慢性期脳卒中後患者に対するDual-tDCSは刺激下での運動スキルの学習と長期の維持を強化する

Lefebvre S, Laloux P, Peeters A, Desfontaines P, Jamart J, Vandermeeren Y.Dual-tDCS Enhances Online Motor Skill Learning and Long-Term Retention in Chronic Stroke Patients.Front Hum Neurosci. 2013 Jan 9;6:343.

PubMed PMID:23316151

  • No.1311-2
  • 執筆担当:
    首都大学東京
    人間健康科学研究科
  • 掲載:2013年11月1日

【論文の概要】

背景

 運動学習は脳卒中後の回復の重要な要素であるため、運動スキル学習の強化はニューロリハビリテーションにおいて、極めて重要な課題である。経頭蓋直流電気刺激(tDCS)は運動学習を改善させる見込みがあるアプローチである。
 本研究の目的はDual-tDCSの一次運動野(M1)上での両側性の適用が刺激下での運動スキル学習を改善させ、麻痺側手の改善と長期維持をもたらすという仮説を検証することである。

方法

 18名の慢性期脳卒中後患者が参加し、デザインは二重盲検ランダム化クロスオーバー、プラセボコントロールデザインとした。患者は麻痺手を用いた複雑な視覚運動課題を行い、その間、Dual-tDCSとSham(偽)刺激を行った。各セッションの間隔は30分以上とした。課題はコンピュータのマウスと用いてポインタを複雑なサーキットをなるべく早く・正確に動かす課題を行った。スピード/正確さのトレードオフ(二律背反:一方を追及する場合に他方が犠牲となる状態の二者関係)の改善を含んだ学習の指標について算出した。運動のパフォーマンスについてはベースライン・介入後・一週間後に測定を行った。

結果

 Sham刺激の後、8名の被験者においてパフォーマンスの低下を示した。一方で、すべての被験者においてDual-tDCS刺激下での運動スキル学習の量とスピードはSham刺激下のものに比べ、強化されていた。このような優位性は数時間持続した。速度/正確性のトレードオフのシフトについてはSham(n=3)に比べtDCS(n=10)がより一致していた。より重要なことは、1週間後においてDual-tDCS刺激下における強化はSham刺激下学習後(+4%)と比べ、Dual-tDCS刺激下学習後(+44%)においてより大きく長期の維持がもたらされた。改善は未訓練の新しいサーキットや指の器用さについて持ち越し効果が見られた。

結論

 脳卒中後片麻痺患者の麻痺手訓練への一回のセッションのDual-tDCSを使用は刺激下での運動スキル学習を質的・量的に強化し、長期の効果維持と一般化を可能とした。
​ 運動スキルの学習とDualtDCSの併用は脳卒中後のニューロリハビリテーションの改善を約束する。

【解説】

 脳卒中による障害後の脳における運動の反復や学習による脳皮質の可塑性の存在や半球間抑制理論を基盤として、近年、rTMSやtDCSといった非侵襲的な脳刺激が脳卒中後リハビリテーション分野で注目を集めており、臨床での研究も進んでいる。適応症状はうつ・言語障害・パーキンソン症状・上肢麻痺などと多岐にわたる[1][2]
 病巣側の興奮性の促進、非病巣側の抑制を戦略として用いており、さらにその両方を行う方法Dual-tDCSにより、Sham刺激・片側tDCSに比べ、更なるパフォーマンス改善効果をもたらすと報告された[3]
 筆者は研究で慢性期脳卒中後片麻痺患者に対するDual-tDCSの効果を検証し、刺激下でのパフォーマンスの著しい改善、刺激終了直後の即時効果、一週間後の効果の維持、応用課題への汎化効果が見られたとしている。
 非侵襲的脳刺激による脳卒中後後遺症やその他の症状に対する治療効果もしくは治療促進効果に関する報告は近年増加しており、今後、一般的な治療場面への適用の拡大が期待される。一方で脳への直流電気刺激によるパフォーマンス改善効果の機序やrTMSと比べた際のtDCSの刺激特性、さらにtDCSと比べた際のDual-tDCSの刺激特性、つまり刺激範囲の広さから生まれる他の領域(前運動野や感覚野)[4] への刺激の影響やfMRIなどを用いた離れた関連領域への影響[5][6] などについては検討課題として残されており、今後さらなる研究と臨床への安全かつ効果的な運用が期待される。

【参考文献】

  1. Utz KS. et al : Electrified minds: transcranial direct current stimulation (tDCS) and galvanic vestibular stimulation (GVS) as methods of non-invasive brain stimulation in neuropsychology--a review of current data and future implications. Neuropsychologia. 2010 Aug;48(10):2789-810.
  2. Fitzgerald PB et al: A comprehensive review of the effects of rTMS on motor cortical excitability and inhibition.Clin Neurophysiol. 2006 Dec;117(12):2584-96.
  3. Vines BW et al: Dual-hemisphere tDCS facilitates greater improvements for healthy subjects' non-dominant hand compared to uni-hemisphere stimulation. BMC Neurosci. 2008 Oct 28;9:103.
  4. Meehan SK et al: Implicit sequence-specific motor learning after subcortical stroke is associated with increased prefrontal brain activations: an fMRI study. Hum Brain Mapp. 2011 Feb;32(2):290-303.
  5. Kantak SS et al: Rewiring the brain: potential role of the premotor cortex in motor control, learning, and recovery of function following brain injury. Neurorehabil Neural Repair. 2012 Mar-Apr;26(3):282-92.
  6. Stagg CJ et al: Cortical activation changes underlying stimulation-induced behavioural gains in chronic stroke. Brain. 2012 Jan;135(Pt 1):276-84.

2013年11月01日掲載

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