脳血管障害患者に対する体幹の付加的エクササイズは体幹機能を改善させる:無作為化比較試験による予備的研究

Verheyden G, Vereeck L, Truijen S, Troch M, Lafosse C, Saeys W, Leenaerts E, Palinckx A, De Weerdt W:Additional exercises improve trunk performance after stroke: a pilot randomized controlled trial.Neurorehabil Neural Repair. 2009; 23: 281-286.

PubMed PMID:18955513

  • No.1311-1
  • 執筆担当:
    首都大学東京
    人間健康科学研究科
  • 掲載:2013年11月1日

【論文の概要】

背景

 脳血管障害患者では,座位バランスや体幹の選択的な活動が障害され、体幹の筋力やパフォーマンスも有意に低下することが示されている。最近の縦断的研究では、脳血管障害後の体幹機能障害とバランス、歩行能力的指標との間の明確な関連が示されている。さらに、入院時に評価した体幹機能は6カ月時のBarthel Indexスコアの最も重要な予測因子となる。片麻痺患者の体幹機能の重要性は明らかであるが、体幹機能障害に対する介入研究は少ない。

目的

 本研究の目的は脳血管障害後の体幹機能障害に対し、座位バランスと体幹の選択的運動の改善を目的とした付加的エクササイズの効果を検証することである。

方法

 対象は片麻痺を有する脳血管障害患者33名とした。研究デザインは評価者を盲検化した無作為化比較試験とし、33名の患者を実験群(n=17)と対照群(n=16)に割り付けた。実験群は、従来のリハビリテーションに加え、10時間の体幹に対する治療(1回30分のセッションを週4回、計5週間)を受け、対照群は従来のリハビリテーションのみとした。
 付加的エクササイズは背臥位と座位における上下部体幹の選択的運動で構成した。背臥位でのエクササイズは、①膝をたてた状態での骨盤の前後方向の選択的な動き、②ブリッジ、③上下部体幹から始まる体幹回旋とした。座位でのエクササイズは、①体幹全体の屈曲と伸展、②腰椎の屈曲と伸展、③股関節を起点とした体幹の前後運動、④体幹の側屈、⑤上下部体幹の回旋、⑥座位での前後歩き、とした。エクササイズは段階的に導入し、反復回数は患者の能力に基づいてセラピストが判断した。
 評価としては、患者の特性として年齢、性別、発症後の期間、麻痺側、Tinettiスケール、Functional Ambulation Category、5週間の理学療法と作業療法の治療セッション数、初期のTrunk Impairment Scale(TIS)スコアを調査した。TISは静的座位バランス、動的座位バランス、体幹の協調性をそれぞれ7点、10点、6点として評価し(TISトータルスコア0~23点)、得点が高いほど体幹のパフォーマンスが良好であることを示す。静的座位バランスの下位項目は、患者が座位姿勢を保持できる場合、足底接地した座位と足を組んだ状態での座位を評価する。さらに、患者は非麻痺側下肢を麻痺側の上に組んだまま体幹を正中で保持することが求められる。動的座位バランスの下位項目は上下部体幹の側屈動作を、体幹の協調性は選択的な上下部の回旋運動を評価する。患者属性の比較には対応のないt検定とカイ二乗検定を用い、治療効果の解析には反復測定による一般線形モデルによって分析した。

結果

 属性や脳血管障害に関するパラメータ、臨床指標、治療セッション数、アウトカムの指標は、2群間で有意差はなかった。治療後では、上下部体幹の選択的な体幹側屈を評価した、TIS下位項目である動的座位バランスのみが対照群よりも実験群で有意な改善を示した(p=.002, post hoc power calculation=.09, effect size=1.16)。他の下位項目あるいはTISトータルスコアでは有意な群間差はなかった。

考察

 本研究から、体幹のパフォーマンス改善を目的とした課題特異的な体幹機能練習が、従来の治療から得られる効果よりも、短期的にTIS動的座位バランス下位項目を改善させるということを示した。5週間の治療によって、実験群の動的座位バランス下位項目の平均値は5.12から8.59に、対照群では6.44から7.69に改善し、トータルスコアからみると改善率はそれぞれ34.7%と12.5%となる。これは実験群では対照群のおよそ3倍の改善を意味している。一方、静的座位バランスと体幹の協調性には有意差がなかった。TIS下位項目の難易度は静的座位バランス、動的座位バランス、体幹の協調性と順に難しくなる。今回の対象は、静的座位バランススコアが治療前からすでにほぼ最高のレベルであった。また、より複雑な体幹の協調性を改善させるためには、トレーニング量(時間)が不十分であったかもしれない。これらのことは、TIS下位項目に階層性があることが関係し、研究結果を説明しうるものと考えられる。
 本研究の限界として、対象者数が少ないこと、患者と治療者が非盲検であるためバイアスが生じた可能性があること、治療前後の評価のみでありフォローアップを設定していないことが挙げられる。これらの課題を踏まえ、我々は本研究で示したような課題特異的かつ明確な治療方法を発展させるためのさらなる努力が必要であろう。

【解説】

 本論文は、脳血管障害後の体幹機能障害に対して、介入群にのみ体幹トレーニングを付加した無作為化比較試験である。文献的かつ臨床的な観点からも、脳血管障害患者の体幹機能は座位や起立といった理学療法において重要な動作に影響する重要な要素である。本論文は、片麻痺患者の体幹のパフォーマンス改善に焦点を当てた数少ない介入研究である。
 実験群の治療内容は従来の一般的な理学療法に加え、背臥位と座位での付加的エクササイズである。結果として、従来の治療のみである対照群に比べ、実験群ではTIS1)の動的座位バランス項目が有意に改善した。本論文のプログラムは、主に上下部体幹の前後傾や回旋の運動で構成されており、特別な機器を用いない、日常診療における汎用性を念頭に思案されていることは臨床的な適用性が高いと考えられる。
 一方、本研究の対象者は静的座位がほぼ獲得され、かつ回旋運動など高次の運動は困難であり、障害や重症度の偏りが読み取れる。Howeら2)は急性期脳血管障害患者に対し、座位と立位での側方重心移動練習の効果を無作為化比較試験により検証している。アウトカムを側方リーチテストで評価した結果,側方重心移動の回復を目的としたプログラムは姿勢調節の改善に効果がなかったと報告している。しかし,この研究では立位での課題遂行が可能な症例を対象にしており、このようなサンプルに対する座位でのトレーニングは、相対的に課題の難易度が低かったことが示唆される。このように、体幹機能障害に対する治療とその効果を検証する場合、治療の適応となる対象者を選定、明確化することが必要であると考えられる。また、本論文では実験群に相当する対照課題を設定しておらず、それゆえ実験条件に比べて対照群では治療を受ける時間が少ないということも議論にあがる。この点に関して、Stack3)は臨床研究におけるプラセボの治療は困難性を示唆されている。今後、治療の時間や頻度、対象者の重症度を統制し、対照課題を設定した研究が期待される。

【参考文献】

  1. Verheyden G, Nieuwboer A, Mertin J, et al.: The Trunk Impairment Scale: a new tool to measure motor impairment of the trunk after stroke. Clini Rehabil, 2004; 18: 326-334.
  2. Howe TE, Taylor I, Finn P, et al.: Lateral weight transference exercises following acute stroke: a preliminary study of clinical effectiveness. Clini Rehabil, 2005; 19: 45-53.
  3. Stack E.: Physiotherapy: the ultimate placebo. Physiother Res int, 2006; 11: 127-128.

2013年11月01日掲載

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