多発性硬化症患者の疲労軽減へのエネルギー保護の治療の効果、システマティックレビューとメタアナリシス

Lyan J.M. Blikman, Bionka M.A. Huisstede, Hedwig Kooijmans, Henk J. Stam, Johannes B.J. Bussmann, Jetty van Meeteren: Effectiveness of Energy-Conservation treatment in reducing fatigue in Multiple Sclerosis: a systematic review and meta-analysis.Archives of Physical Medicine and Rehabilitation (2013), doi: 10.1016/j.apmr.2013.01.025, Epub

PubMed PMID:23399455

  • No.1304-2
  • 執筆担当:
    弘前大学
    医学部保健学科
    理学療法学専攻
  • 掲載:2013年4月1日

【論文の概要】

背景

 多発性硬化症(以下MS)の疲労は、MS評議会のガイドラインによると「身体的あるいは精神的なエネルギーの主観的な不足であり、個人や介護者の通常または行いたい活動を阻害することで知覚される」と定義されている。研究者によるが約8割ないしは2/3のMS患者は、活動制限や社会的役割への参加の制約が疲労から生じていることを主訴とし、QOLに多大な影響を及ぼしている。 
MS患者の疲労の軽減に対するリハビリテーションの介入は、エネルギー保護、身体トレーニング、認知​ 行動療法、多次元多職種介入などがある。MS患者のエネルギー保護の生活指導は作業療法において実践されている。エネルギー保護の介入方法は多様であり、標準化されず、出版物もほとんど無い。作業療法では、疲労マネジメント、エネルギー保護マネジメント(Energy-Conservation Management, 以下ECM)等いくつかの研究報告があるが、対象、期間、介入方法などシステマティックに探索した文献は無い。

目的

 本研究では、MS患者の疲労に対するECM治療の効果をシステマティックにレビューすると共に、QOLや参加の制約に対し、ECM治療の影響についても検討した。

方法

 PubMed、CINAHL、EMBASE、Web of Knowledgeの2012年5月8日までのデータベースから、RCTsやCCTs、MS患者、ECM治療、疲労などをキーワードとして2名の著者が個別に探索し、もう1名がコンサルトし、両者の探索の質を確保した。介入とフォローアップの期間は、3ヵ月以内を短期、6ヵ月以内を中期、1年間を長期とし、ITT解析を行った。メタアナリシスでは平均誤差、95%信頼区間などにより介入効果を、非治療群と比較した。ECM介入による評価指標は、疲労に関してはFatigue Impact Scale; FIS、Modified FIS;MFIS、Fatigue Severity Scale; FSSが使用されているが論文各々により指標は異なっていた。異なるとはいえ、質問紙による主観的な判断という点では共通している。

結果

 重複等を除いた532文献から、適格性等でふるいわけ6文献、494人のMS患者が抽出された。4編がRCTs、2編がCCTs、2003年から2011年に刊行された論文であった。拡大標準障害度評価尺度(EDSS)の値の記載があるものは3編、無いもの3編。6編中2編がメタアナリシス(2RCTs、N=350)を行い、ECMの効果として、平均の差(MD)、95%信頼区間(95%CI)は、FISの認知で(-2.91; -4.32--1.50)、身体で(-2.99;-4.47-1.52)、心理社会で(-6.05; -8.72--3.37)、QOLはSF36を用い、身体(17.26;9.69-24.84)、社会機能(6.91; 1.32-12.49)、メンタルヘルス(5.55; 2.27-8.83)であった。治療介入無しに比べECM治療は疲労の影響の軽減やQOLに明らかなエビデンスを示した。他のアウトカムはエビデンスが限定ないしは無かった。参加制約へのECM治療の影響は、1編の論文のみの結果であるが治療なし群と差は無かった。長期間の介入の論文は無かった。

考察及び結論

 疲労したMS患者について、3ヵ月以内の短期のECM治療は治療無しよりも疲労の影響の軽減においてエビデンスがあることが示された。そして、身体的、社会的機能、メンタルヘルスの3領域のQOLにおいても改善が得られた。参加制約には影響しなかった。しかし、わずかに6編の研究であり、今後もRCT研究をもっと増やし、より長期間のフォローアップ研究が必要である。

【解説】

 MS患者の主症状の一つに易疲労性がある。MSの疲労は一般的な疲労の症状もあるが、MS特有の倦怠感や脱力感なども特徴であり、身体的疲労のみならず、疼痛、疼痛による睡眠不足、うつ状態などの精神心理状態も疲労の悪化に影響する。疲労の軽減に対する治療介入は、薬物も用いられるが、このレビューのようなエネルギー保護管理(ECM)という観点、トレーニングによると持久力、耐久力の向上、認知行動療法などがあり、作業療法はECMの介入効果、理学療法では身体トレーニングへの介入効果が研究されエビデンスがあることが示されている[1]。エネルギー保護管理は、安静と運動のバランスを考慮した生活方法であり、関節リウマチやSLEなどの膠原病の生活指導としてもよく知られている。このレビューでは数ヶ月の短期介入でのエネルギー保護管理は中等度の効果が証明されているが、長期的な効果は研究がなく、今後の課題としている。MS患者へのリハビリ介入は、患者数が日本の約10倍である欧米や北欧のRCT研究などにより、エビデンスが確立しつつある[2]。 
 疲労の研究では評価指標に何を使うかも重要である。このレビューで取り上げられた6つの論文では、FIS、MFIS、FSSなどの質問紙への回答をスコア化してアウトカムとし、介入前後での比較からエビデンスを検討している。トレーニング効果の指標としてのアウトカムにもこれらは用いられるが、歩行距離や心肺機能などの客観的数値が後者のアウトカムとし用いられている。エネルギー保護管理による疲労の研究において、質問紙への回答などの主観的な指標だけでは疲労の影響を軽減することのエビデンスの確立に限界があり、慢性疲労症候群などの研究[3]で用いられている客観的指標等の導入も今後の課題といえよう。

【参考文献】

  1. Bethoux F: Fatigue and multiple sclerosis. Annales de readaptaion et de medecine physique (2006) 49:355-360
  2. Serafin Beer, Fary Khan, Jurg Kesselring: Rehabilitation interventions in multiple sclerosis: an overview. J neurol. (2012) 259:1994-2008
  3. 倉恒弘彦:慢性疲労症候群はどこまでわかったか? 医学のあゆみ 228(6):679-686, 2009

2013年04月01日掲載

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