経皮的電気神経刺激(TENS)の刺激パラメータと疼痛軽減効果との関係:人為的に発生させた圧痛に対するTENSの疼痛軽減効果

Chesterton LS, Foster NE, Wright CC, Baxter GD, Barlas P.: Effects of TENS frequency, intensity and stimulation site parametermanipulation on pressure pain thresholds in healthy human subjects. Pain. 2003 Nov;106(1-2):73-80.

PubMed PMID:14581113

  • No.1303-1
  • 執筆担当:
    弘前大学
    医学部保健学科
    理学療法学専攻
  • 掲載:2013年3月1日

【論文の概要】

背景

 経皮的電気神経刺激(Transcutaneou Electrical Nerve Stimulation:以下、TENS)は、痛みに対する物理療法として確立されており、これまで長年にわたり利用され、多くの先行研究があるにも関わらず、TENSの様々な刺激パラメータに関する議論が未だに行われている。これまでのTENSに関するシステマティックレビューでは、TENSの方法論や臨床的なテクニックに焦点を置く傾向があり、Brosseauら(2002)によるメタアナリシスでは、TENSの効果的な電極配置部位、治療時間、刺激周波数や刺激強度(すなわち、パルス振幅)に関するデータの不足が指摘されている。先行研究では、TENSの刺激パラメータの組み合わせを変えることで様々な効果が観察されたことが示されており、TENSの刺激パラメータの設定が疼痛軽減効果の程度やTENS終了後の効果の持続時間に影響していると考えられる。

目的

 本研究では、健常者に対して人為的に発生させた圧痛の閾値(Pressure Pain Thresholds:以下、PPT)を評価指標として、TENSの刺激パラメータ(刺激周波数、刺激強度、電極配置部位)の組み合わせによる効果を検討することを目的とした。

方法

 対象者は健常者240人(男120人、女120人)とし、先ず「低周波数(4Hz)・低刺激強度(強いが快適)のTENS群」と「高周波数(110Hz)・高刺激強度(耐えられる最大の強度)のTENS群」にランダムに振り分けられた。それぞれの群はさらに、「圧痛部位と一致する皮膚分節領域(デルマトーム)上に電極を配置する群」と「圧痛部位と一致しないデルマトーム上に電極を配置する群」、「圧痛部位と圧痛が発生していない部位の両方のデルマトーム領域をまたいで電極を配置する群」に分け、計6群とした。TENSのパルス持続時間および実施時間については、周波数の違い関わらずそれぞれ200μsec、30分とした。圧痛は、金属製の円形プローブ(直径1.1cm)を持つ圧痛計を使用し、円形プローブを第1背側骨間筋の筋腹中央部の皮膚に垂直に当て、一定の強さ(毎秒5ニュートン)で皮膚に押しつけることで発生させた。その上で、対象者が圧痛を感じた時点をPPTとした。圧痛は、10分間隔で60分間(すなわち、TENS終了後も30分間)発生させ、最初に測定されたPPTをベースラインとした。なお、TENSは最初のPPT測定直後に開始した。統計学的分析では、各条件間でのPPTのベースラインからの変化量の比較に多重比較検定を実施した。

結果

 「高周波数・高刺激強度のTENS群」では、「圧痛部位と一致したデルマトーム上に電極を配置する群」と「圧痛部位と圧痛が発生していない部位の両方のデルマトーム領域をまたいで電極を配置する群」の両者において、TENSの開始直後からPPTの大幅な上昇が認められた。この結果は、他の群と比較して統計学的に有意な上昇であった。TENS終了後、後者ではPPTが低下したが、前者ではPPTの上昇はTENS終了後20分まで臨床的に有用と考えられるPPTのレベル(10ニュートン)を維持することが出来た。その他の群では、TENS実施中、TENS終了後ともに臨床的に有用と考えられるPPTの上昇は認められなかった。

考察

 本研究では、「圧痛部位と一致したデルマトーム上に電極を配置する群」と「圧痛部位と圧痛が発生していない部位の両方のデルマトーム領域をまたいで電極を配置する群」のいずれにおいても、「高周波数・高刺激強度のTENS」実施中にPPTが大幅に上昇することが示された。さらに、前者では、TENS終了後も20分間、臨床的に有用と考えられる効果が持続することも示された。その一方で、後者では、TENS終了後10分以内にPPTが急激に低下することも示された。このことに関する詳細なメカニズムは不明であるが、「圧痛部位と圧痛が発生していない部位の両方のデルマトーム領域をまたいで電極を配置して行われるTENS」では、疼痛軽減の促進作用と抑制作用の両方が生み出される可能性が考えられる。 
 本研究では、全ての「低周波数・低刺激強度のTENS群」と「高周波数・高刺激強度のTENS群」であっても「圧痛の発生部位と一致しないデルマトーム上に電極を配置して行われるTENS」では、PPTの明らかな上昇は認められなかった。この所見は、TENSの刺激パラメータとしての「刺激強度」の重要性を強調している可能性がある。

