神経筋疾患患児の身体持久力を評価するための電動アシスト式エルゴメータを用いた6分間サイクリングテスト

MEREL JANSEN, MONIEK DE JONG, HANNA M. COES, FLORIEKE EGGERMONT, NENS VAN ALFEN, IMELDA J.M. DE GROOT: THE ASSISTED 6-MINUTE CYCLING TEST TO ASSESS ENDURANCE IN CHILDREN WITH A NEUROMUSCULAR DISORDER: assisted 6-minute cycling test, Duchenne muscular dystrophy, neuromuscular diseases, physical endurance, validation study Muscle Nerve. 46(4):520-530, 2012.

PubMed PMID:22987692

  • No.1305-1
  • 執筆担当:
    弘前大学
    医学部保健学科
    理学療法学専攻
  • 掲載:2013年5月1日

【論文の概要】

背景

 歩行可能な神経筋疾患(NMD)患児の持久力評価には6分間歩行テスト(6MWT)がよく用いられている。しかし、歩行能力を喪失したまたは喪失間近の患児の持久力を評価する適切なテスト法はない。

目的

 本研究では、近い将来に歩行能力を失うことが予想されるあるいは歩行能力を失ってから間もない患児の持久力を評価する方法として、電動アシストによる上肢(arms-cranking)と下肢(legs-cycling)の6分間サイクリングテスト(A6MCT)を開発し、健常児とデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)患児を対象に、A6MCTの実行可能性、妥当性、信頼性を検討した。

方法

 第1段階(プロトコルの決定);エルゴメータは持ち運び可能で、上肢と下肢それぞれで回転運動が可能であり、電動アシスト機能も備えたKPT Cycla(Kinetic,France)とした。テスト肢位を座位、運動持続時間を6分間、回転数を毎分65回、運動強度の上限を70%HRmaxとし、これらの範囲内で筋力低下が顕著な患児でもテストを完遂できる最大抵抗量を決定するために、DMD男児3人(歩行可能2、歩行喪失1)を対象に予備実験を行った。結果的に、クランクの回転に抵抗をかけると3人とも下肢テスト(legs)と上肢テスト(arms)を完遂できなかったため、最終的にlegsとarmsのプロトコルは、測定肢位は座位、持続時間は6分間、電動アシスト機能(passive mode 1、無負荷の状態でクランクを1分間に7回転させる速度を補助)を用い、回転速度を指定せず被験者に自由なスピードで駆動させることとした。具体的なテスト手順はAppendixに記述されている。
​ 第2段階(健常児での実行可能性、妥当性、信頼性の検討);小学校3校の男子児童99人(平均値;年齢9.9歳、体重35kg、身長1.4m)にlegsとarmsを実施した。うち2校の児童70人には6MWTも実施し、残り1校の児童には2週間後に再度legs(23人)とarms(22人) を実施した。全てのテストで6分間の駆動回数、心拍数(HR)、小児用自覚的運動強度(OMNI Scale;grade 0~10、not tired at all~very,very tired)、不耐性の徴候の有無(過度の筋痛、極度の疲労、めまい、不快感など)を測定・記録した。
​ 第3段階(DMD児での実行可能性、妥当性、信頼性の検討);DMD男児30人(歩行可能18人、車いす使用12人)(平均値;年齢10.5歳、体重45.5kg、身長1.4m)にlegsとarmsを実施した。また、疾患の重症度を反映する運動機能評価(Motor Function Messure;MFM、評価項目数32、結果を96点満点に対する得点率(%)で表す、得点率が高いほど運動機能が保たれている)も実施した。

