スクワット運動後における内側広筋、外側広筋および中殿筋の定量化MRI:股関節内転および外転運動を複合したスクワット運動の間の比較

Augusto P. Baffa, Lilian R. Felicio, Marcelo C. Saad,Marcello H. Nogueira-Barbosa, Antonio C. Santos, Debora Bevilaqua-Grossi.Quantitative MRI of Vastus Medialis, Vastus Lateralis and Gluteus Medius Muscle Workload after Squat Exercise:Comparison Between Squatting with Hip Adduction and Hip Abduction.Journal of Human Kinetics 2012 ; 33 ,5-14

PubMed PMID:23486653

  • No.1402-2
  • 執筆担当:
    首都大学東京
    人間健康科学研究科
  • 掲載:2014年2月1日

【論文の概要】

背景

 内側広筋および股関節外転筋群は膝蓋骨トラッキングにおいて重要な役割を担っている。先行研究において内側広筋と外側広筋は膝蓋骨を安定させる作用を有している理由から、内側広筋と外側広筋の筋力強化を目的に屈曲角度の少ないスクワット動作を実施している。近年、緩和時間測定法を用いた骨格筋定量化MRIに関する有効性が報告されている。しかし、等尺性股関節内外転を複合させたスクワットエクササイズ時のT2値を用いた骨格筋負荷量を分析した文献はない。

目的

 本研究の目的は、等尺性股関節内外転を複合したスクワットエクササイズ前後の内側広筋と外側広筋および中殿筋のT2値の変化量を比較することである。

方法

 対象は健常女性14名とした。運動課題はスクワット動作、股関節内転を複合したスクワット動作、股関節外転を複合したスクワット動作とし、スクワット動作の膝関節屈曲角度は60°とした。運動課題の回数はスクワット最大反復回数の50%とした。実験のプロトコールは、事前にスクワット最大反復回数を測定した後に、スクワット動作前後のMRI撮像、股関節内転を複合したスクワット前後のMRI撮像、股関節外転を複合したスクワット前後のMRI撮像の流れで測定を行い、各測定間には1週間の期間をあけて実施した。測定項目は、運動課題前後における内側広筋と外側広筋および中殿筋のT2信号強度とし、運動課題前後のT2信号強度の差を筋の仕事量と定義し、算出した。運動課題間のT2信号強度の変化を比較するために混合効果モデルを用いて統計学的検討を行った。

結果

 中殿筋におけるT2変化量は等尺性股関節外転を複合したスクワットにおいて最も高い値を示し、外側広筋のT2変化量は等尺性股関節内転運動において最も高い数値を認めた。

考察

 中殿筋は等尺性股関節内転運動を複合したスクワットにおいて最も少ない筋活動を示し、内側広筋は等尺性股関節外転運動を複合したスクワットにおいて最も低い活動を示した。一方で、外側広筋は等尺性股関節内転運動を複合したスクワットにおいて最も高い活動を示した。これらの結果から、等尺性股関節内転運動を複合したスクワットは動的Q angleの増加を有する対象者にとって適切ではないことを示した。一方で股関節外転を複合したスクワットは膝関節動的Q angleを修正し、膝蓋骨トラッキング異常を予防するスクワットであると考える。下肢インバランスを修正もしくは予防をするために、今後の筋力強化プログラムは等尺性股関節外転運動を複合したスクワット運動を含めて実施していく必要がある。 

【解説】

 スクワット動作は、一般的なリハビリテーションや筋力増強プログラムの一部を担っており、様々な臨床場面において処方されているプログラムである。そのため、スクワット動作に関する研究は数多く存在しており、筋電図学的検討や三次元動作解析装置や床反力測定装置を用いた測定によって検討されている。
 本研究では、MRIを使用して横緩和時間を測定することで筋の仕事量を算出し、異なるスクワット方法での筋の仕事量を比較・検討を行っている。先行研究において、骨格筋の筋活動後にMRIの信号強度に変化が現れる1)ことを報告し、信号強度の変化は筋収縮による筋細胞内外の水分量の変化、筋血流の増加、浸透圧の変化に起因している2)3)4)5)と報告している。スクワット時の骨格筋負荷量を分析するために横緩和時間を用いた先行研究は存在するが、異なったスクワット方法における横緩和時間を用いた骨格筋評価を行ったものはない。その点において、本研究は新規性があり、十分に臨床に活かすことができると考える。
 筆者は、本研究の中で等尺性股関節内転運動を複合したスクワットは動的Q angleの増加を有する対象者にとって適切ではない一方で、股関節外転を複合したスクワットは膝関節動的Q angleを修正し、膝蓋骨トラッキング異常を予防するスクワットであったとしている。しかしながら、本研究で測定した項目はMRIを使用した横緩和時間のみであり、Q-angleなどの下肢アライメント等の測定は実施していない。また、本研究の測定方法はプロトコールに従って実施しており、測定に際して測定課題の無作為化を行っていない。これらの点において、下肢アライメント測定を加えることや測定プロトコールを無作為化するといった方法にすることが望まれる。また、本研究は健常者を対象とした研究であるため、痛みや下肢アライメント異常および筋インバランスを呈する患者を対象として同様の検証を行い、その際の筋仕事量の変化の検証に期待したい。

【参考文献】

  1. Fleckenstein JL, et al.: Acute effects of exercise on MR imaging of skeletal muscle in normal volunteers. Am J Radiol 151: 231-237, 1998
  2. Magnetic resonance imaging and electromyography as indexes of muscle function: Adams,Duvoisin,Dudley J Appl Physiol,1992 73(4) 1578-1583
  3. Polak JF, et al.: NMR of skeletal muscle: differences in relaxation parameters related to extracelluar / intracelluar fluid spaces. lnvest Radiol 23: 107-112, 1988.
  4. Takahashi H, et al.: Change in magnetic resonance images in human skeletal muscle after eccentric exercise. Eur J Appl Physiol 69(5): 408-413, 1994.
  5. Le Rumeur E, et al.: Multiparametric classification of muscle T1 and T2 relaxation time determined by magnetic resonance imaging. The effects of dynamic exercise in trained and untrained subjects. Br J Radiol 67(794): 150-156, 1994.

2014年02月01日掲載

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