【解説】

 一般に、TENSの疼痛軽減機序には「ゲートコントロール理論(Gate Control Theory:以下、GCT)」と「内因性疼痛抑制機構(内因性オピオイド放出)」の二つが関与しており、前者は主に即効性のある疼痛軽減効果、後者は主にTENS終了後の持続性のある疼痛軽減効果と関連が深いと考えられている[1][2]。さらに、TENSによりGCTや内因性疼痛抑制機構を活性化するためには、刺激周波数や刺激強度、電極配置部位などといったTENSの刺激パラメータを適切に設定することが重要とされている[1][2]。しかし、実際の臨床場面では、TENSの刺激パラメータの設定はかなり曖昧となっているのが現状ではないだろうか。 
 本研究は、TENSの刺激パラメータの内、刺激周波数と刺激強度、電極配置部位(疼痛部位と一致したデルマトーム上に電極配置するか否か)の組み合わせにより、疼痛軽減効果に違いが生じるか否かについて検討したものである。その結果、即効性、持続性ともに最も効果の高かったTENSの刺激パラメータの組み合わせとして、「高周波数(110Hz)」、「高刺激強度(耐えられる最大の強度)」、「疼痛部位と一致するデルマトーム上への電極配置」を挙げている。 
 しかし、本研究で提示されたTENSの3つの刺激パラメータと疼痛軽減効果との関連性については、未だ議論の余地が残されていると見るべきであろう。その理由として、以下のような問題が挙げられる。 
 第一に、刺激強度については、教科書的な観点[1][2]では、本研究のような高刺激強度を用いた場合、内因性疼痛抑制機構が活性化すると考えられる。この場合、本研究結果とは異なり、即効性に乏しい反面、持続性にある程度特化した効果が得られる可能性が高い。TENSによりGCTに基づく即効性のある疼痛軽減効果を期待するならば、刺激強度は「痛み(不快感)を感じさせない程度」とするのが理想的と考えられる。その一方で、TENSの刺激は、皮膚の求心性線維を介した効果ではなく、深部組織の求心性線維を介した効果である可能性も最近指摘されている[3]。この場合は、電気刺激により深部組織にある直径の大きい求心性線維を活性化させるために「十分な強度での刺激」が必要とされている[4]。このように、TENSの刺激強度と疼痛軽減効果との関係は大変複雑であり、統一見解は得られていないのが現状である。 
 第二に、刺激周波数については、教科書的な観点1)では、低周波数(30Hz以下)を用いた場合、即効性はないがTENS終了後の効果の持続が期待出来るとされている。これに対して、高周波数(70~100Hz程度)を用いた場合、即効性はあるがTENS終了後の効果は持続しないとされている。以上を考慮すると、本研究のような高周波数を用いた場合、本研究結果のようなTENS終了後での持続的な効果が得られるのか疑問が残る。これについては、本研究では刺激強度として「高刺激強度」を用いたため、内因性疼痛抑制機構に基づいた持続的な効果が得られた可能性も考慮されるべきであろう。 
 第三に、電極配置部位については、先行研究[5][6]においても本研究と同様に「疼痛部位と一致するデルマトーム上への電極配置」により疼痛軽減効果が得られていることから、本手法を用いることが基本と考えて良いであろう。「疼痛部位と一致するデルマトーム上への電極配置」は、GCTに基づく疼痛軽減の観点からも、最も理にかなった手法であると思われる[4]。しかし、健常例を対象としたTENSに関する基礎的検討では、電極設置部位に関係のない感覚閾値(電流知覚閾値)の上昇も観察されており[7]、電極配置の方法と疼痛軽減効果との間には未解明の複雑な機構が存在する可能性も否定出来ないと思われる。 
 以上のように、TENSについては、未だ不明な点が多く残されており、明確な実施方法が存在しないのが現状である。TENSの刺激パラメータと疼痛軽減効果との関連性については今後も検討が必要であり、エビデンスに基づく実施方法の確立が望まれる。

【参考文献】

  1. 齋藤昭彦:経皮的電気神経刺激(TENS). 物理療法学, 第3版, (網本和, 編), p.146-154, 医学書院, 2008.
  2. Cheng GA, 星野一夫:疼痛コントロール:経皮的電気神経刺激(TENS). 物理療法学テキスト, (細田多穂, 監), p.183-201, 南江堂, 2008.
  3. Radhakrishnan R, Sluka KA: Deep tissue afferents, but not cutaneous afferents, mediate TENS-induced antihyperalgesia. J Pain 6: 673-680, 2005.
  4. 徳田光紀:痛みに対する電気療法. 最新物理療法の臨床適応, (庄本康治, 編), p.138-158, 文光堂, 2012.
  5. Lagas HM, Zuurmond WA, Smith-van Rietschoten W: Transcutaneous nerve stimulation for the treatment of postoperative pain. Acta Anaeth 35: 253-257, 1984.
  6. Hamza MA, White MF, Ahmed HE, Ghoname EA: Effect of the frequency of transcutaneous electrical nerve stimulation on the postoperative opioid analgesic requirement and recovery. Anesthesiology 91(5): 1232-1238, 1999.
  7. 徳田光紀, 庄本康治, 冨田恭治:経皮的電気刺激治療の電極設置部位が電流知覚閾値に与える影響~肩関節術後症例と健常人では反応が異なる~. 日本物理療法学会会誌 19: 49-52, 2012.

2013年03月01日掲載

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