運動療法の種類と量が変形性膝関節症による疼痛と能力障害に与える影響:無作為化比較試験のシステマティックレビューとメタ回帰分析

Juhl C, Christensen R, Roos EM, Zhang W, Lund H: Impact of exercise type and dose on pain and disability in knee osteoarthritis: a systematic review and meta-regression analysis of randomized controlled trials. Arthritis Rheumatol. 2014; 66(3):622-636. [Epub ahead of print]

PubMed PMID:24574223

  • No.1501-1
  • 執筆担当:
    鹿児島大学医学部
    保健学科理学療法学専攻
  • 掲載:2015年1月9日

【論文の概要】

背景

 これまでのランダム化比較試験のシステマティックレビューにより、変形性膝関節症(膝OA)に対する運動療法は疼痛や能力障害の改善に有効であることが報告されている。しかし、最も効果的の高い運動療法の種類等は明らかになっていない。その背景には、臨床研究に用いられる運動療法の種類(有酸素運動、筋力トレーニングなど)や、負荷量、時間が異なることや、対象者の年齢や重症度などが異なることが挙げられる。

目的

 本研究の目的は、メタ回帰分析を用いて、膝OAの疼痛と能力障害を改善するために最も効果的な運動療法の種類、負荷量、介入の期間・時間、1週間あたりの介入回数を明らかにすることである。

方法

 2012年5月までに発行された論文を対象とし、PubMed、OVID、EBSCO、PEDro、Cochrane Central Register of Controlled Trials から検索した。論文の採用基準は、片側もしくは両側の膝OAを有する症例を対象としたランダム化比較試験とし、疼痛と能力障害をアウトカム評価とした。対象者の特性として年齢、BMI、性別、ケルグレン・ローレンス(Kellgren/Lawrence、K/L)グレード、膝関節の疼痛、アライメント異常の程度を抽出した。また、運動療法については、管理された介入の回数、介入時間・期間、運動の種類(有酸素運動、筋力トレーニング、パフォーマンストレーニング、複合トレーニング)、1週間あたりの介入回数、運動強度を分析した。なお、複合トレーニングとは、1回の介入において有酸素運動、筋力トレーニング、パフォーマンストレーニングの複数を組み合わせて実施したものとした。
 メタアナリシスは変量モデルとし、比較指標には標準化した平均値の差(standardized mean difference、SMD)を用いた。SMDは0.2を効果量小、0.5までを効果量中、0.8以上を効果量大と判断した。メタ回帰分析を用い、患者特性や運動療法のプログラムが効果量に与える影響を分析した。

結果

 採用された論文は48であり、総対象者数は4028名であった。対象者の平均年齢は64.3歳(55.2-73.8歳)であり、75%が女性(26-100%)であった。介入前の疼痛は29.1(疼痛なし0-100に変換)、K/Lグレードは1が12.3%、グレード2が46.4%、グレード3が33.5%、グレード4が7.8%であった。
 ほとんどの報告で、運動療法で疼痛(SMD 0.50、P < 0.001)と能力障害(SMD 0.49、P < 0.001)の改善が認められた。運動療法の効果について否定的な論文のほとんどは、複合トレーニングを用いた介入であった。運動療法の種類の比較では、有酸素運動(疼痛SMD 0.67、能力障害SMD 0.56)、レジスタンストレーニング(疼痛SMD 0.62、能力障害SMD 0.60)、パフォーマンストレーニング(疼痛SMD 0.48、能力障害SMD 0.56)のいずれでも類似した効果が認められ、3者に有意な差を認めなかった(疼痛 P=0.733、能力障害 P=0.968)。
 有酸素運動、筋力トレーニング、パフォーマンストレーニングのうちいずれかの単一のトレーニングを用いた場合のSMDは、疼痛0.61、能力障害0.58であった。3種類すべての含んだ複合トレーニングによるSMDはそれぞれ0.16、0.22であり、2種類以上のトレーニングを含んだ複合トレーニングでは、それぞれ0.45、0.36であった。単一のトレーニングによる介入で効果量が有意に大きかった(疼痛 P<0.001、能力障害 P=0.002)。
 有酸素運動による介入効果は、対象者の特性による明確な影響を認めなかったが、介入回数が増加するにしたがい、有意に疼痛のSMDが増加した(slope 0.022、P=0.036)。筋力トレーニングについては、下肢筋全体に対する介入(疼痛SMD 0.39、能力障害SMD 0.36)よりも、大腿四頭筋のみを対象とした介入(疼痛SMD 0.85、能力障害SMD 0.87)の方が、効果が高かった(疼痛P=0.005、能力障害 P=0.029)。一方、対象者の特性や、運動強度、介入期間等は筋力トレーニングの効果に影響を与えなかった。
 3種類のうち単一のトレーニングを用いた場合、週2回以下の介入(疼痛SMD 0.41、能力障害SMD 0.33)よりも週3回以上の介入(疼痛SMD 0.68、能力障害SMD 0.67)の方が有意に疼痛(P=0.017)と能力障害(P=0.017)の改善度が大きかった。

考察

 膝OAに対する最適な運動療法として、1回の介入は、有酸素運動、筋力トレーニング、パフォーマンストレーニングのいずれか一つで構成するべきであり、効果を最大限にするためには、週3回は実施する必要があると考えられた。また運動療法の効果は対象者の特性を受けにくいことが示された。
 筋力トレーニングは筋原線維タンパク質の反応を活発化するのに対し、有酸素運動はミトコンドリアの増加を促す。1回の介入でこれらの2種類のトレーニングを行うと、両者の反応が減弱することが報告されている。そのため複合トレーニングの効果が1種類の運動で構成されるトレーニングよりも改善度が低かったと考えられる。
 運動療法による疼痛の軽減は主にゲートコントロールやエンドルフィンの分泌促進によるものと考えられるが、これらの効果は介入量に依存すると考えられた。

【解説】

 本研究は、メタアナリシスを用いることにより、4000名の膝OA患者を対象とする介入結果から、最適な運動療法の種類や介入量について検討したものであり、理学療法士にとって貴重な情報と考えられる。
 本研究では、対象者の特性による運動療法の効果の差は認められなかったとされているが、今回の検討には、対象者の特性として介入前の筋力や筋持久力、パフォーマンス能力が含まれていない。この点については今後のデータの蓄積が期待される。
 他のシステマティックレビューでは、体重負荷を伴う筋力トレーニングよりも、体重負荷を伴わない筋力トレーニングの方が疼痛軽減の効果が高かったと報告されている1)。また、ホームエクササイズの有効性も指摘されている2)。実際の介入では、症例の状況に応じてこれらの情報を参考にしながら、運動療法プログラムを検討する必要があると考えられる。

【参考文献】

  1. Tanaka R, Ozawa J, Kito N, Moriyama H: Efficacy of strengthening or aerobic exercise on pain relief in people with knee osteoarthritis: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Clin Rehabil. 2013; 27(12):1059-71.
  2. Roddy E, Zhang W, Doherty M: Aerobic walking or strengthening exercise for osteoarthritis of the knee? A systematic review. Ann Rheum Dis. 2005; 64(4):544-548

2015年01月09日掲載

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