キネシオテープ貼付および非貼付における健常成人の等速性の膝機能について

Wong OM, Cheung RT, Li RC.: Isokinetic knee function in healthy subjects with and without Kinesio taping. Phys Ther Sport. 201;13:255-8.

PubMed PMID:23068902

  • No.1308-2
  • 執筆担当:
    弘前大学
    医学部保健学科
    理学療法学専攻
  • 掲載:2013年8月1日

【論文の概要】

背景

 キネシオテープ(以下、KT)はスポーツ障害の予防や障害を持つスポーツ選手のリハビリテーション、スポーツパフォーマンスの向上のために一般的に使用されている伸縮性テープのひとつである。KTとその貼付方法は1973年に加瀬によって初めて紹介され、加瀬は、その作用として大きく分けて「筋機能促進」と「筋機能抑制」の2種類あると述べている。KTは、自然長の50-75%という高い伸張度で貼付すると筋力を向上させ、一方、自然長の15-25%という弱い伸張度で貼付すると筋力を低下させるといわれている。KTの有用性を調査したいくつかの研究では、KTを貼付することで、疼痛の軽減や回転運動の改善、整形外科的疾患や神経疾患を持つ患者の機能的パフォーマンスが促進されたことが報告されている。しかし、限られた文献しかなく、KTの筋パフォーマンスを促進する理論については十分に明らかにはされていない。

目的

 KT貼付と非貼付の条件における膝関節の等速性パフォーマンスの違いを調査することである。

方法

 対象は、事前のサンプルサイズの計算(α= 0.05、検出力= 80%、KT貼付と非貼付間の平均値の差= 5 ± 10 Nm)に基づいて、30名(男性14人、女性16人、平均年齢28.4 ± 4.7 cm、平均体重57.1 ± 11 kg)とした。すべての対象者に筋骨格系疾患や心疾患の既往はなく、また12ヵ月以内に関節痛やそれに関連する症状はなかった。
 対象者全員に等速性膝関節運動を2セッション行うように指示した。そのセッションのうちのひとつは、内側広筋(以下、VM)直上の皮膚にKTを貼付した。KT貼付、非貼付の順序はコイントスによってランダムに決定した。2つのセッションは効果のキャリーオーバーを避けるために最低でも7日間あけて実施した。テストする脚は、利き脚(ボールを蹴る方の脚)とした。
 膝伸展、屈曲の最大筋力をisokinetic dynamometer(Biodex System 4、Biodex Medical Systems Inc.、New York、USA)を用いて測定した。対象者は股関節屈曲角度100°にてシートに座り、膝関節をレバーアームの軸に合わせた。パッドは外果の上方5cmの位置で下腿に取り付け、体幹と大腿はそれぞれ、ベルクロストラップにて固定した。テストにおける膝関節の可動域は0°-100°とした。測定は3種類の異なる角速度(60、120、180°/sec)で、各10往復行った。
 本研究では、ピークトルクおよび総仕事量、ピークトルク到達時間を筋パフォーマンスの評価として使用した。ピークトルクは10往復の試行中の最大筋力の平均値と定義し、総仕事量はテスト全体の筋肉のエネルギー消費量とした。ピークトルク到達時間は、全施行の運動の開始からピークトルク到達までの時間と定義した。ピークトルクと総仕事量は体重により標準化した。
 KTの貼付方法として、対象者に股関節30°屈曲、膝関節50°屈曲の姿勢で背臥位をとらせ、5cm幅のKinesio Texテープを同一検者が対象者のVM上の皮膚に貼付した。KTは筋機能を向上させるために最大張の75%の伸張度により筋の起始から貼付した。なお、KTの貼付はOriginal KT Training Manualによって推奨されているガイドラインに従い、実施した。
 データ解析には、SPSS ver.17 (SPSS Software, Chicago, IL, USA)を使用した。KTの有無および角速度の違いによる影響を調査するために標準化されたピークトルク、標準化された総仕事量、ピークトルク到達時間を反復測定による分散分析(ANOVA)を用いて分析した。有意水準は0.05とした。

結果

 膝伸展ピークトルクでは、KTの有無や角速度の違いによる有意差は認められなかった。同様に膝屈曲ピークトルクでも有意差は認められなかった。さらに、膝伸展および屈曲総仕事量においても、テープの有無や角速度の違いによる有意差は認められなかった。ピークトルク到達時間では、テープの有無と各角速度の間に有意な交互作用が認められた。対比較により、膝伸展運動時のピークトルク到達時間が、KT貼付により全角速度において有意に短縮したことが示された(p < 0.01)。2条件間の膝伸展運動におけるピークトルク到達時間の差は36-101msecであった。しかし、膝屈曲運動におけるピークトルク到達時間はテープの有無で変化しなかった。

