片側の人工膝関節置換術後における非対称な下肢アライメントは前額面上における体幹側屈に影響を及ぼす

Kengo Harato, Hiroki Yoshida, Toshiro Otani:Asymmetry of the Leg Alignment Affects Trunk Bending in the Coronal Plane After Unilateral Total Knee Arthroplasty.The Journal of Arthroplasty 28 (2013) 1089-1093

PubMed PMID:23122876

  • No.1401-2
  • 執筆担当:
    首都大学東京
    人間健康科学研究科
  • 掲載:2014年1月6日

【論文の概要】

背景

 変形性膝関節症(膝OA)は、65歳以上の高齢者の約30%に発症し、膝OAの87%は両側に発症する。高齢者の日常生活は、膝OAによってしばしば制限される。人工膝関節置換術(TKA)は、重度膝OAの効果的な治療として一般的な手術方法であり、TKAにより疼痛は軽減し、可動域が改善する。TKAは膝OAに対する最も効果的な手術のひとつであり、患者の90%は長期的予後が良いとされている。 
 片側のTKA患者を対象とした研究では、前額面上における下肢のアライメントに非対称な変化を生じさせうると報告されている。非対称な下肢のアライメントにおける歩行では、左右下肢への荷重が非対称となるが、これは術後における膝の伸展制限と大腿四頭筋の筋力低下の結果だと考えられてきた。しかし、重度な両側の膝OA患者において、片側のTKA前後における体幹や反対側下肢への影響を調査した報告はみられない。我々の仮説は、両膝OA患者における片側のTKAが、前額面上における体幹の側屈に影響を及ぼすということである。

目的

 本研究の目的は、両側の膝OA患者を対象として、片側のTKAが手術前後における前額面上の体幹側屈に影響を及ぼすのかどうかを明らかにすることである。

方法

 両側の重度膝OA患者20名を対象とした。対象の平均年齢は76歳、Kellgren-Lawrence Scaleはグレード4、両側の膝関節に5゜以上の伸展制限を認めた。股関節または足関節に症状を有する者、脊柱に変形がある者、リウマチ患者、過去に膝関節を手術している者は除外した。
 脊柱と左右下肢のアライメントをX線にて計測した。肩の傾斜は左右肩峰を結んだ線(肩甲帯ライン)と基準線のなす角度、骨盤の傾斜は左右の大腿骨頭中心を結んだ線(骨盤帯ライン)と基準線のなす角度と定義した。基準線は垂直線と直角をなす線とした。前額面上における体幹の側屈角度は、肩甲帯ラインと骨盤帯ラインのなす角度と定義した。肩の傾斜、骨盤の傾斜、体幹の側屈は手術側への偏位を正の値とした。さらに、Femorotibial angle(FTA)を計測した。X線は術前と術後21日で計測した。次に、支持物を使用せずにふたつの体重計の上で5秒間の立位保持を行い、左右下肢への荷重量(%体重)を計測した。荷重量の計測と同時に、膝関節角度と疼痛を計測した。膝関節角度の計測にはゴニオメータを用い、疼痛の計測にはVisual analog scaleを用いた。 
 各パラメータを2回計測し、平均値を算出した。手術前後におけるパラーメータの比較には、Wilcoxon t-estを用いた。

結果

 手術前の屈曲拘縮は、手術側が12.1゜、非手術側が10.3゜であった。手術前における肩の傾斜は竏鈀0.42゜、骨盤の傾斜は0.33゜、体幹の側屈は竏鈀0.75゜と小さく、体幹アライメントはほぼ対称である。片側のTKA後における肩の傾斜は1.75゜、骨盤の傾斜は竏鈀1゜、体幹の側屈は2.75゜と有意に大きな値となった。手術前におけるFTAは、手術側が189.8゜、非手術後が186.2゜であった。手術後はFTAがそれぞれ175.8゜、184.6゜と有意に小さい値となった。 
​ 立位時における術前の膝の屈曲角度は術側が16.6゜、非術側が13.8゜であった。術後の膝の屈曲角度は術側が11.1゜、非手術側が12゜となり、術前と比べ術側のみが有意に小さい値となった。立位時における術前の荷重量は、術側が42.6%、非術側が57.4%であった。術後の荷重量は術側が50.4%、非術側が49.6%となり、術前と比べ術側は有意に大きい値となり、非術側は有意に小さい値となった。疼痛に関しては、術前が68.2、術後は29.2となり術前と比べ有意に小さい値となった。

