脳卒中後におけるLateropulsionの回復過程の2つの評価スケールの感度について

Clark E,Hill KD,Punt TD.Responsiveness of 2 Scales to Evaluate Lateropulsion or Pusher Syndrome Recovery After Stroke.Arch Phys Med Rehabil Vol 93,January 2012

PubMed PMID:22200395

  • No.1406-2
  • 執筆担当:
    首都大学東京
    人間健康科学研究科
  • 掲載:2014年6月2日

【論文の概要】

背景

 Lateropulsionは、Davisによって最初に報告され、あらゆる姿勢において麻痺側に傾倒し、姿勢の他動的な修正に対し抵抗する現象である。またLateropulsionのない患者と比較して、退院時の機能水準がより低く、入院期間が長期化することが報告されている。そのためLeteropulsionの早期の診断は重要であり、臨床においては、継時的な変化に対する感度や簡便に使用可能な信頼性と妥当性のあるツールは重要である。尚、このような現象の表現は、Pusher syndrome、Ipsilateral pushing、Listing phenomenonなど論文によって異なるが、本稿ではLateropulsionと定義した。
 Lateropulsionの評価スケールに関するシステマティックレビューにおいて、Burke Lateropulsion Scale(以下BLS)は信頼性・妥当性のあるツールとして示されている。BLSは、寝返りのような難易度の低い課題から、歩行のような難易度の高い課題で構成されているため、Laterorulsionの詳細な評価が可能であるが、介入の効果や継時的変化を評価した研究は少ない。一方、脳卒中後の姿勢制御を評価するためのスケールとして、Postural Assessment Scale for Stroke(以下PASS)は信頼性・妥当性のあるツールとして報告されている。PASSは、歩行が困難な重度のLateropulsionを呈した症例であっても、ベッド上動作のような難易度の低い課題から構成されているため、Lateropulsionを呈した症例において有用であるかもしれない。

目的

 本研究の主要な目的は、Lateropulsionの継時的変化に対するBLSとPASSの感度を調査することである。また2つ目の目的は、Lateropulsionの出現率、出現に関連のある脳損傷部位、退院時の転帰、入院期間を調査することとした。

方法

 対象は、16ヶ月の期間において2ヵ所のリハビリテーション病院に入院した脳卒中患者160例のうち入院後5日内にスクリーニングでLateropulsionあり(BLS>2)と診断された43例(Lateropulsion群)とした。また脳損傷部位や退院時の転帰、入院期間の差を検証するため、Lateropulsionのない(BLS<2)年齢・性別が一致した43例(コントロール群)を選定した。除外基準は、姿勢に影響を及ぼす可能性のある運動器疾患や脳卒中の既往を有するものとした。
 BLSとPASSは、入院後10日以内(初回評価)に測定し、2週間毎に繰り返し実施した。評価はトレーニングされた8名のPTが行い、対象患者の主担当者は評価に含まなかった。
 BLSとPASSにおける、入院時・2週目・4週目のそれぞれの変化は、一元配置分散分析を用いた。スケールの感度は、入院から4週目・8週目の評価時点を、standardized response mean (以下SRM)を用いて分析した。またLateropulsionの出現率、主要な脳損傷部位、退院時の転帰、入院期間をコントロール群と比較した。

結果

 160例の患者のうち、43例(26.9%)がLateropulsionを示した。BLSとPASSは共に入院時、2週目、4週目のそれぞれにおいて有意な変化を認めた(P<0.001)。また初回評価から4週目と8週目の時点で感度が高かった(BLS SRM=1.48と2.24、PASS SRM=1.76と1.87)。Lateropulsion群は、コントロール群と比較し、有意に自宅退院の割合が少なく、入院期間は2倍を要した。脳損傷関連領域は2群において差がなかった。

考察

 本研究によりBLSとPASSは共に、Lateropulsionの継時的変化に対する感度が高いことが明らかとなった。また2週毎の測定時期において有意な変化を示し、4週目に高いSRMを示したことは、リハビリの早期の段階で使用が期待される。さらに、それらは少なくとも8週目時点で入院期間が長期化した重症例においてもまた、感度が高いことが示された。今後BLSとPASSは、前向きな研究において、Lateropulsionに対する継時的変化や介入効果を測定するツールとして有用であることが示唆された。
 本研究の限界は、BLSの使用に関して、評価者のトレーニング次第によってバラつきがあることや、それぞれの対象者において1名の評価者が継続して実施したことである。今後の調査では、評価者間での誤差を最小限にする必要があるかもしれない。またコントロール群のデータは、診療禄から後方指摘に調査されたことも本研究の限界である。

【解説】

 本論文は、Lateropusionを呈した患者に対して、BLSとPASSの継時的変化の感度を調査した最初の報告である。これまでLateropulsionの評価は、Scale for Contraversive Pushing(以下SCP)が主流であったが、近年、D Aqila1)によって開発されたBLSに関する論文も増加しつつある。Krewer2)らはLateropulsion症例の短期的な介入研究においてSCPではなく、BLSにおいて有意な改善を認めたことを報告している。一方PASS3)は、項目毎に介助の程度を段階的に点数化されるため、たとえADLが全介助であったとしても、動作の微細な変化を捉えられるという利点がある。BLSとPASSは、Lateropulsionの回復を鋭敏に捉え、今後、シングルケースデザインやRCTデザインにて介入効果に関する研究が期待される。
 一方、本論文においてLateropulsionの出現率は26.9%であり、従来の報告の出現率と比較して高い傾向にあった。また従来の脳関連領域として報告されていなかった脳幹や小脳病変も含まれている。Karnarth4)は、脳幹や小脳病変すなわち前庭脊髄路系の障害に伴うLateropulsionは生起メカニズムが異なるため、Davisらの報告したLateropulsionとは明確に区別する必要があることを指摘している。したがって、これらの現象の回復過程も異なる可能性が懸念されるため、今後は区別して継時的変化を調査することが望まれる。

【参考文献】

  1. D Aquila M,Smith T,Organ D,Lichtman S,Reding M.Validation of a lateropulsion scale for recovering from stroke.Clin Rehabil 2004;18:484-91
  2. Krewer C,Riess K,Bergmann J,et al.Immediate effectiveness of single-session therapeutic interventions in pusher behaviour.Gait Posture 2013;37:246-250
  3. Benaim C,Perennou D,Villy J,Rousseaux M,Pelissier J.Validation of a standardized assessment of postural control in stroke patients:the Postural Assessment Scale for Stroke Patients(PASS).Stroke 1999;30:1862-8
  4. Karnarth HO.Pusher syndrome--a frequent but little-known disturbance of body orientation perception.J Neurol 2007;Apr;254(4):415-24

2014年06月02日掲載

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