考察

 本研究結果より、KT貼付、非貼付間でピークトルクと総仕事量に有意差は認められなかったが、全角速度でKTを貼付することでピークトルク到達時間が有意に短縮した。
​ 末梢神経への刺激は運動野の興奮を促すと報告されており[1]、これにより運動単位の動員が容易となる。すなわち運動ニューロン発火閾値の低下は、皮膚刺激によって誘発される可能性がある。また治療テーピングによるVM上の皮膚の伸張は、刺激範囲直下の筋の反射収縮の誘発によって、特にVMのEMGを増大させると報告されている[2]。これらのことから、KT貼付により触覚刺激と皮膚の機械的受容器へ刺激が加わり、これらの刺激は筋力を向上させるには至らないが、運動ニューロン発火時期を変化させ、ピークトルク到達時間を短縮させた可能性が考えられる。
​ 本研究では、KT貼付により大腿四頭筋のピークトルク到達時間が36-101msec短縮されたことが示されている。臨床的には、特定の筋群のピークトルクの早期発生が怪我の予防や、膝蓋大腿部痛症候群などの筋骨格系のリハビリテーションに有用であると報告されている[3]。KT貼付によるピークトルク発生時間の変化は良好なバイオメカニクスを促進し、患者の症状を改善させる可能性がある。しかしながら、ピークトルクの早期発生とスポーツにおけるパフォーマンスの向上に関連したエビデンスは確立していない。そのため、パフォーマンスの向上を目的としてスポーツ選手にKTを貼付することのエビデンスは、十分とは言い難い。
​ 本研究の限界は、まず、テープ貼付後の即時効果しか評価していないことである。テープのキャリーオーバー効果については検証していなかった。次に、テープの心理的効果を排除するための真のコントロール群またはプラセボテープ群を作らなかったことである。したがって、 KT貼付によって観察された差の要因となるプラセボ効果の可能性を排除できていなかった。3つ目は、テープの伸張度を、臨床に類似させるため、テープ長の測定によって統一したことである。ひずみゲージを用いてテープの伸張度を統一することで、実験設定がより改善される可能性があった。

【解説】

 キネシオテープ(KT)とは、伸縮性テープを皮膚に貼付することで体液の循環を改善させ、自然治癒力を高める効果が期待されるテーピング法である[4]。KTの効果として、筋機能の改善、体液の循環改善、疼痛抑制などが述べられており[4]、このような効果を背景として、スポーツ外傷へどのような影響を及ぼすのかという研究が近年報告されている[5]。
 KTのパフォーマンスに及ぼす影響を評価する方法としては、等速性筋力やジャンプパフォーマンスなどを用いている報告が多い[5, 6, 7]。大腿四頭筋へのKT貼付の効果について、等速性筋力による評価を用いた先行研究では、求心性膝伸展筋力よりも遠心性膝伸展筋力の方が筋力が向上すると報告しているものが多く[5, 6, 7]、ジャンプパフォーマンスにより評価した先行研究では、KT貼付により片脚幅跳びの距離が向上したと報告されている[6]。これらのことから、大腿四頭筋へのKT貼付は、筋に対して高負荷の連続となるスポーツ場面にて、パフォーマンスの向上につながる可能性が考えられる。
 さらに、本研究では内側広筋(VM)へKT貼付した際の、ピークトルク到達時間という新たな筋パフォーマンスに着目しており、筋活動の遅延が因子となる膝蓋大腿部痛症候群などの筋骨格系障害の予防やリハビリテーションに関連して、KT貼付によりピークトルクの早期発生を促す可能性を示した点でも有益な報告といえる。
 しかし、本研究では筋力測定を膝関節の等速性求心性運動のみ実施している。実際のスポーツ場面では、求心性の筋収縮のみならず遠心性収縮を繰り返すため、KTの筋パフォーマンスへの影響をさらに詳細に検討し、障害の予防やスポーツ場面におけるKTの使用の有用性へとつなげるためには、遠心性収縮における、ピークトルク到達時間などの筋パフォーマンスも検討する必要があると考える。また、本研究では、対象者を男女混合としているが、女性はホルモン周期なども筋機能に関係してくるため、男女別の結果を示したり、運動経験を統一し、個々人のKT非貼付時の筋力のばらつきを小さくすることなど、臨床場面やスポーツ場面という目的に合致した対象を選択することできれば、より有益な報告になると思われる。

【参考文献】

  1. Ridding MC, et al.: Changes in muscle responses to stimulation of the motor cortex induced by peripheral nerve stimulation in human subjects. Exp Brain Res. 2000;131:135-43.
  2. Hsu YH, et al.: The effects of taping on scapular kinematics and muscle performance in baseball players with shoulder impingement syndrome. J Electromyogr Kinesiol. 2009;19:1092-9.
  3. Cowan SM, et al.: Delayed onset of electromyographic activity of vastus medialis obliquus relative to vastus lateralis in subjects with patellofemoral pain syndrome. Arch Phys Med Rehabil. 2001;82:183-9.
  4. 吉田一也:キネシオテーピングの理論と基本的貼付方法. 理学療法科学. 2012;27:239-245.
  5. Fu TC, et al.: Effect of Kinesio taping on muscle strength in athletes -A pilot study. J Sci Med Sport. 2008;11:198-201.
  6. Aktas G, et al.: Does kinesiotaping increase knee muscles strength and functional performance? Isokinetics and Exercise Science. 2010;19:149-55.
  7. Vithoulka I, et al.: The effect of kinesio-taping on quadriceps strength during isokinetic exercise in healthy non athlete women? Isokinetics and Exercise Science. 2010;18:1-6.

2013年08月01日掲載

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