考察

 本研究の結果は、片側のTKA後に起こる非対称な下肢アライメントが、前額面上における体幹の側屈に影響を及ぼすという我々の仮説を支持した。我々の見解として、本研究は重度の両側膝OA患者に対して、片側のTKA前後にX線を用いて前額面上における体幹の側屈の変化を評価した最初の研究である。膝OA患者の54.6%に腰痛を認めたと過去に報告されているが、腰痛は脊柱の退行性変化による側弯と関連して起こると考えられている。片側のTKA前後における立位時の体幹アライメントの変化は小さいが、その変化でさえ、将来の退行性変化による側弯や腰痛に影響する。なぜならば、TKA後の日常生活において、立位は最も頻繁に行う動作だからである。我々は脊柱の変化を直接計測しなかったが、片側のTKA後は手術側に体幹が側屈するという姿勢の変化を示した。 
 本研究ではTKA前後における膝の屈曲角度、荷重量、疼痛に関しての評価も行った。膝の完全伸展を獲得することは、TKAの最も重要な役割である。術前における立位時の膝屈曲角度は、臥位で行った評価時の値よりも大きい値となった。膝の屈曲拘縮は体幹の運動に影響を及ぼし、非対称な体幹の運動は非対称な下肢のアライメントに付随して起こることが示唆されている。それゆえ、TKAにより膝の屈曲拘縮を改善したことが、体幹の側屈に影響を及ぼす要因のひとつであると考えられる。次に、TKAにより疼痛が有意に減少し、立位時の荷重量が有意に増加した。手術側の荷重量の増加は、膝の伸展可動域の増大や疼痛の軽減と関係しているかもしれない。これらの変化は、立位時における前額面上の体幹アライメントの変化と同様に、非術側のFTAの減少とも関係していると考えられる。 
 過去に、TKA後の非手術側の膝に関する情報の記述を含んでいる報告はみられない。我々の研究では、TKA後の立位時における非手術側のFTAと荷重量の有意な減少、内側関節裂隙の増大が認められた。それゆえ、片側のTKA後早期は、反対側の膝OAにとって有益であると示唆された。

【解説】

 本研究は、両側の重度膝OA患者を対象として体幹の側屈に焦点を当て、片側のTKA前後にX線を用いて体幹の側屈を評価した研究である。体幹の側屈に加え左右下肢のFTAも評価しており、術後の下肢アライメントと体幹側屈の変化について言及している。 
 本研究では、TKA後の非対称な下肢のアライメントにより、手術側へ体幹が側屈したと報告されている。膝関節の屈曲拘縮をシュミレーションして行われた過去の研究では1)、立位や歩行時に体幹は屈曲拘縮側と反対に側屈すると報告された。本研究の結果も同様に、立位時の膝関節の屈曲角度が小さい側へ側屈している。このことは、立位時における膝関節の屈曲角度の違いが、体幹のアライメントに影響を及ぼすことを示唆している。臨床場面においては、左右の膝関節の屈曲角度が異なることで下肢に脚長差が生じ、立位では骨盤の傾斜が生じることで体幹のアライメントに影響を及ぼす。また、TKA後は非手術側の膝関節に屈曲拘縮が存在すると、脚長差が生じることで手術側の膝関節も軽度屈曲位となり完全伸展を妨げる。過去の研究においても2)、一側の膝関節拘縮は対側の膝関節に影響を及ぼすことが報告されており、片側のTKA後は脚長差を考慮して、補高などの対応をする必要があるのかもしれない。また、両側の重度膝OAにおいては、片側のみの手術または両側の手術の違いにより、術後の成績に影響を及ぼすことが考えられる。手術前の膝OA患者を対象とした歩行の分析では3)4)、歩行時に体幹が疼痛側へ側屈すると報告されている。本研究では、手術後21日での評価であるため手術側の疼痛は軽減しているが、手術後の歩行練習などで疼痛を経験することにより体幹が手術側へ側屈したという可能性も否定できない。今後は立位だけでなく、歩行などの動作や非手術側の疼痛も含めたさらなる調査が必要である。

【参考文献】

  1. Harato K, Nagura T, Matsumoto H, Otani T, Yoshiaki T, Suda Y. A gait analysis of simulated knee flexion contracture to elucidate knee-spine syndrome. Gait and Posture. 2008; 28: 687-692.
  2. Harato K, Nagura T, Matsumoto H, Otani T, Toyama Y, Suda Y. Knee flexion contracture will lead to mechanical overload in both limbs : A simulation study using gait analysis. The Knee. 2008; 15: 467-472.
  3. Hunt M.A, Brimingham T.B, Bryant D, Jones I, Giffin J.R, Jenkyn T.R, Vandervoort A.A. Lateral trunk lean explains variation in dynamic knee joint load in patients with medial compartment knee osteoarthritis. Osteoarthritis and Cartilage. 2008; 16: 591-599.
  4. Linley H.S, Sled E.A, Culham E.G, Deluzio K.J, A biomechanical analysis of trunk and pelvis motion during gait in subjects with knee osteoarthritis compared to control subjects. Clinical Biomechanics. 2010; 25: 1003-1010.

2014年01月06日掲載

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