関節損傷、スポーツ活動、身体活動、肥満、職業活動は変形性関節症の予測因子であるか?システマティックレビュー

Richmond SA, Fukuchi RK, Ezzat A, Schneider K, Schneider G, Emery CA . Are joint injury, sport activity, physical activity, obesity, or occupational activities predictors for osteoarthritis? A systematic review.J Orthop Sports Phys Ther. 2013 Aug;43(8):515-B19.

PubMed PMID:23756344

  • No.1405-1
  • 執筆担当:
    首都大学東京
    人間健康科学研究科
  • 掲載:2014年5月1日

【論文の概要】

背景

 変形性関節症(Osteoarthritis:OA)は世界中で重要な健康問題とされており、60歳以上の男性10%、女性18%以上が罹患している。縦断研究によると膝損傷(例、半月板損傷やACL損傷)を経験した12-20歳の人々は、変形性膝関節症(以下、膝OA)のリスクが有意に増加すると報告している。さらに、膝と足の傷害は、特異的にOAの早期進行リスクを増加させるという報告もある。
  OAを予防し、医療費の増加を防ぐために、関節損傷、スポーツの特異性、身体活動、体重過多/肥満、職業活動といったものに関連した関節へのダメージに焦点をあてる必要性が増加している。しかし、いまだ変形性股関節症(以下、股OA)・膝OA・変形性足関節症(以下、足OA)の発症に関連した身体の危険因子に関する包括的なレビューはされていない。

目的

 全年齢を対象に、関節損傷、スポーツ活動、身体活動、体重過多/肥満、職業活動を含み、膝・股・足OAの危険因子を特定すること。

方法

 12の電子データベースにてシステマティックレビューを行った。論文検索には以下の選定基準を用いた。(1)原著であること、(2)関節損傷、スポーツ活動、身体活動、体重過多/肥満、職業活動を危険因子としていること、(3)何のOA(股、膝、足)なのかを含んでいること、(4)研究デザインの分析構成がされていること。
  2段階を踏んで論文の特定を行った。まず、3人の独立したレビュアーが、アブストラクトが隠された状態で論文タイトルをレビューした。次に、タイトルから採択された論文のフルテキストを確認し、採択/除外形式を用いて評価し、採択論文の特定を行った。
  全ての研究から一様なデータを抽出するため、構造化形式を用いた。抽出されたデータは、研究デザイン、フォローアップの年数、研究の母集団、OAの結果(定義)、危険因子、結果(データが十分であり効果推定値が報告または計算されているか、95%信頼区間を含んでいるか)を含んだ。ほとんどの研究において1つ以上の危険因子が報告されていたため、各々で関心が持たれた危険因子全てにしたがい分類した(関節損傷、スポーツ活動、身体活動、肥満、職業活動)。適切であった場合、危険因子のメタアナリシスは、ランダム効果モデルに基づき、効果測定(オッズ比:OR)の評価を組み合わせて実施した。

結果

 1294の論文がタイトルのレビューによって採択され、そのうち1229の論文はアブストラクトのレビューの段階で除外された。さらに、フルテキストの段階で22の論文が除外され、最終的に43の論文を今回のレビューで採択した。レビューの結果、関節損傷、肥満、職業活動が膝・股OAのリスク増加と関連していた。
  関節損傷は膝OA(複合OR=3.8、95%信頼区間:2.0-7.2)と股OA(複合OR=5.0、95%信頼区間:1.4-18.2)の有意な危険因子となった。また、ACL損傷の有無に関わらず半月板切除術は膝OAの有意な危険因子となった(複合OR=7.4、95%信頼区間:4.0-13.7)。
  肥満は膝OA(OR=1.6-15.4)、股OA(片側および両側の股OA、OR=1.6-2.2)の危険因子であり、BMIが増加するほどリスクが増加した。
  職業活動は膝OA(OR=1.3-5.4)の危険因子となった。職業の内容としては、重量物の持ち上げ、スクワット(立ち上がり動作)、膝立ち、窮屈な空間での仕事、階段昇り、床上活動、高い身体能力を必要とするなどである。また、股OAの危険因子として、男性では階段昇り(OR=2.4)、女性では重量物の持ち上げ(OR=2.4)がリスクを増加させた。また、3つまたはそれ以上の身体ストレス(持ち上げ、かがみ、振動道具の使用など)があると両側の股OAのORは2.8、片側の股OAのORは2.4になるとしている。
  足OAに関連した危険因子を調べた研究は少なく、今回のレビューでは2つの研究のみであった。

