかったという感想があった。 
・介入群はトレーニングの2週間で膝伸展力以外のすべてのパラメータで有意に改善(FAC、10mWT、TUG、BBS、およびMBI)があった。対照群では2つのパラメータ(BBSとMBI)のみであった(p<0.05)。次の2週(4週目)で介入群はMBIを除いたすべてで改善を認めた。対照群は10m歩行のみだった。 
・2群間の比較で、2週目では10m歩行、BBS、TUGで介入群に有意な差を認めた。4週では加えてFACも差を認め、すべて介入群の成績が良かった。

考察

 脳卒中患者は、非対称性姿勢や荷重がADLに悪影響を及ぼすことは知られている。従来のNDTのような練習は感覚を意識した麻痺側荷重を改善することを主体に考慮されたものであり、ロボットや荷重訓練用のバランスマスターのような機器も左右荷重を意識したもので、その効果は疑問があり議論の対象となっている。それは水平面の練習のみであるためで、人は普通、水平面・垂直面の運動をしているので、バランス能力はその視点を考慮する必要がある。Barclay-Goddardらは、バランスマスターシステムでBBSやTUGを改善できなかったことを明らかにした。これらの結果は、自立歩行や椅子から立ち上がる、座るなど、日常生活の活動に不可欠な構成要素である、重心の垂直方向の動きが考慮されていなかったという事実によるものと述べた。日常生活での移動能力を改善するためには、いままでの課題解決では不十分で、BCTは垂直方向練習を加えた機器であり、それを改善するものである。 
このたび我々チームは、水平面のバランス練習機器に加え、膝関節の動きを加味した垂直方向へ練習が可能なBCTを開発した。さらにゲーム性のあるバランスボードクリーナーを用いた練習で、種々の歩行・バランスのパラメーターの改善を期待し介入を行い、脳卒中患者への効果を検討した。今回の研究で、2,4週で種々のパラメーターに改善を示した。よって、今回の新規に開発したバランストレーナー(BCT)は、慢性期脳卒中患者の移動およびバランス改善に効果ある潜在力を示せたと考える。

結語

 慢性期脳卒中患者にたいする歩行練習として、BCTは課題指向型練習としてバランスと移動能力改善に効果があり、従来の練習に加えることで有効性が向上すると考えられる。

【解説】

 本論文は、脳卒中患者に対して荷重装置を用いたバランス改善のトレーニングについて実効性と治療効果を準ランダム化比較対照試験にて検証したものである。従来から行われていた、左右(前後)の水平面の荷重練習だけではなく[1]、垂直面への運動を練習メニューに取り入れたものである。片麻痺患者の非対称性改善は、麻痺側荷重の適正化を念頭に置いた左右軸に力点が置かれていることを指摘し、立ち上がり・着座の垂直軸方向への運動を着眼点をとしているところがユニークである。もともと垂直方向への荷重練習に関しては、バランス向上などに寄与することが知られており、新規性としては若干劣るが、一つの装置として、水平面・垂直面のトレーニングメニューがまとめられていることと、ゲーム感覚で視覚フィードバック練習を体現でることで、全例が継続できたことが興味深かった。ただし、この練習が筆者が述べるほど垂直方向へ十分な荷重練習になっているかは、やや疑問符が残る。 
バランス改善に関しては2重課題の報告が多く述べられていて、頭頂葉や運動前野、補足運動野の賦活などが述べられていて、実際のバランス指標の改善も述べられている。とくに、運動と認知課題の組み合わせに改善の優位性があると言われていて[2]、このボード(黒板)消しゲームが、慢性期の脳卒中患者にとっては、それほど難しくない適度な認知課題になっている可能性も考えられた。

【参考文献】

  1. 髙見彰淑 : 脳卒中片麻痺によるバランス障害の評価と理学療法.理学療法29:389-397,2012.
  2. Jin-gang H : Effects of balance training with various dual-task conditions on stroke patients.:J .Phys.Ther.Sci.23:713-717,2011

2013年01月01日掲載

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