結果

 健常男児99人中95人がlegsとarmsの両方を完遂できた。4人は時間制約などによりテストを実施できなかった。運動中の回転速度はlegsとarmsで共にほぼ一定に保たれていた。最高心拍数はlegs 161bpm、arms 163bpm、OMNI Scaleはどちらもgrade 0~4(0:not tired at all、4:getting more tired)だった。legsとarmsでの駆動回数(それぞれ 843±82回、778±111回)の間に相関がみられ(r=0.64、p<0.01)、駆動回数と年齢の間にも中等度の相関がみられた(年齢とlegs;r=0.38、p<0.01、arms;r=0.60、p<0.01)。Armsでは身長とも相関があった。6MWTは対象児童70人のうち、転倒または走行した2人を除く68人が完遂し、歩行距離は623±72mだった。最高心拍数は160bpm、OMNI Scaleはgrade3(a little tiredとgetting more tiredの中間)であり、これらはA6MCTとほぼ同程度の値だった。6MWTとA6MCTの値の間には相関がみられた(6MWTとlegs;r=0.58、p<0.01、arms;r=0.65、p<0.01)。A6MCTを再検査した児童(legs 23人、arms 22人)での1回目と2回目の平均値の差はlegs 4±46回(p<0.70)、arms 33±46回(p<0.01、1回目<2回目)であった。しかし、級内相関係数はlegs 0.88、arms 0.89であり、ブランド&オルトマンプロットでどちらも系統誤差は認められなかった。
​ DMD児30人中29人(97%)がlegsを完遂でき、車いすを使用している1人は、股関節屈筋力が不十分でテストを遂行できなかった。29人中27人(93%)のMFM得点率は50%を越えており、MFM得点率が32%と41%だった2人は駆動回数が少なかった(225回未満)。armsは、集中力が持続しなかった2人を除く28人が完遂できた。Legsとarmsの両方で休息と不耐性の徴候はみられなかった。駆動回数はlegs 405±152回、arms 370±120回であり、legsとarmsの駆動回数の間には相関がみられた(r=0.65、p<0.01)。 Legsとarmsの駆動回数は健常児よりも低値(p<0.01)だったが、どちらも駆動速度はほぼ一定に保たれていた。LegsにおけるHRとOMNI scaleのgradeの増加は健常児と同程度だった。ArmsでのHRの最高値は健常児よりも低値だった(p<0.01)。Legsおよびarmsの駆動回数と年齢の間に有意な相関はみられなかった。Legsとarmsの駆動回数は歩行可能群と車いす群の間で差がみらず、MFMの得点率は車いす群(52.8±8.5%)の方が歩行可能群(75.0±9.3%)よりも低値だった(p<0.01)。MFMの得点率とlegsの駆動回数の間に相関(全体ρ=0.65、歩行可能群ρ=0.72、車いす群ρ=0.74、いずれもp<0.01)がみられた。MFM得点率とarmsの駆動回転数の間では車いす群のみで相関(ρ=0.84、p<0.01)がみられた。

考察

 A6MCT(legsとarms)は、健常児と歩行可能な患児だけでなく歩行能力を失った患児も遂行できる電動アシストを利用した最初の持久力テストである。今回、MFMの得点率が50%以上の患児はA6MCTを遂行できることが示された。また、健常児ではA6MCTと6MWTの間に、DMD児ではA6MCTとMFMの間に相関関係が認められ、A6MCTと6MWTおよびMFMとの併存的妥当性が確認された。健常児では電動アシストが不要かむしろパフォーマンスを制限するとも考えられるが、本研究では6MWTでより長い距離を歩行できた児の駆動回数が、より歩行距離が短かった児よりも高値であったことから、A6MCTは健常児における最大下の機能的能力を反映しているといえる。DMD児ではlegsの駆動回数が運動機能の低下と共に減少するため、A6MCTで臨床的変化を長期的に評価し得ることも示された。DMDを対象とする上肢機能評価尺度は、実際的だが感度が低いBrooke scaleしかない。今回、armsと疾患の重症度を反映するMFMの間には車いす群だけで有意な相関がみられたことから、armsはNMDにおける初の上肢機能評価尺度になり得るかもしれない。A6MCT(legs、arms)が最大下の運動強度であることは健常児とDMD児の運動中のHR(160bpm程度)とOMNI Scale(grade6;tiredのレベル)から確認された。また、運動中に休憩した児童・患児はおらず、不耐性の徴候もみられなかったため、A6MCTはDMD児にも安全に実施できる。A6MCTは薬効の臨床試験やADLの能力喪失の時期と関連づけて用いることが期待される。また、今後は呼吸機能との関係やより大きな集団での実行可能性、健常女児の標準値などの検討が必要である。さらに、本テストを行うに当たっては子供らのモチベーションが結果に影響することを念頭に、標準化された励ましの仕方に即してテストを実施することを推奨する。