考察

 関節損傷、肥満、職業活動が膝・股OAのリスク増加と関連していた。個々のOAリスクを早期に特定することは、理学療法マネージメントの機会や、リスクに関連した動きを修正するための介入を提供できることになる。理学療法士は、大きな負荷をどのように避ければいいのか、そして適切な身体力学の重要性を含め、関節傷害の進行と仕事との関係を患者に教育することによって、予防していく役割がある。今後は、前向きコホート研究のような質の高い研究論文が必要である。

【解説】

 本レビューはOAの危険因子が何であるのかを特定するために行われたものである。結果、関節損傷(の既往)、肥満、職業活動が膝・股OAのリスクを増加させる危険因子として示された。
  OAは本邦でも患者数の多い疾患である。OAの疫学調査をみると、股OAを対象に行ったものは少なく、本邦における有病率は1.0-2.4%であると報告されている1),2)。また、膝OAを対象に行ったものでは、Yoshimuraら3)によるものがあり、本邦のX線で診断される有病者数(40歳以上)は、2530万人(男性860万人、女性1670万人)と報告されている。また、Muraki4)はX線上変化を認めるOA潜在患者のうち、男性で1/4、女性で1/3が痛みを伴うと報告しており、この結果から有症状有病者数は約800万人であると推定されている。足OAについての本邦での疫学調査については渉猟した限り見当たらなかった。
  以上の報告からもわかるように、潜在的なOA(特に膝OA)を含めた有病者数は非常に多く、OAの予防・マネージメントは非常に重要なテーマである。OAを予防・マネージメントするためには、本レビューで示されたような、関節損傷の既往、肥満、仕事の内容といったものに注意をする必要がある。つまり、我々理学療法士の持つ役割としては、関節損傷(ACL損傷や半月板損傷)を予防し、肥満に対する警笛を鳴らし、仕事時の動作について負担のかかりにくい動作の指導を行うといったことである。関節損傷の予防については多くの論文が存在し、様々な報告がされているので参照していただきたい。仕事時に気を付けるべき動作としては、本レビューで報告されているものの他に、Murakiら5)による報告がある。具体的には、1日あたり2時間以上立つ(OR=1.97)、3キロ以上歩く(OR=1.80)、1時間以上坂道を上る(OR=2.24)、週一回以上10キロ以上のものを持ち上げる(OR=1.90)などがリスクを増加させる仕事内容であり、逆に座ることの多い仕事ではリスクが低いと報告されている(OR=0.73)。
  これらの予防・マネージメントには根拠に基づいた指導が不可欠であり、本レビューも参考にしながら具体的な数値をもって取り組んでいくべきである。また、足OAに関連した危険因子を調べた研究は少ないため、今後さらなる検討が必要となるであろう。

【参考文献】

  1. Yoshimura N, Campbell L, Hashimoto T, et al:Acetabular dysplasia and hip osteoarthritis in Britain and Japan. Br J Rheumatol. 1998 Nov;37(11):1193-1197.
  2. Inoue K, Wicart P, Kawasaki T, et al:Prevalence of hip osteoarthritis and acetabular dysplasia in french and japanese adults. Rheumatology (Oxford). 2000;39(7):745-748.
  3. Yoshimura N, Muraki S, Oka H, et al:Prevalence of knee osteoarthritis, lumbar spondylosis, and osteoporosis in Japanese men and women: the research on osteoarthritis/osteoporosis against disability study. J Bone Miner Metab. 2009;27(5):620-628.
  4. Muraki S, Akune T, Oka H, et al:Association of occupational activity with radiographic knee osteoarthritis and lumbar spondylosis in elderly patients of population-based cohorts: a large-scale population-based study. Arthritis Rheum. 2009 Jun 15;61(6):779-86.
  5. Muraki S, Oka H, Akune T, et al:Prevalence of radiographic knee osteoarthritis and its association with knee pain in the elderly of Japanese population-based cohorts: the ROAD study. Osteoarthritis Cartilage. 2009 Sep;17(9):1137-1143.

2014年05月01日掲載

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