【解説】

 本論文の著者らは、“No Use is Disuse (NUD) study”1)(歩行可能なあるいは歩行能力を喪失して間もないDMD児に対する上下肢の動的トレーニングの効果と、車いすを常時使用するようになって数年を経過したDMD児に対するアームサポートを用いた上肢の機能的運動の効果を検討する)の研究デザイン等を2010年に報告している。NUD studyの結果はまだ報告されていないが、本論文におけるDMD患児のデータはNUD studyのものであると本文に記されており、本研究論文はNUD study の一環として行われたと推察される。
​ 電動アシストはADL改善のために利用されてきたが、それを評価に導入するという考えは新しい。得られる結果はあくまでも自動介助運動のデータではあるが、抵抗運動や自動運動を持続できないためにこれまでは明らかにできなかった生理的な残存機能とその推移を明らかにすることが期待される。NUD studyのコンセプトはまさにこの点にある。
健常児を対象としたarmsでは2回目に学習効果が認められた。本テスト結果は対象者のモチベーションに影響されるため、DMD患児でも再検査を行い信頼性を明らかにする必要があったと思われる。
​ OMNI ScaleとMFMは本邦ではあまり馴染みがないテスト法である。一般に自覚的運動強度としてBorg Scaleが使用されるが、本研究で使用されたOMNI Scaleは小児のサイクリング用2)であり、この他に歩行・走行用3)も報告されている。小児用OMNI ScaleではBorg Scaleで使用されている“light”、“hard”という語を子供らが使わないことを調査した結果をもとに“tired”という語が使われており、自転車や歩行・走行でのきつさの程度を視覚的に表すイラストも描写されている。MFM4)は、Gross Motor Function ​Measure (GMFM)では適用されていない神経筋疾患に特化した運動機能測定ツールであり、小児だけでなく成人にも適用できる。評価項目数が32個のMFM-32と20個のMFM-20がある。オリジナルはフランス語であり、英語版のユーザーズマニュアルは http://www.mfm-nmd.org/home.aspx で入手できる。

【参考文献】

  1. Jansen M, de Groot IJ, van Alfen N, Geurts ACh.: Physical training in boys with Duchenne Muscular Dystrophy: the protocol of the No Use is Disuse study. BMC Pediatr. 2010 Aug 6;10:55.
  2. Robertson RJ, Goss FL, Boer NF, Peoples JA, Foreman AJ, Dabayebeh IM, Millich NB, Balasekaran G, Riechman SE, Gallagher JD, Thompkins T.: Children's OMNI scale of perceived exertion: mixed gender and race validation. Med Sci Sports Exerc. 2000; 32:452-458.
  3. Robertson RJ, Goss FL, Aaron DJ, Tessmer KA, Gairola A, Ghigiarelli JJ, Kowallis RA, Thekkada S, Liu Y, Randall CR, Weary KA.: Observation of perceived exertion in children using the OMNI pictorial scale.Med Sci Sports Exerc. 2006; 38(1):158-66.
  4. Vuillerot C, Girardot F, Payan C, Fermanian J, Iwaz J, De Lattre C, Berard C.: Monitoring changes and predicting loss of ambulation in Duchenne muscular dystrophy with the Motor Function Measure. Dev Med Child Neurol. 2010; 52(1):60-5.

2013年05月01日掲載

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